暖地の水稲湛水直播栽培において打込み点播機を用いた土中点播栽培は,耐倒伏性や登熟性に優れることから,窒素吸収様式を改善し,総籾数を増加させることにより収量性の向上が図られることが示唆されている.本報告では点播栽培における総籾数の増加による収量性の向上を達成することを目的として,緩効性肥料を用いた後期重点型の施肥の効果について検討を行った.慣行的な施肥を行った点播水稲は,移植水稲に比較して分げつが旺盛となり,最高分げつ期が早まるとともに幼穂分化期までの葉面積指数や乾物重が大きくなった。このために,栄養生長停滞期(ラグ期)の窒素吸収が低下し,同様の施肥を行った移植水稲に比較して1穂籾数の減少が著しく,総籾数の減少にともなう減収を生じた.一方,点播水稲に後期重点型の緩効性窒素施肥を行った場合には,生育初期の肥効が低いために分げつ速度が小さくなるとともにラグ期が短くなり,移植水稲に類似した生育を示した.また,ラグ期の窒素吸収が増大したために幼穂分化期の窒素吸収量の増加により総籾数が増加し,移植水稲と同等の収量性を示した.さらに,点播水稲はこのような施肥を行った場合でも移植水稲と同等の安定した耐倒伏性を示すとともに,玄米窒素含有率の増加も生じなかった.以上のことから,耐倒伏性や登熟性に優れる点播栽培では,施肥法の改善により移植栽培と同等の収量性および安定性を有する良質米生産が可能になると推察された.