抄録
コムギと数品種の水稲種子に播種前吸水と乾燥を経験させるハードニング処理を行い,乾燥土壌下における出芽率,吸水力を示す種子の水ポテンシャル,貯蔵デンプンの低分子化と成長基質としての可給態化に重要な種子α-アミラーゼ活性を調査した.処理したコムギ,水稲種子では圃場容水量24%の乾燥土壌下での発芽が向上した.コムギ農林61号の種子の水ポテンシャルは,ハードニング処理区では-7.2MPa,対照区では-4.8MPaで,処理により有意に低下した.また,浸透ポテンシャルは,乾燥土壌に播種12時間後において,処理区では-12.7MPa,対照区では-7.8MPaで,処理により有意に低下した.しかし,水稲日本晴では処理による種子の両ポテンシャルへの明確な影響はなかった.ハードニング処理種子のα-アミラーゼ活性は,乾燥土壌への播種後12時間までに,農林61号では非処理種子の2.7倍,日本晴では2.8倍となり,コムギと水稲の両植物でハードニングによりα-アミラーゼ活性の増加が認められた.また,その他の日本産水稲および乾稲を含む朝鮮半島在来品種種子をハードニング処理したところ,乾燥土壌下での出芽率が高まると共に,播種前α-アミラーゼ活性も非処理種子に比べ増大し,最大8.3倍に達した.これらのことから,ハードニング処理による乾燥下の発芽・出芽の向上には,播種前吸水によるα-アミラーゼ発現の早期活性化が関与していると推察された.コムギにおけるハードニング種子の播種後の浸透ポテンシャルの低下は,このα-アミラーゼの早期活性化と関連があると思われたが,水稲のハードニング種子では浸透ポテンシャルの低下は起こらないことより,それ以外のメカニズムでα-アミラーゼがハードニング効果に貢献している可能性が考えられた.ハードニング処理による吸水と再乾燥によって酵素活性が発芽直前の状態に保留されているために,播種後の吸水によって発芽が促進されると考察した.