抄録
塩ストレスがイネの登熟に及ぼす影響を明らかにするために,塩ストレスによる収量の低下程度が異なるとされる2品種(Kala-Ratal 24とIR28)を供試し実験を行った.植物は砂耕により育成し,登熟初期および中期に塩水潅滌(150mM NaCl)と1次技梗切除処理を組み合わせた処理を行った.塩ストレス下における強勢穎花と弱勢穎花の玄米の乾物増加,登熟期の全地上部の乾物生産および出穂前貯蔵物質の穂への見かけの転流量を調査した.登熟期間中の乾物生産は,塩水潅流によって抑制された.玄米の乾物増加は,登熟中期に玄米への乾物供給が一時的に不足したため遅延したが,その後茎葉部から穂への乾物の転流の増加によって補償され,回復した.登熟完了時の穎花乾物重には,塩水潅?組こよる抑制はほとんど見られなかった.玄米の乾物増加の遅延は,1次枝梗切除処理を行わなかった植物の弱勢穎花で著しかった.1次枝梗切除処理によって1穎花当たりの乾物供給を増大させた植物では,塩水潅派によって玄米の乾物増加は抑制されなかった.また,玄米の乾物増加に遅延が見られた植物においても,塩水潅流終了後に乾物が十分に供給されると登熟完了時の玄米乾物重は回復した.これらのことから,玄米自体の生長ポテンシャルおよび転流過程のうち同化産物の輸送は,塩ストレスによって阻害されなかったと考えられた.乾物が一時的に玄米に供給されなくなった原因として,塩ストレスによる糖代謝の抑制が示唆された.