日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
71 巻, 3 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
  • 寺内 方克
    2002 年71 巻3 号 p. 297-307
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    サトウキビの生産量は栽培面積の拡大によって増加してきた.しかし,生産性の改善は他の作物に比べて遅れており,収量とスクロース含有率の向上が必要とされている.そこで,世界と日本における生産の現状とサトウキビ発展の鍵となる遺伝資源について由来と現状を紹介する.また,サトウキビの生理・生態的特性を整理し,乾物生産特性改善およびスクロース含有率向上のための問題点を示す.さらに,スクロース蓄積生理研究の現状を整理するとともに,分子生物学的なアプローチによる生理研究の情勢について紹介する.
  • 佐々木 良治, 柴田 洋一, 鳥山 和伸
    2002 年71 巻3 号 p. 308-316
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水田内の田面の高低が,直播水稲の初期生育に及ぼす影響を3ヶ年調査した.供試圃場(1ha)は,平均標高±5cm以内に98%以上の地点が,±2.5cm以内にも89%以上の地点が含まれ良好な均平度であった.草丈は田面の高低の影響を受けやすく,平均標高±3cmないし±2cm以内の地点であっても田面の標高と負の相関関係を示した.分げつは低位節ほど出現率が低く,年次間では1999年が低い傾向を示した.1998年は平均2.5cmの水深であったが,田面の高低の影響は第2,3節分げつ(T2,T3)にとどまった.一方,平均5.9cmの水深であった1999年は,第3,4節分げつ(T3,T4)であっても田面の高低の影響を受けることが多く,平均標高±3cmないし±2cm以内でも田面が低い地点ほど分げつ出現率は低かった.ただし,田面の標高と分げつ出現率との相関係数は有意の場合でも0.338~0.664であったことから,他の要因を検討したところ,湛水開始時の葉齢のわずかな差異が関与したと推察された.次に,T2やT3の出現率の中央値で全地点を2分し,苗立密度と個体当たり最高茎数との回帰式を比較したところ,出現率が高いグループであっても最高茎数は多い傾向を示さなかった.また,両年ともT2が出現した個体であっても,T2の第1節からの2次分げつT21が出現した個体割合は0~26%と低かった.これらのことから,T2やT3由来の2次分げつの出現が抑制される傾向にあったと推測された.
  • 三王 裕見子, 富沢 洋平, 真野 ゆう子, 大川 泰一郎, 平沢 正
    2002 年71 巻3 号 p. 317-327
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    湛水直播栽培した水稲の乾物生産特性を検討するために,湛水直播栽培しても倒伏しにくいタカナリを用いて1999~2001年の3年間にわたって湛水直播栽培し,乾物生産とこれに関係する要因を慣行移植栽培した水稲と比較した.湛水直播水稲は1999年には散播湛水直播,2000,2001年には代かき後落水して点播(1株1本)し,株密度はそれぞれ42.0,51.3,51.3株m-2であった.慣行移植水稲の株密度は1999,2000年には22.2株m-2,2001年には17.5株m-2でいずれも1株3本であった.湛水直播水稲は,3ヵ年とも慣行移植水稲に比較して単位面積当たり穂数が多く,穎花数が著しく多いにもかかわらず,乾物生産量が多いことによって登熟歩合,千粒重は低下せず,その結果,子実収量が高かった.湛水直播水稲の乾物生産量が多くなったのは,ほぼ全生育期間を通じて個体群生長速度(CGR)が大きいことによっていた.湛水直播水稲のCGRが大きかった要因として,1)生育初期は茎数の増加が大きいことによって,葉面積指数(LAI)の増加が大きくなって,個体群の受光率が大きくなったこと,そして2)幼穂形成期以後はLAIが大きいこととそれにもかかわらず,葉身がより直立し吸光係数が小さいことによって,純同化率が低下しなかったことがあげられた.さらに,湛水直播水稲は冠根数が多く,生育初期から出穂期までの間,および登熟期間中の窒素蓄積量が多く,登熟期の下位葉の緑色程度を高く維持しており,このことも乾物生産の高いことに関係している可能性が考えられた.
  • 吉永 悟志, 竹牟 礼穣, 脇本 賢三, 田坂 幸平, 松島 憲一, 下坪 訓次
    2002 年71 巻3 号 p. 328-334
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    暖地の水稲湛水直播栽培において打込み点播機を用いた土中点播栽培は,耐倒伏性や登熟性に優れることから,窒素吸収様式を改善し,総籾数を増加させることにより収量性の向上が図られることが示唆されている.本報告では点播栽培における総籾数の増加による収量性の向上を達成することを目的として,緩効性肥料を用いた後期重点型の施肥の効果について検討を行った.慣行的な施肥を行った点播水稲は,移植水稲に比較して分げつが旺盛となり,最高分げつ期が早まるとともに幼穂分化期までの葉面積指数や乾物重が大きくなった。このために,栄養生長停滞期(ラグ期)の窒素吸収が低下し,同様の施肥を行った移植水稲に比較して1穂籾数の減少が著しく,総籾数の減少にともなう減収を生じた.一方,点播水稲に後期重点型の緩効性窒素施肥を行った場合には,生育初期の肥効が低いために分げつ速度が小さくなるとともにラグ期が短くなり,移植水稲に類似した生育を示した.また,ラグ期の窒素吸収が増大したために幼穂分化期の窒素吸収量の増加により総籾数が増加し,移植水稲と同等の収量性を示した.さらに,点播水稲はこのような施肥を行った場合でも移植水稲と同等の安定した耐倒伏性を示すとともに,玄米窒素含有率の増加も生じなかった.以上のことから,耐倒伏性や登熟性に優れる点播栽培では,施肥法の改善により移植栽培と同等の収量性および安定性を有する良質米生産が可能になると推察された.
  • 大江 真道, 三本 弘乗
    2002 年71 巻3 号 p. 335-342
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    深水処理を実用的な生育制御技術として現行の水稲栽培体系に組み込むには,処理の適期を確定することが重要である.本実験では生育制御のための深水処理の適期を確定するために,分げつ期に4つの深水区(A区:分げつ開始期~分げつ盛期,B区:分げつ初期後半~最高分げつ期直前,C区:分げつ盛期~最高分げつ期,D区:最高分げつ期直前~節間伸長始期,水位:処理時の完全展開葉葉鞘先端の3cm上,処理期間:16日間)を設定した.深水処理の効果は時期によって異なり,早期と後期の処理(A,B,D区)では弱小分げつの出現抑制の効果は劣り,有効茎歩合は大きく高まらなかった.しかし,C区では,対照区(水深約5cm)に比べて有効茎歩合が26ポイント高まり,また,穂長と1穂重の増大も認められた.倒伏に関連する稈基部の二つの伸長節間の直径は,B~D区で対照区よりも太くなったが,挫折強度は必ずしも高まらなかった.特にD区では,両節間とも対照区に比べて20%太くなったが,その強度はそれぞれ20%,24%低下した.この低下は破生通気腔の発達によるものと考えられた.以上の結果から,分げつ盛期から最高分げつ期が弱小分げつの抑制に効果的な深水処理時期で,また収量性の向上にも貢献することから生育制御の適期と考えられた.しかし,その前後の時期は生育制御の効果が小さく,特に後期の処理では節間の挫折強度が劣ることから考えて倒伏抵抗性が低下する危険性も示唆された.
  • 田澤 純子, 松尾 和之, 臼木 一英, 山本 泰由
    2002 年71 巻3 号 p. 343-348
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    根粒非着生ダイズの収量性および窒素吸収特性を家畜糞連用圃場において検討した.この圃場は,7ヵ年(本試験を含む)にわたり,192,384,576,768,960kgN/haの乾燥牛糞施用,無肥料および化学肥料施用の7処理を継続して行った.根粒非着生ダイズの子実収量は,乾燥牛糞施用量が384kgN/haまでは直線的に増加するものの,それ以上の施用水準での収量増は認められず,最大子実収量は3.6t/haであった.窒素吸収量も子実収量の反応に準じるが,最大子実収量が得られた処理では250kgN/haであった.過去7ヵ年の試験期間中に栽培された8作物の窒素吸収量を比較すると,ギニアグラスが1番草,2番草合計で300kgN/haと最も高く,非着生ダイズがこれに続いた.しかし,ギニアグラス植物体中の硝酸態窒素濃度は極めて高く,家畜飼料としての利用は困難な水準であった.これに対して非着生ダイズでは開花始期および最大繁茂期には硝酸態窒素濃度が飼料基準を上回ったが,収穫時には子実や英では検出されず,茎についても非常に低い値を示したに過ぎなかった.これらの結果,家畜糞還元畑のような窒素過多圃場での窒素回収において非着生ダイズが優れた能力を有し,硝酸態窒素も問題にならず飼料的利用が可能であることが示され,畜産経営系内での物質循環を考える上でも有用であることが明らかとなった.
  • 和田 卓也, 大里 久美, 浜地 勇次
    2002 年71 巻3 号 p. 349-354
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    極早生から晩生までの主要な8品種を用いて,1999年の登熟期間中の高温,寡照が米の食味と理化学的特性に及ぼした影響について検討した.1999年産米は登熟期間中の気温,日照時間がともに平年並みであった1996年および高温で日照時間が平年並みであった1998年産米と比較して,千粒重は軽く,粒厚2.0mm以上の玄米の割合は低く,米粒の充実が不良であった.理化学的特性は,アミロース含有率,ブレークダウンは低下し,タンパク質含有率,テクスチャー特性値のH/A3が増加していた.1994年以降の各年次の千粒重とアミロース含有率は正の相関が認められ,1995年以降の各年次の千粒重とタンパク質含有率には負の相関が認められた.このことから,米粒の充実が不良であると,アミロース含有率は減少し,タンパク質含有率は増加すると考えられ,1999年産米の理化学的特性の特徴は,主として寡照の影響により米粒の充実が劣ったためと考えられた.その結果,1999年産米は,1996年産米及び1998年産米に比較して食味も低下したものと推察された.
  • 庵 英俊
    2002 年71 巻3 号 p. 355-360
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    アミログラムの最高粘度が高い良質コムギを収穫する目的で,北海道の秋播コムギにおける登熟期の子実水分,積算気温とフォーリングナンバー(FN)値の推移を調査し,収穫期を的確に判定する方法について検討した.出穂期からの積算気温(日平均気温の積算値)とコムギ粉の粘度が上昇する時期のFN値との間に,生産年次や圃場を越えて有意な正の相関関係が認められた.この関係を用いることにより,FN値が300sec以上に到達する時期を推定することができた.また,北海道内数ヵ所において,本推定法の適合性を検討したところ,予測精度が非常に高く,実用性が確認された.本推定法の活用によって,良質コムギの収穫が可能と考えられた.
  • 間野 吉郎, 村木 正則, 小松 敏憲, 藤森 雅博, 秋山 典昭, 高溝 正
    2002 年71 巻3 号 p. 361-367
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    主に日本とアメリカから取り寄せたトウモロコシ自殖系統について,種子の冠水抵抗性と幼植物における耐湿性の検定条件を検討すると共に,それらの系統変異を調査した.種子を25℃で8日間浸漬させた後の発芽率で評価した種子の冠水抵抗性には,供試した46系統で明瞭な系統間差異が認められた.幼植物を2週間にわたって湛水処理を行い,地上部乾物重の対照区比で評価した幼植物の耐湿性は,供試した223系統において幅広い連続変異を示し,いくつかの耐湿性の強い系統が見出された.両形質の反復間の相関係数は,冠水抵抗性で0.415,耐湿性で0.464といずれも5%水準で有意であり,再現性が認められた.トウモロコシの種子の冠水抵抗性と幼植物の耐湿性は有意ではなく,両者は異なるメカニズムによるものと見られた.
  • 姜 始龍, 森田 茂紀, 原田 二郎, 山崎 耕宇
    2002 年71 巻3 号 p. 368-375
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    日印交雑稲の根系における分枝根形成について,生育段階に着目して検討した. 日印交雑稲2品種(密陽23号と水原258号)および日本型稲2品種(日本晴とコシヒカリ)の合計4品種を大型ポットを用いて土耕栽培した.登熟期に根系を含めた株全体を丁寧に採取し,それぞれの主茎のファイトマー別に冠根と分枝根の数,直径,長さを測定した.また,これらのデータを利用して,それぞれの品種における冠根1本当たりの根量の指標として総分枝根数,総根長,総根表面積および総根体積を,ファイトマー別に推定した.その結果,日印交雑稲の冠根1本当りの根量は,幼穂分化期以降に形成された第9・第11ファイトマーのとくに下位根において日本型稲より大きいことと,これは主に細い3次根の増加によることが明らかとなった.細い3次根が多いメカニズムについて検討したところ,密陽23号は第9ファイトマーと第11ファイトマー,水原258号は第9ファイトマーにおいて,太い2次根が日本型稲より著しく長いこと,また,太い2次根の密度や細い3次根の密度が大きいことが深く係っていることが分かった.以上の結果を総合すると,本研究で用いた日印交雑稲において幼穂分化期以降に形成された冠根1本当りの根量が大きいのは,太い2次根の長さと密度が大きいこと,細い3次根の密度の増加に伴って細い3次根量が大きいためと考えられる.このように,日印交雑稲は細い3次根を日本型稲より多く形成することによって,効率的に根の長さや表面積を拡大していた.
  • 横山 知紗, 津田 誠, 平井 儀彦
    2002 年71 巻3 号 p. 376-382
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    塩ストレス条件下のイネ収量を改善するために,植物成長調節物質の葉面散布によって塩ストレスに対する1穂穎花数(SN)の反応がどう変わるかを調べた.塩ストレスによってSNが減少する水稲品種IR28をポットで土耕栽培し,穎花分化始期から出穂期まで3段階の塩水(塩化ナトリウムで50,100,150mM)および水道水で湛水する区,これらに0.5mMのインドール酢酸(IAA),カイネチンおよびジベレリン(GA3)を葉面散布する区,また同じ期間に40%から85%の日射量制限する区を設けた.対照区は水道水湛水し,植物成長調節物質の散布および日射量制限を行なわない植物とした.塩水湛水では退化穎花と内外穎に形態異常のある穎花の増加,日射量制限では退化穎花のみの増加にともないSNが低下した.塩水湛水の植物にGA3を散布すると退化穎花数は減少したが,GA3散布独特の形態異常が起こり,SNは低下した.地上部における穎花分化始期から出穂期までの乾物重増加の抑制にともない出穂期の穂乾物重(Wp)は低下し,SNはWpの低下に比例して低下したが,両者の関係は塩水湛水,GA3散布および日射量制限で異なっていた.IAAとカイネチン散布の影響は,観察されなかった.以上の結果から,塩ストレスは穎花の退化とともに内外穎の形態異常を起こすためSNを大きく低下させることが分かった.またGA3散布は退化穎花数を減少させるので,塩ストレス下のSN制御にGA3を使用する可能性があると示唆された.
  • 森田 茂紀, 阿部 淳
    2002 年71 巻3 号 p. 383-388
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    根系の生理的活性を評価するための指標として出液速度を利用することを前提に,水田で栽培した水稲の出液速度に関する基本的な特性について検討した.茎葉部を除去した株について継時的に出液速度を測定したところ,処理直後から減少を始めた.そこで,毎回新しい株について出液速度を調査したところ,午前中にピークをもつ緩やかな山型の日変化パターンを示すことが確認できた.この日変化パターンを踏まえて,午前中に測定した出液速度の生育に伴う推移を検討したところ,出液速度は生育に伴って徐々に増加し,出穂期頃ピークに達した後,急激に減少していた.そこで「出液速度=根量×単位根量当たりの生理活性」と考えて考察を進めた.すなわち,ファイトマー数と冠根数との間に比例的な関係が認められることを利用して,累積葉数からファイトマー数を推定し,出液速度をファイトマー数で割ったものを,単位根数当たりの生理的活性の指標と考えた.その結果,出液速度/ファイトマー数も出穂後急激に減少していたのは同じであるが,株当たりの出液速度の場合と異なり,出穂前の比較的早い時期から徐々に減少が始まっていた.このように,単位根数当たりの生理的活性は早期から減少を始めるが,それ以上に新しく出現する冠根の数が増加していくため,株当たりの出液速度は出穂頃まで徐々に増加する.出穂期前後に冠根の出現が終了すると,根系を構成しているすべての根の老化が進むため,株当たりの出液速度も急激に減少すると考えられる.
  • 松島 憲一, 田坂 幸平, 吉永 悟志, 脇本 賢三
    2002 年71 巻3 号 p. 389-393
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲直播栽培におけるツマグロヨコバイ,ウンカ類の防除法の一つとして,イミダクロプリド剤(アドマイヤー水和剤)を酸素発生剤(カルパー粉粒剤16)と混和被覆した種子を使用することが有効である.本報では被覆時の混和方法が出芽へ及ぼす影響や打込み式点播播種機での播種時における被覆剤の剥離程度について調査した.被覆3日後に播種した場合の最終出芽率をみると,過乾燥,標準乾燥条件では薬剤の有無・混和方法による大きな差はみられなかったものの,有意ではないが簡易混和区では出芽率が低い傾向にあった.無乾燥条件では薬剤無混和種子に比ベイミダクロプリド剤混和種子の出芽率が低く,そのなかでも簡易混和種子が最も低かった.一方,被覆10日後に播種した種子の場合では過乾燥および標準乾燥種子において薬剤混和による出芽率の大きな低下はみられなかったが,無乾燥条件の種子では薬剤混和による低下が明らかにみられ,薬剤混和被覆種子の出芽率が対照に比べて一律に低い結果となった.一方,被覆剤の剥離率は,全層混和で大きく,簡易混和の場合で小さくなった.また,過乾燥条件の種子で剥離が大きかった.以上の結果,酸素発生剤とイミダクロプリド剤を水稲種子に混合被覆する場合は,全層混和もしくは標準混和の場合では出芽への障害が出にくいことが分かつた.また,1週間以上の貯蔵を要する場合は被覆後に十分乾燥させることにより障害を防止することができることが分かった.しかしながら,出芽の良かった全層混和・過乾燥条件で剥離が多くなったことから,現時点では標準混和被覆種子を標準乾燥条件で使用することが良いと思われる.
  • 神田 英司, 鳥越 洋一, 小林 隆
    2002 年71 巻3 号 p. 394-402
    発行日: 2002/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲冷害早期警戒システムにおいて東北全域の水稲の生育監視に適用する幼穂および玄米の主な発育ステージを予測するモデルを作成した.これらのモデルは日平均気温10℃以上の有効積算気温を用いて気象被害予測,栽培管理の支援に必要な発育ステージを推定するものである.幼穂の発育モデルは,幼穂形成期を起点として花粉母細胞分化期,減数分裂期,花粉内容充実期,出穂期を推定するものであり,日平均気温18~26℃の温度勾配温室でポット栽培した主稈を対象とした有効積算気温に,圃場の群落を構成する株内の主稈と他の茎の出穂変異を加味して作成した.玄米の発育モデルは出穂期から乳熟期,糊熟期,黄熱期,成熟期を推定するものであり,1998年と1999年の盛岡における東北の基幹12品種の各発育ステージの到達日から有効積算気温を決定した.本モデルを用いて2000年の盛岡で栽培した12品種の出穂期および成熟期の予測精度を検証したところ,推定誤差はそれぞれ1.2日,2.1日であった.また,宮城県,山形県の農家圃場における出穂期と成熟過程の予測精度は比較的高かった.さらに既報の主稈葉齢進度モデルに幼穂と玄米の発育モデルを組み合わせて幼穂形成期,出穂期で切り替えて利用することにより,活着後から成熟期までの発育ステージを予測することも可能であった.
feedback
Top