2019 年 35 巻 3 号 p. 113-120
抄録 歯科医師としての活動は, 必ずしも院内にとどまらない. 近年, 来院困難な高齢者に対する在宅における訪問診療は珍しくなく, 災害の頻発する日本において, 災害時の歯科診療についてもレントゲン写真の保存方法や医療物資の備蓄, 人材の確保など考えるべきことは多い. 院外では必ずしも万全の体制での診療が行えるわけではない. そのため, 不十分な照明, 丸椅子に座った受診者, レントゲン撮影不可など困難な環境のもとで多数の受診者の診査を行わなければならない学校歯科健診は, 研修歯科医にとって院外診療への導入の一つになると思われた. よい歯科診療を行うために診断能力の研修が求められているが, 院外で迅速な診査ができれば院内ではより緻密な診査ができ正確な診断を下せるであろう. このような現状のなか, 2014年度から広島大学では春の健康診断の一環として新入生歯科健診が開始され, この健診が臨床研修として研修歯科医に委ねられた.
そこで本調査では, 4月初旬の大学新入生の歯科健診を経験した研修歯科医に対して, 研修をすべて終了した後, 歯科健診に関する質問紙調査を行い歯科健診を行う意義を検討した. その結果, 多くの研修歯科医が研修を始めたばかりの4月時点の歯科健診であっても, 健診を実施することは有益であったと回答した. しかし, 未熟な診査能力に不安を覚えつつの健診であり, 診査能力を補完するために指導歯科医のバックアップが重要であると考えられた.