抄録
交通事故総合分析センターの詳細事故データ(ミクロデータ)を用いて歩行者および自転車乗員の対四輪車衝突における頭部傷害に関する分析を実施した。ミクロデータベースより2016~2018年の対歩行者、対自転車事故を抽出したところ、対象となる事故は歩行者事故が116件、自転車事故が60件であった。 歩行者事故では、脳損傷発生事例に限定して、頭部加害部位と衝突速度との関係を分析したところ、ウィンドシールド衝突とピラー・フード部衝突では平均衝突速度が40 km/hを超えており、衝突速度が高い事例が多い一方、路面が加害部位となる事例では30 km/h以下であり、上記2種類の衝突形態と比べて低速であった。これは路面が加害部位となっている事例において、前面形状が平坦に近いトラックやキャブオーバー車との衝突により、比較的低速であっても前方に押し倒されて路面と頭部とが衝突し受傷した事例を数件含んでいたためと考えられる。 一方、自転車事故のうち脳損傷発生事例に限定した場合、ウィンドシールド、ピラー・フード部、路面のいずれが加害部位となる事故形態であっても平均衝突速度は40 km/hを超えていた。今回の分析の範囲では対自転車事故において、路面が脳損傷の加害部位となる事例においてセミキャブオーバー車が関連する事例が1例しかなかったため、歩行者事故で見られたような前面形状が平坦に近い車両による押し倒し事例がなかったためと考えられる。 歩行者事故、自転車事故の両方に関して、衝突速度が高い場合には歩行者保護性能が高いとされるウィンドシールドとの衝突であってもAIS 3以上の脳損傷が発生し得ることが確認された。また、歩行者、自転車乗員のいずれの場合においても、AIS 3以上に限定した場合、路面衝突、ウィンドシールド衝突において大脳挫傷、大脳硬膜下血種、くも膜下出血、びまん性軸索損傷といった様々な傷害が発生しており、加害部位と発生する傷病名との間に関係性は認められなかった。