日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
23 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 佐藤 万美子, 小林 康孝, 一杉 正仁
    2023 年23 巻1 号 p. 3-10
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー
    脳損傷者の自動車運転再開・中止の判断においては、身体所見や神経心理学的検査などの能力面の評価ならびに結果を基に「総合的判断」を行い、必要に応じて運転シミュレーター、実車を含めた包括的な運転評価が求められている。「総合的判断」とは、脳損傷者の全体像を把握するということであり、国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)を用いた分析が有用である。われわれは、福井県内での多施設共同アンケート調査結果から、脳損傷後の運転再開の有無には社会的環境因子が有意に独立して関連する因子の一つであることを示した1)。とくに自動車運転への依存度が高い地域においては、運転能力にかかわらず、必要に迫られて運転を再開している現状があるといえる。したがって、運転支援を行う際には地域の公共交通環境や代替運転者の有無などの社会的環境の影響を視野に入れた支援が重要である。
  • 國富 将平, 新井 勇司
    2023 年23 巻1 号 p. 11-23
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー
    D-Call Net と称した先進事故自動通報システム(Advanced Automatic Collision Notification)の本格運用が2018 年より開始され、同システムから提供される傷害予測情報を基に医師の現場派遣が行われている。しかしながら、同システムの傷害予測アルゴリズムは自動車前席乗員のみを予測するにとどまっている。そのため、歩行者を含む交通弱者への予測対象拡大とさらなる傷害予測精度の向上が求められている。そこで、われわれは深層学習手法を用いた画像認識による、歩行者頭部傷害予測モデルを提案してきた。本研究では、これまでに構築した傷害予測モデルに脚部傷害を新しく予測対象に加えることで、成人男性歩行者モデルを対象とした頭部と脚部の傷害部位単位での傷害レベル予測を試みた。また傷害予測モデルの傷害予測性能は、適合率と再現率、F 値、正解率を用いて評価した。さらに、傷害予測モデルの判断根拠を考察するために、頭部傷害値(HIC < 1000、HIC ≧ 1000)と脚部骨折情報(骨折あり、骨折なし)を組み合わせた4 クラスを正しく予測した画像に対してSHapley Additive exPlanations(SHAP)を適用した。これにより予測結果に対する各特徴量(入力画像の各ピクセル)の寄与を求めることで、傷害予測時にモデルが着目する画像内の特徴を可視化した。頭部および脚部傷害レベル予測では、作成した傷害予測モデルの正解率は88.2%であり、その高い傷害予測性能が確認された。しかしながら、HIC ≧ 1000、かつ脚部骨折なしであるクラスの各評価指標値は低く、当該クラスのデータ数の不足が要因の一つとしてあげられた。一方、SHAP を用いた特徴量の可視化に関しては、歩行者モデルの立位姿勢時における頭部、自動車モデルとの衝突時の左右の肩の傾斜(車両と衝突した側の肩の位置が低くなる)、肘をつく腕部の挙動および腕部の跳ね上げや身体への巻きつきが各クラスを予測する際に寄与の高い特徴であることが示された。本研究結果から、深層学習による画像認識と歩行者衝突画像を用いることで、歩行者の頭部傷害有無と脚部骨折有無の組み合わせから構成される傷害部位単位での傷害レベル予測の実現性が示唆された。また、傷害予測モデルは衝突時における歩行者モデルの頭部位置、左右の肩の傾斜、肘をつく腕部の挙動および腕部の跳ね上げや身体への巻きつきの挙動に着目することで、予測を実施する可能性があることが確認された。
  • 桑原 歩夢, 一杉 正仁
    2023 年23 巻1 号 p. 24-32
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー
    近年のわが国の高齢化に伴い、車椅子ごと車両に乗って移動する機会が増加し、交通事故に占める車椅子利用者の割合は増えると予想される。車椅子で自動車に乗車した人の死亡事故例を収集し、その実態を調査するとともに、重症度低減に向けた対策を検討した。車椅子で乗車中に死亡した人は、1999 ~ 2013 年に滋賀県で行われた法医解剖において1 人、2014 ~2020 年に滋賀県で発生した全死亡事故において3 人であった。当該期間の全交通事故死亡者の0.8%に相当した。全例において、3 点式シートベルトが体の正しい位置に着用されていなかった。次に、某老人保健施設において、車椅子利用者を対象とした通所時のシートベルト着用状況を調査するとともに、シートベルトを手すりの下に通すという推奨される方法での着用を実践した。利用者の多くは肩ベルトを着用しておらず、腰ベルトは、車椅子の手すりの外側を通過していた。手すりの下を通過していても、腰部に密着していなかった。推奨される方法で着用しても、ベルトは腰部に密着せず、その拘束は不十分であった。車椅子で自動車に乗車する際、装着されているシートベルトを推奨される方法で着用しても、体の拘束が不十分であることがわかった。車椅子利用者の安全を確保するために、より効果的なシートベルト装置が望まれる。
  • 石井 亘, 神鳥 研二, 宮国 道太郎, 一杉 正仁
    2023 年23 巻1 号 p. 33-41
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー
    【はじめに】交通事故における胸部外傷予防対策としてシートベルトの着用、チャイルドシートの使用およびエアバッグの展開があげられるが、いまだ相当数の重症胸部外傷が発生している。【目的】都市型三次救急医療施設である京都第二赤十字病院(以下、当院)の重症外傷症例や日本外傷データバンク(JTDB)の交通外傷症例の分析を行い、胸部外傷の効果的な予防策について検討する。【方法】対象は、2019 年4 月1 日~ 2021 年12 月31 日の約3 年間として、当院救命救急センターで診断しJTDB に登録した1,342 例を検討した。また、JTDB に登録された2004 ~ 2019 年の交通外傷症例13 万1,284 例を検討した。【結果】当院での非交通外傷群(1,020 例)と交通外傷群(322 例)で検討すると胸部AIS(Abbreviated Injury Score)は交通外傷群で有意に高値(p < 0.0001)であり、Injury Severity Score(ISS)は交通外傷群で中央値(IQR):13(9-20)、非交通外傷群で中央値(IQR):9(9-16)であり、有意に交通外傷群で高値であった。交通外傷群の胸部外傷を有する症例での検討では、歩行者のISS、入院日数、死亡率はとくに高値であった。JTDB の交通外傷での解析では、胸部外傷群でFAST 陽性率や死亡率が有意に高値で、Glasgow Coma Scale(GCS)は有意に低値であった。また、胸部外傷群で顔面、頸部、腹部、脊椎、上下肢のAIS は高値であったが、頭部のAIS は非胸部外傷群で高値であった。胸部外傷群の歩行者のISS、入院日数、死亡率はとくに高値であった。【考察】当院でのデータおよびJTDB の解析によって、胸部外傷を有する症例では全身の重症度が高く、とくに歩行者で顕著であった。交通外傷患者でも、まず歩行者を優先に胸部外傷の重症度を低減させる取り組みが必要である。
  • 石川 莉那, 杉山 由季, 國行 浩史
    2023 年23 巻1 号 p. 42-52
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー
    中山間地域が多くを占める長野県の交通事故では自動二輪車事故の低減が停滞していることが懸念されている。さらなる交通事故の低減には、地方特有の真の交通事故要因を的確にとらえ、細やかに対策を講じていくことが求められる。そこで本研究では、長野県において発生している中山間道路における自動二輪車単独事故に注目し、道路線形が起因する事故要因について事故統計データ分析および事故事例の分析を行った。2015 ~ 2019 年の5 年間に長野県で発生した自動二輪車単独の死亡重傷事故の統計データ65 件を分析した結果、一般道の事故が54 件(約83%)を占め、45 ~ 64 歳層ライダーによる事故が28 件(約43%)と多くを占めていた。これら自動二輪車単独事故の多くは、中高年層ライダーが観光・ドライブを目的として長野県外から来県し、カーブ区間で速度超過や前方不注意で起こしていることがわかった。また、特徴から得られた中高年層ライダーの観光・ドライブを目的とした事故事例12 件に対して国土地理院地図を用いた事故地点の道路線形の分析から、事故手前区間は- 4.5 ~- 1.5%の下り勾配や50 m 以上の直線区間があり、R120 m 以上のやや緩やかなカーブで多く発生していることがわかった。また、カーブ手前区間には縦断勾配の変化や橋の継ぎ目などの道路線形の急な変化となる特徴もみられた。これらの事故分析結果から、道路線形の特性や急な変化によって速度の超過やカーブを適切に曲がれていないことが事故要因としてあげられ、事故防止には道路線形に対する適切な減速行動を促すことが求められることがわかった。
  • 益満 茜, 川崎 貞男, 一杉 正仁
    2023 年23 巻1 号 p. 53-61
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー
    交通事故による腹部外傷受傷後に遅発性腸管狭窄、結腸回腸瘻をきたし、回腸部分切除術+上行結腸部分切除術で軽快した1 症例を経験した。80 代の男性が自動車運転中に単独事故を起こし、救急搬送された。検査の結果、脳梗塞を発症し運転操作が不能となり、単独事故を起こして腸間膜損傷、右第10、11 肋骨骨折、右血胸、軸椎棘突起骨折をきたした。保存的治療を行ったが、受傷7 日後に腹部膨満の訴えがあり、X 線検査で小腸ガス像を認めたため麻痺性イレウスと診断し、イレウス管を留置した。受傷17 日後に施行した消化管造影検査で回腸と上行結腸に瘻孔を認めたため、受傷24 日後に回腸部分切除術および上行結腸形成術を施行した。運転者は事故時にサブマリン現象によって腹部を圧迫され腸間膜損傷を負い、回腸の循環障害から粘膜障害と潰瘍形成による不可逆性の瘢痕性狭窄および炎症による隣接腸管との癒着と穿通が生じたと考えられた。本症例は鈍的腹部外傷でいったん症状が軽快した後、一定期間経ってから腸閉塞症状が出現するため診断が困難であり、不可逆的な腸管狭窄であるため狭窄部位の切除術が必要であった。交通外傷診療に携わる医療者が本症について熟知しておくことは、患者の早期受診、早期治療につなげるうえで重要と考える。
  • 國行 浩史, 田中 敏章, 水谷 草太, 伊藤 大輔
    2023 年23 巻1 号 p. 62-69
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー
    何らかの疾病をもちながらも、生活維持や社会復帰のためには自動車の運転は必要であり、高齢者や疾病を抱える人の運転を支えていく必要がある。しかし一方で、運転中の体調急変に起因する交通事故が懸念されている。このような事故を防止する安全装備として、スイッチ操作で自動車を停止させるドライバー異常時対応システム(EDSS)や、コールセンターへ通報する事故自動通報システム(ACN)が装備され始めている。これらはドライバーが自力でできる最後の安全装置であり、確実にスイッチ操作できることが求められる。そこで本研究では、大型観光バス、大型貨物車に搭載されているEDSS および普通乗用車に搭載されているACN のスイッチ仕様を調査し、人間工学の視点からスイッチの押しやすさについて評価し、確実に押すために必要な仕様について検討した。各スイッチ位置の評価は、SfM 手法を用いてコックピットの写真から3D モデル化し、ISO3958 で規格されている乗用車運転者の手操作の可能な範囲を基にして、CAD 上でドライバーの手の届く範囲を求めた。その際、ドライバーの姿勢は正常な姿勢と体調急変時に考えられる右傾姿勢を考慮した。分析した結果、大型観光バスおよび大型貨物車に搭載されているEDSS のスイッチは、コンソールパネルの中央左側に配置され、正常姿勢では手の届く範囲ではあったが、右傾姿勢では手の届く範囲の外になっていた。普通乗用車に搭載されているACN のスイッチは、前席天井の中央前側に配置されており、手の届く範囲には入っていたが腕を大きく挙げての操作が必要な位置であった。また、すべての車種のスイッチは、指先で押して作動させる仕様であった。現状のEDSS、ACN 等の緊急停止/ 通報スイッチは、必ずしもドライバーの体調急変時の姿勢を考慮した押しやすい位置や仕様になっていないことがわかった。スイッチ位置が近い遠いだけではなく、押し方や体調が急変した状況も考慮して確実に押せる仕様を設定する必要があると考える。
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