抄録
暖地における早播きした秋播性コムギ「イワイノダイチ」の穂の発育過程と小穂数,小花数,粒数,1粒重,1穂粒重等の穂の諸形質との関係を標準期播き,および春播性コムギ「チクゴイズミ」との比較を通じて解析した.1穂小穂数はイワイノダイチがチクゴイズミより多かった.この原因としてイワイノダイチはチクゴイズミより播種期から1穂小穂数が決まる頂端小穂形成期までの期間が長かったことが考えられた.1穂小穂数と播種期の間には明確な関係が認められなかった.1小穂小花数はイワイノダイチがチクゴイズミより少ない傾向が認められた.この原因としてイワイノダイチはチクゴイズミより小花の形成に重要な頂端小穂形成期から開花期までの期間が短かったことが示唆された.これらの結果,イワイノダイチはチクゴイズミより1穂小花数が多かった.1穂粒数はイワイノダイチがチクゴイズミより1998年播きでは多かったが,1999年播きでは少なかった.これは1999年播きではイワイノダイチの稔実率が低かったためであった.また,1穂粒数は播種期が早いほど少なかった.以上のように早播きしたイワイノダイチの穂の諸形質はチクゴイズミや標準期播きとは異なる場合があり,その中には穂の発育過程との関連が示唆される場合もあった.しかし,穂の諸形質は互いに負の関係となることが多く,1穂粒重には品種や播種期による明確な差異は認められなかった.