日本交通科学学会誌
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眼科領域の疾患・症状を有する運転者の自動車事故事例の検討
本邦刑事判例からみた運転者の注意義務と問題点について
馬塲 美年子一杉 正仁
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2018 年 18 巻 1 号 p. 15-23

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抄録

視野や色覚に何らかの異常がありながら、運転を継続している人は多い。眼疾患患者が自動車を運転して事故を起こした際の社会的責任を明らかにするために、本邦の刑事判例を検討した。国内で発生した交通死傷事故の刑事裁判例のうち、眼疾患があったと考えられる運転者による自動車事故で、運転者が生存している例を対象とした。対象例の抽出は、既報の報告にしたがって、過去の判例と新聞記事の検索で行った。対象は5例であり、すべて男性であった。年齢が判明している4例の平均年齢は60歳であった。事故時の眼疾患は、白内障が2例、網膜色素変性症、斜視、先天性色覚異常、視野欠損が各1例(重複あり)で、いずれの運転者も事故前から何らかの症状を自覚していた。対象例は、すべて過失犯として起訴され、有罪が4例、無罪が1例であった。有罪例では、運転者の眼疾患が刑事責任の判断に及ぼす影響はほとんどなく、運転者としての基本的な注意義務違反による過失と判断された。眼疾患に罹患している運転者でも、運転を行ううえでは健常者と同等の注意義務を果たすことが求められる。したがって、視野障害や色覚障害がある場合、運転者自身がそれを自覚し、運転時には自らの障害に応じた対処が求められる。このような運転時のリスクや責任を運転者に啓発するとともに、眼疾患や眼症状を有する人における自動車運転可否に関するガイドラインの作成など、医師が注意や指導を行いやすい基盤作りが必要であると考えられた。

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