2008 年 58 巻 5 号 p. 507-512
脱灰程度の異なるエナメル質人工初期う蝕試料に対し,濃度の異なるフッ化物配合歯磨剤の応用を試みたうえで,経時的な再石灰化過程のモニタリングを行うことにより,脱灰程度に対するフッ化物濃度の影響を検討した.ウシエナメル質試料を脱灰溶液に浸漬し,低および高脱灰のエナメル質人工初期う蝕試料を作製した.4種類の濃度のフッ化物配合歯磨剤(0,500,1,000,4,000ppm)を調製し,エナメル質人工初期う蝕試料を1日3回歯磨剤懸濁液に5分間ずつ浸漬した.歯磨剤処理を行う以外の時間は再石灰化溶液に28日間浸漬し,再石灰化程度はQLF法により評価した.その結果,低脱灰エナメル質人工初期う蝕試料においては1,000ppmまでの歯磨剤懸濁液に浸漬した3群は高い再石灰化を示したが,4,000ppmフッ化物配合歯磨剤懸濁液への浸漬を行った群は再石灰化の程度は低く,他の3群との間に有意差が観察された.高脱灰エナメル質人工初期う蝕試料における再石灰化は,0および4,000ppmフッ化物配合歯磨剤懸濁液へ浸漬した群において低く,500および1,000ppmフッ化物配合歯磨剤懸濁液へ浸漬した群において高い傾向が観察された.以上の結果から,低脱灰の初期う蝕に対しては環境の整えられたin vitro環境で高い再石灰化を促進できること,高脱灰の初期う蝕に対しては,通常用いられる範囲のフッ化物配合歯磨剤の使用が必須となる可能性があることが示唆された.