抄録
バレイショの塊茎形成は日長に左右され,短日条件は促進的に働き,長日条件は反対に阻害する.筆者らは塊茎形成を引き起こす塊茎形成物質として,バレイショの葉からチュベロン酸とそのグルコシドを単離した.一方,ジベレリンは塊茎形成を強く阻害し,その減少が塊茎形成の必要条件であることが知られている.したがって直接的に塊茎形成を引き起こすのは,植物体内で生じたチュベロン酸類の増加とジベレリンの減少であると考えられる.チュベロン酸はジャスモン酸(JA)の酸化物の一つであり,JAもまた強いバレイショ塊茎形成活性を示した.JAは表層微小管の配列方向の変化,細胞内のショ糖蓄積による浸透圧の増加及び細胞壁多糖類の合成促進を介して細胞肥大を促進し,それにより塊茎形成を引き起こす.JAはまたナガイモやキクイモの塊茎形成,及びダイズの茎の伸育停止にも関与していることが判明した.更にJAやチュベロン酸などのJA類は,タマネギやニンニクの鱗茎形成,巻きひげのコイル形成,二年生植物の貯蔵根の形成とロゼット型の維持,及び花粉の発育などの様々な形態形成にも関わっていることが示唆されている.JAは遊離のリノレン酸から合成され,12-oxo-PDAまでの生合成経路の前半部の代謝は色素体で行われると考えられている.また植物体内のJA含量は傷害によって急速に増加し,それによって様々な防衛反応が生じることも知られている.