認知科学
Online ISSN : 1881-5995
Print ISSN : 1341-7924
ISSN-L : 1341-7924
文献紹介
スキルの熟達過程に関する最近の研究についての紹介
市川 淳
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 25 巻 3 号 p. 351-357

詳細
抄録

本稿では,スキルの熟達メカニズムを議論したRensselaer Polytechnic Institute のGray, W.D. らの研究グループによる論文を3 つ紹介する.彼らは,課題の成果であるパフォーマンスの特徴的な変化として,プラトー,低下,そして後の急激な向上(以下,飛躍と呼ぶ)を挙げる.プラトーとは,パフォーマンスが一時的に横ばいになり停滞することである.これらの現象は,一般的な学習の研究でベンチマークとされてきたベキ法則で説明することが困難であることを示した.さらに,プラトーや低下,後の飛躍の期間には,新たな方略の導入といった次の熟達段階に向けた重要な変化が起こっていると主張する. 1 つ目は総説論文である.パフォーマンスが最高水準に到達し,向上がゼロに近づく状態とプラトーとの違いを議論している.前者は人がもつ能力としての限界で,後者は方略が最適ではないことによる,乗り越えられる「偽りの限界」を示す.2 つ目の論文では,両者の違いを前提として先行研究を取り上げ,プラトーや低下をデータから確認したうえで,回顧録に基づいて実験協力者がどのような過程を経て,プラトーや低下を脱してパフォーマンスを飛躍させたかについて議論している.そして,3 つ目の論文では,近年,注目される機械学習を用いてモデルベースからスキルの熟達過程を検討している.動的な状況において意思決定が要求されるコンピュータゲーム,テトリスを課題とする.この論文は直接的にプラトーや低下,後の飛躍を扱っていないが,展望としてこれらをモデルベースで議論することを挙げている.3 つ目の論文はExtended abstract としてまとめた. パフォーマンスのプラトーや低下,後の飛躍は,熟達に向けたキーポイントである.挫折や苦悩を乗り越えた経験に基づく言葉の裏付けになるかもしれない1) .本稿では末尾に関連すると思われる文献をいくつか挙げた.この紹介を通して,スキルの熟達過程に関する研究に興味を持っていただけると幸いである.

著者関連情報
© 2018 日本認知科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top