日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
総説
自動車運転時のペダル踏み間違いに関する運動生理学的検討
藤田 和樹小林 康孝一杉 正仁
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2024 年 24 巻 1 号 p. 3-11

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抄録
現代の自動車には高度な安全機能が搭載されているにもかかわらず、意図しない加速による事故は依然として発生しており、その主要因は「踏み間違い」である。特に高齢運転者においてはその発生率が高く、重大な事故の要因となっている。衝突被害軽減ブレーキシステムにも限界があり、すべての踏み間違い事故を防ぐことは難しいため、そのメカニズムを解明し、効果的な予防策を講じる必要がある。認知症の兆候がない高齢者でも踏み間違いが発生する可能性があり、運動機能の影響が大きいことが示唆されている。我々の調査では、ペダル操作時における下肢関節の運動性や筋活動の制御を分析し、高齢運転者特有の兆候を確認した。結果として、運動の速度や出力の調整が不十分であり、筋活動の抑制機能が低下していることが明らかとなった。また、加齢に伴う股関節の可動域や感覚機能の低下が、両ペダルを同時に踏むといった誤操作を引き起こす可能性も示唆された。 さらに、踏み間違いのリスク要因には、神経疾患などによる慢性的な症状も含まれる。例えば、脳卒中後片麻痺患者では、非麻痺側のペダル操作においても筋活動の異常が確認され、操作の安全性が低下する可能性がある。 このように、加齢や神経障害による運動制御の低下が、踏み間違い事故発生の重要な要因であることが明らかになりつつある。加えて、運転中のタスクへの集中や注意の分散がペダル操作の正確性に影響を与え、認知機能と運動機能の低下が密接に関連して踏み間違いが発生すると考えられる。したがって、認知機能のみならず、運動機能にも重点を置いた包括的な予防策を導入することが、高齢運転者の事故防止において重要な課題となる。
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