抄録
本研究は、当院で運転評価を行った脳損傷後の患者が運転適性検査の受検をしたか否かについて明らかにするとともに、当院の運転評価システムにおける講義の有用性について後方視的に明らかにすることを目的とした。当院の運転評価システムでは、面接による運転歴、運転ニード聴取からはじまり、講義、神経心理学検査、停車時実車評価、ドライブシミュレーター評価、有効視野検査、状況により実車評価、最終判断、事後の電話調査からなる。特に講義では道路交通法などの説明、適性検査の手続き方法などを講義した。調査方法は、診療記録の中から事後調査まで終了した患者を抽出し、1.適性検査の認識の有無、2.当院での運転評価の最終判断の結果、3.適性検査の受検の有無とその理由、4.運転の継続の有無、5.講義の有用性についての質問(3段階:役に立った、普通、役に立たなかった)についての情報を後ろ向きに調査した。対象は、上記運転評価システムを全て終了した35名であった。調査した結果、全例が適性検査の存在を知らなかった。また、適性検査の受検者は26名であり、その全員が本評価にて運転を控えるべきとはいえないと助言を受けていた。さらに、適性検査では26名全員合格していた。一方、適性検査の未受検者は9名であり、全員が運転を継続していなかった。受検未受検の理由について、それぞれ2つのカテゴリ(病院からの勧め・知識の獲得、他者からの気づき・自分での気づき)が抽出された。講義についての返答結果は、役に立ったが32名、普通が2名、役に立たなかったが0名であった。本結果から、特定の疾病罹患後の運転再開に関する手順の認知度はまだまだ高いとは言えず、道路交通法の改正された情報から障害を持って運転をすることで起きやすい症状など医療機関などから丁寧な説明をすることは適正検査への受検に有用であることが示唆された。また、講義などで患者に起こりうる不利益について説明することは受検率を上げる効果があることが推察された。