2020 年 44 巻 3+ 号 p. 207-
色覚異常を持つ人は色に関する過去の苦い経験や,色使いにおける不安により,アートに関わりにくいという仮説を立てることができる.本研究では「色覚異常を持つ人でも自由にアートに関われるようにする」という最終目標を掲げ,まず,現状を把握するため,アンケート形式とインタビュー形式による色覚異常の人のアートへの関心度調査を行った.対象者は色覚異常を持つ人と一般色覚の人であり,アンケートでは,アートの制作歴,アート鑑賞歴,関心のあるアート制作,関心のあるアート鑑賞,小中学校時代の図画工作および美術の授業の嗜好,他の色覚特性の人の色の見えへの関心度を調査した.インタビューでは,実際に経験したことなど,アンケートでは聞き取りにくい質問を行った.色覚異常を持つ人は,色彩を主として用いるアートに関しては,明らかな関心度の低さを示し,色に関する過去の苦い経験や不安が原因のひとつとなっていることが判明した.すなわち,色覚異常の人がアートに関わりにくい状況が生まれており,色覚に関する正しい知識の社会的認知の重要性と,色覚異常を持つ人でも自由にアートに関われる環境づくりが今後の課題として示された.