水稲品種コシヒカリ,越路早生およびキヌヒカリを同様の肥培管理で栽培して得られた1988年から1994年の生育データを用いて,稈長の年次変動とそれに関与する要因を解析した.コシヒカリや越路早生では,成熟期の稈長は穂首分化期頃の葉面積指数(LAI)と有意な正の相関関係が認められ,短稈性の遺伝特性を有するキヌヒカリにおいても比較的高い正の相関関係が認められた.そして,稈長の増大には,下位節間の伸長増大が関与していると推測された.穂首分化期頃のLAIに対する稈長の回帰直線の傾きには,品種間差が認められた.コシヒカリや越路早生の回帰直線の傾きは,それぞれ11.4cm/LAIと16.1cm/LAIであったが,いずれもキヌヒカリ(5.3cm/LAI)よりも明らかに大きく,下位節間や稈の伸長に対するLAIの影響はキヌヒカリの方が低いという結果を得た.また,穂首分化期頃のSPAD値と成熟期の稈長との間にも正の相関関係が認められたが,その傾向はキヌヒカリよりもコシヒカリや越路早生の方が明瞭であった.つぎに,穂首分化期頃のLAIの年次変動要因を検討したところ,LAIは窒素吸収量の差異を反映したことによると推察された.そして,穂首分化期頃のLAIは水田湛水前約1ヶ月間の春期の積算降水量と関連し,降水量が少ない年には乾土効果発現量が多く,その結果土壌窒素供給量が増加し,穂首分化期の葉面積指数を増大させた可能性が強く示唆された.