抄録 超高齢社会を迎え,高齢者への身体的理解を深める機会とするために,鹿児島大学歯学部では令和2年度より高齢者疑似体験教材を用いた高齢者疑似体験実習を臨床実習開始直後に取り入れた.本実習は,本学独自の訪問歯科診療シミュレーション実習の一部として行っているものであり,訪問歯科診療シミュレーション実習は訪問先での歯科診療を想定したシナリオに基づき,マネキンおよびポータブルの治療器具を用いて実施してきた.高齢者疑似体験実習で使用した装具は,イヤーマフ(耳栓),視覚障害ゴーグル,肘・膝サポーター,手首・足首用重りバンド,前かがみ姿勢体験ベルトの7種であり,すべてを装着して歩行や階段の昇降,ドアテンキーの解除を体験させた.実習中は前かがみ姿勢および視野狭窄の状態での階段昇降に苦労する学生が多く,介助者に支えを求めたり,介助者が自然と手を差し伸べたりする場面がしばしばみられた.実習後の質問紙調査では,高齢者に抱いていた印象が実習前後で変化したという回答が半数以上を占め,高齢者が日常生活で感じている身体的な負担を実際に体験した意義は大きかったと考えられる.本実習を通して,高齢者の身体的特性に対する理解が進んだと示唆され,今後は実習内容を充実させて,より一層理解が進むよう改善を検討している.