2018 年 42 巻 3+ 号 p. 181-
人間の視覚系には,照明環境によらず物体の正しい色を認識することができる色恒常性という性質が備わっている.親しみのある物体に対しては色恒常性が働きやすくなることが先行研究で示されているが,未知の物体への認知過程をふまえていない.本研究では,折り紙を用いて実験刺激を作成し,被験者に予め一部の実験刺激を1週間以上の期間毎日観察してもらうことによって熟知させる認知過程を加えた.その上で,照明色や物体に対する熟知性によって色恒常性へどのような影響が生じるのか調べた.実験には波長可変LED光源を用いて,昼白色を基準として等色差になるような照明4色を,黒体放射軌跡方向(黄,青)とその直交方向(緑,赤)に設定し,合計5色の照明下でエレメンタリーカラーネーミング法を用いて実験刺激の色の見えの応答を行った.結果は,等色差でも照明色によって色恒常性が働きやすい色と働きにくい色があり,緑色照明下では最も色恒常性が働きにくかった.また,短期間でも事前観察を行うことによって色恒常性が高くなる傾向があった.以上より,色恒常性の働きやすさは,照明色,物体の両面において被験者の経験に影響を受けることが示唆された.