口腔衛生学会雑誌
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46 巻, 5 号
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原著
  • 長谷川 浩三, 町田 幸雄
    1996 年 46 巻 5 号 p. 658-665
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    刷掃時のBrushing forceやBrushing pressureは弱ければ刷掃効果が悪く,逆に強すぎると歯牙や歯周組織に為害作用がある。Brushing forceは刷掃時植毛部全体に垂直に加わる力を言い,Brusbing pressureは直接歯牙に接触する刷毛断面の単位面積当たりの圧であり,区別する必要がある。そこで,著者らはBrushing forceからBrushing pressureを算出した。臨床的に歯列や歯周組織に異常がない4歳から6歳までの小児20名ならびに23歳から42歳までの成人20名について,前後運動型,ローリング型,特殊運動型の3機種の電動歯ブラシと手用歯ブラシを用いてBrushing forceを計測しBrushing pressureを算出したところ,以下の結論を得た。1.成人,小児ともにBrushing forceでは手用歯ブラシが最も高い値を示し,次いで前後運動型,ローリング型の順で特殊運動型が最も低い結果であった。しかし,Brushing pressureではBrushing forceとは逆に特殊運動型が最も高く,前後運動型,ローリング型,手用歯ブラシの順であったが,前後運動型,ローリング型,手用歯ブラシの3種の歯ブラシは近似した値であった。2.小児は成人に比較するとBrushing forceとBrushing pressureともに相対的に低い値を示していた。3.Brushing forceが弱くてもBrushing pressureが高い場合もあるため,今後はBrushipg forceとBrushing pressureの両者とも評価検討する必要があることが示唆された。
  • 本間 三順, 本多 丘人, 竹原 順次, 三宅 亮, 谷 宏
    1996 年 46 巻 5 号 p. 666-675
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    近年,顎関節部の症状を訴え,医療機関を受診する者が増加している。また,青少年期における症状所有者の増加も注目されている。そこで我々はどのような症状がどのような分布をしているかを明らかにするために本研究を行った。12歳から24歳までの中学生,高校生,大学生を対象として顎関節症状の疫学調査を行なった。方法は5項目の質問調査と事前に再現性を確認した7項目の症状検出で,対象数は1,873名であった。質問調査では全体の20.4%の者に自覚症状が認められた。肯定回答が多かった症状は「雑音」(16.1%),「口があけにくい」(6.7%),「顎運動痛」(6.1%)であった。有症状者の割合は中学生からすでに高く,年齢による増加傾向はみられなかった。男女で比較をした場合,その割合は女子に多い傾向が認められた。また,大学生女子では男子と比べ複数症状を有する者が多く認められた。診査結果では全体(中学生以上)の10.7%に症状が認められた。多く認められた症状はクリック音(3.3%)および最大開口度2SD以下(最大開口度が学年性別の平均と2SDの差より小さい者)(2.4%)であった。症状検出の割合は中高生では年齢による増加は特にみられなかったが,大学生ではやや多く13.5%の者が検出された。顎関節症状の程度を表すために,質問調査と診査による調査を統合し,症状の重なり等により有症状者を区分することを試みた。その結果,有症状者は全体の24.5%に達していたが,比較的軽度と考えられるGnathic Index 1,2がほとんど(82.3%)で,数項目の症状を持つものや顎運動痛,開口制限が検出される者はわずかであった。以上の結果から,大部分は「雑音」等のみの軽度と考えられる症状ではあるが,わが国の青少年の約4人に1人は何らかの顎関節症状を有することが示唆された。
  • 深井 穫博, 眞木 吉信, 高江洲 義矩
    1996 年 46 巻 5 号 p. 676-682
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    口腔保健行動は生涯発達のなかで獲得・修正・定着するものであるが,成人期以降の口腔保健行動については不明な点が多い。本研究では質問紙調査を行ない,成人の口腔保健行動の年齢特性について検討した。調査対象は,関東地方の7企業に勤務する20歳から50歳代の男性468名,女性205名の計673名である。調査内容は,(1)口腔保健に関する態度,(2)口腔保健用語の認知度,(3)口腔の健康に関する自己評価,(4)口腔保健行動に関するものである。「歯・口に関する会話」,「新聞の健康欄への注目度」「歯・口を鏡でみる頻度」の質問項目から,自己の口腔内への関心度は中高年層ほど高まることが示された。しかし,この関心度は知識等の情報収集行動には反映されるが,自己の口腔内を直接観察する行動には結びついていないと思われた。口腔保健用語の認知では,全年齢層にわたり50%以上の者が「知っている」と回答した用語は「歯石」,「歯垢」,「歯周病」であり,成人期によくみられる歯周病に関連したものであった。口腔の健康状態に関する自己評価では「外観や噛み具合に満足している」と回答した者が,24歳以下の年齢層で10〜20%に対し,55歳以上の年齢層では20〜30%であった。昼食後・就寝前の歯みがき習慣の有無といった口腔清掃行動では中高年層に比べて若年齢層の方が定着していた。また「かかりつけの歯科医師の有無」,「定期歯科健診の受診」についての受診・受療行動では逆に若年齢層に比べて中高年齢層が高い割合を示していた。
  • 稲葉 大輔, 池田 久住, 高木 興氏, 米満 正美, Joop ARENDS
    1996 年 46 巻 5 号 p. 683-687
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    脱灰したヒトエナメル質人工裂溝に,波長248nmのkrFエキシマレーザー(総エネルギー密度:172J/cm^2),または波長532nmのQスイッチNd:YAGレーザー第2高調波(総エネルギー密度:100J/cm^2)を照射後,乳酸ゲル(pH=5)に3週間浸漬する耐酸性試験に供し,マイクロラジオグラフィによりミネラル分布を定量的に評価した。裂溝底部の脱灰深度l_d(μm)とミネラル喪失量ΔZ(vol%・μm)は,エキシマレーザー照射試料,Nd:YAGレーザー照射試料とも未処理試料と比較して明らかな違いを示さなかった。また,裂溝に近接するエナメル質表層部でも同様の傾向が認められた。すなわち,エナメル質初期齲蝕のさらなる脱灰の進行はレーザー照射によって抑制されない可能性が示唆された。
  • 森田 一三
    1996 年 46 巻 5 号 p. 688-706
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    80,70,60歳世代の者について保有歯数に影響を及ぼす過去の食事・生活習慣や口腔の状況について世代別に調査検討を行った。80歳世代については愛知県常滑市における8020調査,70,60歳世代については岐阜県山岡町における住民歯科健康診査の合計319名を調査対象とした。その結果,80,70および60歳世代のいずれも共通して影響するものと,世代ごとに影響が異なる因子に分けられた。すなわち80,70,60歳世代に共通して保有歯数に影響していたものは,男性の小学生時の「母親のしつけ」,20歳時の「甘味嗜好」,40歳時の「歯肉出血」,60歳時の「歯肉腫脹」,「歯磨回数」,女性の40歳時の「歯肉腫脹」,60歳時の「歯肉腫脹」であった。一方,世代で変化するものとして,男性では20歳時の「歯肉出血」,40歳時の「間食回数」,「かかりつけの歯科医院」が80歳世代に比べ70,60歳世代への影響が大きく,40歳時の「歯磨回数」が60歳世代に比べ80,70歳世代への影響が大きかった。また,女性では小学生時の「歯磨回数」が60歳世代に比べ80,70歳世代への影響が大きく,60歳時の「甘味嗜好」が80歳世代に比べ70,60歳世代への影響が大きくなっていた。
  • 可児 徳子, 新谷 裕久, 上坂 弘文, 小澤 亨司, 廣瀬 晃子, 可児 瑞夫
    1996 年 46 巻 5 号 p. 707-722
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    病院歯科診療室の粉塵の粒度分布の把握と,粉塵濃度と気菌濃度ならびに気候環境因子との関連性を検討する目的で,4診療室と屋外において2年間にわたり測定を行った。分析項目は1.診療室の粉塵濃度の経時的推移と粒度分布および屋外粉塵との関係,2.粒度別粉塵濃度と気菌濃度の相関分析,3.粒度別粉塵と気候環境因子の偏相関分析,4.重回帰式による気菌濃度推定における粉塵因子の影響についてである。その結果,次のような成績が得られた。1.診療室の総粉塵濃度は屋外よりもやや高く,季節変動は屋外と類似し,時間変動は診療時間中に高くなる傾向が認められた。診療室と屋外の粉塵の粒度別割合は,いずれも0,3〜1.0μmの比較的小さな粒度範囲で98%以上を占めたが,5.0μm以上は診療室で高い割合を示した。2.浮遊細菌は2.0μm未満,落下細菌は2.0μm以上の粉塵と相関性の高い傾向を示した。3.粉塵濃度とエアコン稼働因子は,広い粒度範囲の粉塵と高い負の相関関係が認められ,粉塵対策におけるエアコン稼働の有用性が示唆された。4.気候環境因子に粉塵因子を加えた重回帰式による気菌濃度推定は,高い精度が得られ,粉塵因子は気菌濃度の即時推定において精度を向上させるのに有用であることが示された。
  • 森下 真行, 河端 邦夫, 山崎 由紀子
    1996 年 46 巻 5 号 p. 723-728
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    電動歯ブラシのプラーク除去効果について検討する目的で,1992年9月末の時点で,日本の市場に出回っている電動歯ブラシのうち9機種を選び,実験を行った。正常歯列顎模型に人工プラークを塗布したものをマネキンに装着し,被験者が各種電動歯ブラシを用いて全顎のブラッシングを行った。被験者は電動歯ブラシの使用経験のない歯学部学生10人とした。この時,ブラッシング時間の制限はしなかったが,顎模型を磨く順序のみを指定し,プラークが完全に除去されるまでブラッシングを行わせた。各々の電動歯ブラシを使用して,プラークを完全に除去するまでに要した時間(ブラッシング所要時間)を測定し,プラーク除去効果の比較を行った。その結果,今回使用した電動歯ブラシは機種によって差はあるが,手用歯ブラシと同等かそれ以上のプラーク除去効果を示した。また電動歯ブラシどうしの比較では,反復回転方式や微振動方式など,毛先が特殊な動きをする機種は,手用歯ブラシと同じ動きをする機種に比べプラーク除去効果が高かった。以上の結果より,電動歯ブラシのプラーク除去効果は,毛先の動く早さだけでなく,その運動方式が重要であることが示唆された。
  • 葭原 明弘, 佐久間 汐子, 小林 清吾, 宮崎 秀夫
    1996 年 46 巻 5 号 p. 729-733
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    よりう蝕リスクが高いと思われる歯牙に実施したシーラントの保持状況および脱落要因について評価した。対象者は,保育園の4歳児から施設ベースのフッ化物洗口法を経験している小学校の1〜3年生,計356名である。Sticky Fissureに咬合面の歯垢付着状況,歯牙の咬合状態,年齢の3指標を組み合わせシーラントの適応を決定した。分析には,シーラント処置を行った第一大臼歯の小窩裂溝,156ケ所を用いた。調査期間は最短で半年間,最長で3年間である。シーラントの保持率は,半年間経過したもので75.9%〜100%,2年間経過したもので69.0%〜96.8%,3年間経過したもので58.6%であった。う蝕は小窩裂溝156ケ所のうち4ケ所にのみ発生した。また,重回帰分析の結果から,処置時の防湿不良がシーラントの脱落に有意に関わっていることが示された。Sticky Fissureを適応条件としたシーラントプログラムの場合,シーラントを処置する際の充分な清掃および唾液からの防湿がシーラントの保持率を高める上で重要な要因と考えた。
  • 林 祐行, 冨田 耕治, 大塚 千亜紀, 大和 香奈子, 一宮 斉子, 吉岡 昌美, 和田 明人, 中村 亮
    1996 年 46 巻 5 号 p. 734-744
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    小学校6年生児童116名を対象とし,永久歯齲蝕発病と3歳児健康診査における乳歯齲蝕罹患状況との関係を調査した。統計学的分析は,永久歯齲蝕に関与すると考えられる生活習慣および3歳児乳歯齲蝕罹患型の9項目を説明変量,DMFを目的変量とした数量化I類によって行った。この結果,最も関与の大きい項目は乳歯齲蝕罹患型であり(偏相関係数=0.181,順位1位),乳歯齲蝕罹患型を説明変量に加えることで,重相関係数は0.287から0.355に上昇した。また乳歯齲蝕罹患と他の説明変量として使用した生活習慣の間に内部相関は認められなかった。このことから,乳歯齲蝕の罹患状況が永久歯齲蝕発病に比較的大きな影響を与えていると考えられ,乳幼児期における健康指導・教育の重要性が示唆された。
  • 小澤 雄樹, 千葉 潤子, 浅沼 慎, 坂本 征三郎
    1996 年 46 巻 5 号 p. 745-752
    発行日: 1996/10/30
    公開日: 2017/10/14
    ジャーナル フリー
    フッ素が平滑面う蝕を予防するメカニズムについては良く知られているが,裂溝う蝕については不明な点が多い。そこで,裂溝う蝕モデルにおけるフッ化物歯面塗布の効果を検討した。牛のエナメル質小片を用いて作製した人工裂溝にmutans streptococciを感染させ,MSB培地中37℃で培養した。培養1週後,acidulated phosphate fluoride(APF)を4分間塗布した群をAPF(+),APFを塗布しない群をAPF(-)とした。他にmutans streptococciを感染させない群を対照として,以上3群を計4週間培養した。培養後,裂溝を歯科用探針で触診し,裂溝の脱灰度を示す粘着力を測定した。各裂溝モデルから約100μmの切片を作成し,光学顕微鏡およびマイクロラジオグラフィで観察し,エナメル質上面の脱灰消失の深さを写真上で測定した。また触診後の裂溝表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。平均粘着力は,APF(-)群で最大であったが,各群間に統計学的有意差はなかった。APF(+)群の消失エナメル質の深さは,APF(-)群より,統計学的に有意に少なかった。マイクロラジオグラフおよびSEM観察から,各群とも触診による表層エナメル質の崩壊が認められた。以上の結果から,フッ化物歯面塗布は裂溝う蝕モデルにおいてエナメル質の消失を有意に抑制すること,また,表層エナメル層は触診によって破壊されることが示された。
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