日本臨床腸内微生物学会誌
Online ISSN : 2759-1484
宿主の食物繊維摂取割合と腸内細菌叢のLPS生合成経路の関連性
本川 正三増山 博昭
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キーワード: 食物繊維, 腸内細菌叢, LPS
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2023 年 25 巻 1 号 p. 30-37

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抄録

ヒトが摂取する食物中の栄養素のうち,食物繊維は主に共生する腸内細菌によって代謝される。この腸内細菌の菌体成分の一つに,宿主であるヒトの体内で炎症を制御する作用を有するLipopolysaccharide(LPS)がある。本研究は,食事中の栄養素のバランスによって腸内細菌叢のLPS生合成がどのように変動するのか調査することを目的として,摂取した食物中の食物繊維の割合と腸内細菌のLPS生合成経路の関連性を調査した。本研究は,シンバイオシス・ソリューションズ株式会社の腸内細菌叢検査・分析サービスを利用した被検者のうち,書面またはWEB上でインフォームドコンセントを得られた罹患中の疾病がない被検者927人を対象に行った。摂取した食物中の食物繊維の割合は,食物摂取頻度調査Food Frequency Questionnaireに基づいて,食物繊維の摂取(エネルギー換算)量のタンパク質,脂質,糖質,及び食物繊維の総和に対する相対的な割合として算出した。 LPS生合成経路は,大便検体からメタ16S rRNA遺伝子解析を行い,PICRUSt2で腸内細菌叢におけるLPSの生合成経路の存在比として予測した。腸内細菌叢のLPSの生合成経路の存在比は,標準体重の被検者よりも肥満の被検者で高かった。LPSの生合成経路の存在比とタンパク質,脂質,及び糖質の摂取割合との関連性は検出されず,食物繊維でのみ摂取割合との関連性が検出された。しかし,body mass index(BMI)カテゴリー別の被検者群において,食物繊維の摂取割合によるLPS生合成経路の存在比の有意な低下が検出されたのは標準体重群のみであり,低体重群,前肥満群,及び肥満群の腸内細菌叢のLPS生合成経路の存在比に食物繊維の摂取割合による有意な差はなかった。本研究の結果から,腸内細菌叢のLPS生合成には摂取した食物中の食物繊維の割合が関連しているが,その影響は宿主のBMIカテゴリーによって異なる可能性が示唆された。

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© 2023 日本臨床腸内微生物学会
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