日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
15 巻, 2 号
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  • 日本救急医学会による全国調査から
    横田 裕行, 三宅 康史
    2016 年 15 巻 2 号 p. 3-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    DPCデータによると本邦では年間40万人以上の患者が熱中症を発症している。また、超高齢社会を背景に、高齢者における熱中症患者の増加が問題化している。高齢者では男女ともに日常生活のなかで起こる非労作性熱中症が多く、屋内での発症が増加している。また、そのような場合は重症例が多いことが特徴である。日本救急医学会「熱中症に関する委員会」によるHeatstroke STUDY 2010および2012の熱中症疫学研究では、高齢、屋内発症、非労作性熱中症が死亡に対する独立危険因子であったとことを示している。労作性熱中症は健康な人が短時間で発症するため、診断も比較的容易で治療への反応も良く重症例は少ない。一方、非労作性熱中症は日常生活の中で徐々に進行し、周囲の人に気付かれにくく対応が遅れる傾向がある。また、低栄養や脱水、持病の悪化、感染症など複合的な病態を呈する。特に屋内で発症する非労作性熱中症は高齢の女性、独居に多く、精神疾患、高血圧、糖尿病、認知症などの基礎疾患を有する症例が重症化しやすいと言われている。熱中症が発症しやすい夏季においては環境省が都道府県ごとに予防情報を提供しているが、それらは熱中症を予防する際に重要な情報を発信しており、熱中症予防に大きく寄与すると期待される。
  • パフォーマンス発揮とディマンドコントロールの視点から リスク・楽しさ・健康・成長を考える
    赤松 幹之
    2016 年 15 巻 2 号 p. 9-19
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    自動車運転をタスクディマンドとパフォーマンス発揮という観点から捉えて、運転でのリスク、運転の楽しさ、運転と健康を論じる。自動車運転では、ディマンドとパフォーマンスとのバランスが取れており、このバランスが崩れたときにリスクが高まると考えられる。さらに運転の特徴として、車速や車間距離など自身の運転行動によってディマンドをコントロールできることにある。このことは楽しさの理論であるフロー理論で示されている挑戦と能力の一致および状況の支配感につながる。一方、ストレス研究において、仕事に裁量があると仕事が多くてもストレスが低く、疾患への罹患率が低いことをラザルスが示したが、ここにおける裁量とはディマンドのコントロールであり、運転によってストレス解放が行われる一因と考えられる。ディマンドコントロール能力を獲得することによって、リスク低減、運転の楽しさ、健康、成長といったポジディブな効果が得られるのが自動車運転である。
  • 大澤 資樹, 原 征樹, 佐藤 文子, 瀬戸 良久, 垣本 由布
    2016 年 15 巻 2 号 p. 20-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    外傷患者における事故発生から死亡までの経過時間は、最初の1時間以内にピークがあり、その後漸減してゆく。警察庁交通事故死亡者統計では、事故発生後24時間以内の死亡者数に加え、30日以内の数も併せて発表されている。生存期間が短時間の事例には事故と死亡との因果関係は明らかな場合が多いのに対して、24時間以上経過のある遅延性死亡では、合併症や続発症の関与から因果関係が社会的に問題となりうる。今回の研究では、法医剖検例における交通事故に伴う遅延性死亡にどのような事案が含まれるのか検討した。当領域における15年間(1999〜2013年)の解剖記録や資料を検討すると、22例の合併症や続発症による交通事故後の遅延性死亡例が抽出でき、肺炎・敗血症(10例)、肺塞栓症(9例)、その他(3例)に分類できた。就下性肺炎や敗血症と剖検診断された事例の受傷後死亡までの期間は平均105.9日と長期にわたり、平均63.4歳と高齢者に多く、8例までが頭部外傷に続発していた。肺塞栓症は、脂肪塞栓症候群(5例)と肺動脈血栓塞栓症(4例)に分けられ、脂肪塞栓症候群に関しては、生存期間は平均3.7日と最も早期の合併症で、平均ISS値は20.4、骨折に合併していた。肺動脈血栓塞栓症は、生存期間は平均12.0日、平均ISS値は11.8と、本来致命的とは言い難い局所的な損傷に合併していた。道路ユーザーとしては、歩行者(11例)や二輪車運転手(7例)と交通弱者に多い傾向にあった。感染症については、長い入院経過から臨床で診断がついていることから、法医解剖に至るものは少数と思われる。一方で、肺塞栓症のように経過が短く、当初死亡が予見されていなかった事例では、剖検で初めて死因が確認されていた。遅延性死亡例に関しては、事故と死亡との因果関係が社会的に問題となりうるので、丁寧な調査や徹底した死因探究が求められる。
  • 健康起因事故を予防するために
    馬塲 美年子, 一杉 正仁, 相磯 貞和
    2016 年 15 巻 2 号 p. 28-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    タクシー会社に勤務する運転者に対して行った健康意識調査について報告するとともに、近年問題となっている健康起因事故の予防策について検討した。某県最大規模のタクシー会社の運行管理者有資格者(管理者)31人および一般の運転者(運転者)102人を対象に、罹患疾患の有無、休憩の取り方、体調不良の経験の有無、近年事故との関係が注目されている睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関する認知度などについてアンケート調査を実施した。管理者は全員男性で、平均年齢は50.3±6.2歳、業務経験歴の平均は24.0±9.4年であった。運転者は、男性99人、女性3人で、全体の平均年齢は57.3±8.3歳、業務経験歴の平均は12.2±9.5年で、年齢、業務経験歴ともに、両群間に有意差が認められた(平均年齢:p<0.001、平均業務経験歴:p<0.001)。管理者も運転者も、過半数が定期的に休憩をとっていたが、休憩をとる間隔は、管理者が1.7±0.6時間と運転者の3.0±1.8時間より有意に短かった(p<0.001)。SASに関しては、いずれの設問でも、管理者で認知度が高く、SAS患者の事故リスク、SASの治療効果では、有意差が認められた。健康起因事故防止のために、関連省庁の指導や法律改正による司法面からの対策がなされている。健康起因事故は、個々の運転者の厳格な健康管理および緊急時の適切な対処で防ぐことができる。そのために、運転者の健康管理に必要な知識・情報を、まず運行管理者に十分理解してもらう必要があろう。その上で、運転者の教育・指導を徹底し、情報を共有していくことが、より効果的な予防につながる。特に、厳しい状況にあるタクシー業界においては、運行管理者の役割を十分に発揮していくために、事業者、さらに行政のサポートも必要と思われた。
  • 伊藤 大輔, 水野 幸治, 齋藤 大蔵
    2016 年 15 巻 2 号 p. 36-49
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    交通事故統計によると、我が国の交通事故死亡者の約半数が交通弱者(歩行者、自転車乗員)である。このことから、日本の交通安全を考えるうえで交通弱者対策が不可欠である。本研究では、日本外傷データバンク(JTDB)で収集された外傷データから日本の歩行者および自転車乗員の外傷の傾向を明らかにすることを目的とする。特に、歩行者事故および自転車乗車中の事故で頻発する頭部および下肢の外傷発生状況を年齢層別、性別に解析し、その特徴について工学的考察を加えつつ検討した。歩行者事故および自転車走行中の外傷データを0-14歳(子供群)、15-64歳(成人群)、65歳以上(高齢者群)の三群に分類し、さらにそれを男女別に分析した。歩行者および自転車乗車中の事故では、頭部外傷の発生頻度が高いことは従来の事故統計と同様の結果であったのに対し、下肢傷害では、これまで自動車側での保護対策が十分に行われてこなかった骨盤での損傷の発生頻度が高いことがわかった。自転車乗車中の事故では大腿骨骨折の占める割合が高くなり、事故状況の違いが受傷部位に影響を及ぼすことが示された。さらに、両事故形態ともに加齢に伴い出血性脳損傷の増加や大腿骨頸部での骨折割合の増加など、外傷の種類や発生箇所が変化することが明らかとなった。本研究は重症度の高い外傷データで構成されるJTDBを用いた分析であり、事故実態の全体像を描写できていない。しかし、本研究の成果は、交通弱者が受傷しやすい部位やその加齢による変化の傾向を示しており、今後の交通事故における交通弱者対策にとって有益な知見である。
  • 運転者と事業所の対応について
    一杉 正仁, 山内 忍, 長谷川 桃子, 高相 真鈴, 深山 源太, 小関 剛
    2016 年 15 巻 2 号 p. 50-57
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    職業運転者における健康起因事故予防のために行うべき指導および啓発内容を具体的に明らかにするために、栃木県タクシー協会に所属する全タクシー運転者2,156人を対象に、無記名自記式のアンケート調査を実施した。844人から調査用紙が返送され(回収率は39.1%)、平均年齢は60.7歳であった。所属事業所の保有車両台数は30台未満(中小規模)が60.4%、30台以上が39.6%(大規模)であった。乗務前に体調が悪くても運転したことがある人は有効回答の28.5%であり、この割合は大規模事業所の運転者で有意に高かった。運転した理由として、運転に支障がないと判断したこと(59.0%)、収入が下がること(57.9%)が多かった。運転中に体調が悪くなったことがある人は有効回答の32.6%であり、その時、会社に申告して運転をやめた人が55.3%、しばらく休んでから運転を続けた人が26.5%、そのまま運転を続けた人が14.6%を占めた。体調が悪い時は運転を控えるよう指導された人は有効回答の76.0%、体調が悪い時に言い出しやすい職場環境であると回答した人は83.9%であり、いずれも事業所の規模による差は認められなかった。また、自身の健康と運転について、会社でしっかり管理してほしいと回答した人が34.0%を占め、27.2%の人がより頻回の健康診断受診を希望していた。健康起因事故の背景と予防の重要性が会社の規模によらずタクシー業界に十分浸透していないこと、厳しい労働環境がタクシー事業所全体に共通しているため、健康起因事故の予防を推進する経済的余裕がないことが分かった。健康起因事故を予防できるように、運転者自身が体調不良によるリスクを認識し、健康管理に対する意識の持ち方・知識を高めていくこと、これを事業所がサポートするシステムを構築することが重要である。
  • 澤田 辰徳, 藤田 佳男, 小川 真寛, 渋谷 正直
    2016 年 15 巻 2 号 p. 58-65
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、当院で運転評価を行った脳損傷後の患者が運転適性検査の受検をしたか否かについて明らかにするとともに、当院の運転評価システムにおける講義の有用性について後方視的に明らかにすることを目的とした。当院の運転評価システムでは、面接による運転歴、運転ニード聴取からはじまり、講義、神経心理学検査、停車時実車評価、ドライブシミュレーター評価、有効視野検査、状況により実車評価、最終判断、事後の電話調査からなる。特に講義では道路交通法などの説明、適性検査の手続き方法などを講義した。調査方法は、診療記録の中から事後調査まで終了した患者を抽出し、1.適性検査の認識の有無、2.当院での運転評価の最終判断の結果、3.適性検査の受検の有無とその理由、4.運転の継続の有無、5.講義の有用性についての質問(3段階:役に立った、普通、役に立たなかった)についての情報を後ろ向きに調査した。対象は、上記運転評価システムを全て終了した35名であった。調査した結果、全例が適性検査の存在を知らなかった。また、適性検査の受検者は26名であり、その全員が本評価にて運転を控えるべきとはいえないと助言を受けていた。さらに、適性検査では26名全員合格していた。一方、適性検査の未受検者は9名であり、全員が運転を継続していなかった。受検未受検の理由について、それぞれ2つのカテゴリ(病院からの勧め・知識の獲得、他者からの気づき・自分での気づき)が抽出された。講義についての返答結果は、役に立ったが32名、普通が2名、役に立たなかったが0名であった。本結果から、特定の疾病罹患後の運転再開に関する手順の認知度はまだまだ高いとは言えず、道路交通法の改正された情報から障害を持って運転をすることで起きやすい症状など医療機関などから丁寧な説明をすることは適正検査への受検に有用であることが示唆された。また、講義などで患者に起こりうる不利益について説明することは受検率を上げる効果があることが推察された。
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