抄録
フッ素が平滑面う蝕を予防するメカニズムについては良く知られているが,裂溝う蝕については不明な点が多い。そこで,裂溝う蝕モデルにおけるフッ化物歯面塗布の効果を検討した。牛のエナメル質小片を用いて作製した人工裂溝にmutans streptococciを感染させ,MSB培地中37℃で培養した。培養1週後,acidulated phosphate fluoride(APF)を4分間塗布した群をAPF(+),APFを塗布しない群をAPF(-)とした。他にmutans streptococciを感染させない群を対照として,以上3群を計4週間培養した。培養後,裂溝を歯科用探針で触診し,裂溝の脱灰度を示す粘着力を測定した。各裂溝モデルから約100μmの切片を作成し,光学顕微鏡およびマイクロラジオグラフィで観察し,エナメル質上面の脱灰消失の深さを写真上で測定した。また触診後の裂溝表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。平均粘着力は,APF(-)群で最大であったが,各群間に統計学的有意差はなかった。APF(+)群の消失エナメル質の深さは,APF(-)群より,統計学的に有意に少なかった。マイクロラジオグラフおよびSEM観察から,各群とも触診による表層エナメル質の崩壊が認められた。以上の結果から,フッ化物歯面塗布は裂溝う蝕モデルにおいてエナメル質の消失を有意に抑制すること,また,表層エナメル層は触診によって破壊されることが示された。