口腔衛生学会雑誌
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原著
根面初期齲蝕の再石灰化に及ぼす象牙質内液移動の効果に関するin vitro研究
染谷 美子
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1999 年 49 巻 1 号 p. 30-39

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抄録

髄腔内圧に由来する象牙質内教移動が生理的な調節因子として根面の脱灰を抑制することを前報で報告した。しかし,再石灰化を含む総合的な齲蝕プロセスにおける役割は不明である。本研究では,象牙質内液移動が根面の再石灰化にどのような影響を与えるかを知る目的でin vitroでの検討を試みた。根面を脱灰したヒト歯根試料の髄腔内に髄腔内液基準のミネラル溶液(0.65 mM CaCl2, 0.94mM KH2P04,20mM HEPES,pH=7)を満たし,髄腔内圧を20,30または40mmHgに調節して8日間作用させた。共焦点レーザー顕微鏡による観察から,蛍光色素を添加した象牙質内液は数分以内に根面に到達することが確認された。一方,外部溶液の再石灰化への影響を確認するため,同様に脱灰を行った試料を唾液基準ミネラル溶液(1.5mM CaCl2, 0.9mM KH2PO4,20mMHEPES,pH=7,0または2ppmF-),あるいは髄腔内液基準ミネラル溶液に8日間浸漬した。齲蝕病巣は偏光顕微鏡により観察し,またミネラル濃度分布はマイクロラジオグラフィと画像定量法(CAV)により評価した。脱灰深度ldとミネラル喪失量ΔZの値は髄腔内圧の上昇とともに減少した。40mmHg群は20mmHg群と比較してldは約55%低く,有意差が認められた(p<0.01)。さらに,40mmHg群とフツ素濃度2ppm唾液基準のミネラル溶液群の間でミネラル指標に統計学的に差がなく,再石灰化かほぼ同程度であることが確認された。本研究から,象牙質内液移動は生体防御機構として,根面齲蝕の再石灰化,特に病巣底部のミネラル回復の促進に重要な役割を果たす可能性が示唆された。

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© 1999 一般社団法人 口腔衛生学会
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