抄録
何らかの疾病をもちながらも、生活維持や社会復帰のためには自動車の運転は必要であり、高齢者や疾病を抱える人の運転を支えていく必要がある。しかし一方で、運転中の体調急変に起因する交通事故が懸念されている。このような事故を防止する安全装備として、スイッチ操作で自動車を停止させるドライバー異常時対応システム(EDSS)や、コールセンターへ通報する事故自動通報システム(ACN)が装備され始めている。これらはドライバーが自力でできる最後の安全装置であり、確実にスイッチ操作できることが求められる。そこで本研究では、大型観光バス、大型貨物車に搭載されているEDSS および普通乗用車に搭載されているACN のスイッチ仕様を調査し、人間工学の視点からスイッチの押しやすさについて評価し、確実に押すために必要な仕様について検討した。各スイッチ位置の評価は、SfM 手法を用いてコックピットの写真から3D モデル化し、ISO3958 で規格されている乗用車運転者の手操作の可能な範囲を基にして、CAD 上でドライバーの手の届く範囲を求めた。その際、ドライバーの姿勢は正常な姿勢と体調急変時に考えられる右傾姿勢を考慮した。分析した結果、大型観光バスおよび大型貨物車に搭載されているEDSS のスイッチは、コンソールパネルの中央左側に配置され、正常姿勢では手の届く範囲ではあったが、右傾姿勢では手の届く範囲の外になっていた。普通乗用車に搭載されているACN のスイッチは、前席天井の中央前側に配置されており、手の届く範囲には入っていたが腕を大きく挙げての操作が必要な位置であった。また、すべての車種のスイッチは、指先で押して作動させる仕様であった。現状のEDSS、ACN 等の緊急停止/ 通報スイッチは、必ずしもドライバーの体調急変時の姿勢を考慮した押しやすい位置や仕様になっていないことがわかった。スイッチ位置が近い遠いだけではなく、押し方や体調が急変した状況も考慮して確実に押せる仕様を設定する必要があると考える。