抄録
幼苗期におけるイネの耐塩性程度は,塩ストレス下における光合成維持能力と関係がある.本研究では,葉身へのナトリウムイオン(Na+)集積に対する光合成維持能力を,切り取ったイネ葉身(切断葉)を用いて調査する方法について検討した.幼苗期における耐塩性程度が異なるイネ13品種の切断葉に50mM塩化ナトリウム溶液を吸収させ,光合成速度と蒸散速度の変化を調査した.光合成速度は,葉身Na含有率の増加が3~5mg g-1までは,蒸散速度の低下とともに低下した.しかしながら,葉身Na含有率がそれ以上増加すると,蒸散速度はほぼ一定の値で推移したにもかかわらず,光合成速度はさらに低下した.光合成速度は,葉身Na含有率が3~5mg g-1までは主に気孔閉鎖によって低下し,それ以上のNa含有率では気孔閉鎖以外の要因によってさらに低下したと考えられた.葉身へのNa+集積に対する光合成の維持能力には品種間差異があることが確認され,この能力の高いことが幼苗期の耐塩性に大きく影響していると考えられた.また,葉身Na含有率の増加に対する光合成維持能力の品種順位は,切断葉と無傷の植物で同じであった.切断葉を用いることによって,イネ幼植物の耐塩性程度を短時間で調査できることが示された.