口腔衛生学会雑誌
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58 巻, 5 号
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原著
  • 川崎 弘二, 酒井 怜子, 朴 容徳, 神原 正樹
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 482-489
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,異なる局所的フッ化物応用に対する再石灰化のプロセスをin vitroにてQLF法により評価することである.80個のウシエナメル試料に鏡面研磨を行ってエナメル質試料を作製し,このエナメル質試料を脱灰溶液に48および96時間浸漬することによって初期う蝕試料を作製した.初期う蝕は,初期う蝕部のミネラル喪失量と相関する指標であるΔQ値(%・mm^2)により評価した.それぞれの初期う蝕試料は,4種類のフッ化物処置(対照群,フッ化物配合歯磨剤群,APFゲル群,フッ化物配合歯磨剤+APFゲル群)を行った.それぞれのフッ化物処理のための時間を除いて,すべての試料は28日間人工唾液に浸漬した.その結果,低脱灰群において9日目以降に,高脱灰群においては15日目以降にミネラルの回復は平衡に達した.対照群とフッ化物配合歯磨剤群において,両APFゲル処理群よりも高いミネラルの回復が低脱灰群および高脱灰群に観察され,両APF処理群に違いは観察されなかった.(p<0.05).すなわち,フッ化物配合歯磨剤の応用あるいは人工唾液のみの応用と比較して,APFゲルによる処置はミネラルの回復を妨げる可能性のあることが示唆された.
  • 吉岡 昌美, 藤井 裕美, 廣瀬 薫, 坂本 治美, 十川 悠香, 松本 尚子, 星野 由美, 福井 誠, 横山 正明, 日野出 大輔
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 490-497
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    われわれは,平成16年より徳島大学病院栄養サポートチームの一員として病棟における専門的口腔ケアを展開してきた,当初より,脳神経疾患をもつ患者の占める割合が多く,平成20年2月までの間,計143名の当該患者の口腔ケアを行った.本研究では,これらの患者の初診時における口腔内状態および全身状態について調査し,口腔ケアのニーズにかかわる要因について統計学的に検討した.その結果,約80%の人が「口腔周囲筋や舌の動き」が十分でなく,約60%の人に「口腔乾燥」の発現や「意識レベル」の低下を認め,約25%の人に「不随意の常時開口」がみられた.ロジスティック回帰分析の結果,「口腔乾燥」の強さが多量の「不潔物付着」に強く寄与することが示唆された.また,「口腔乾燥」の強さは「常時開口」がみられる,「うがい」が不可能あるいは不十分,「口腔周囲筋や舌の動き」が低下,「意識レベル」が低下,といった脳神経疾患患者で高頻度にみられる所見と有意な関連を示すことが確かめられた.これらのことから,意識レベルの低下および常時開口がみられる患者に対しては,急性期から口腔乾燥を予防するとともに良好な口腔衛生状態の保持に努め,口腔機能にも配慮した専門的口腔ケアを行っていく必要性が示唆された.
  • 小松崎 明, 末高 武彦, 田中 彰
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 498-506
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    2004年10月に発生した中越地震が,被災地域の児童・生徒の口腔保健状況に与えた影響について検討するため,震源地域に相当する4地域(N,O,T,U地域)の小・中学校における学校歯科健康診断結果を,地震前後で比較検討した.DMF者率,処置歯率,DMFTの比較から,次のような結果を得た.1.被災地域では処置歯率の減少が観察され,T地域を除く小学校6年生(p<0.01),U地域を除く中学校3年生(p<0.01)など,全28学年単位中10学年単位で地震前後の間に有意差が認められ,4被災地合計でみても小学校4年生(p<0.01)など全7学年単位中5学年単位で地震前後の間に有意差が認められた.2.全県の処置歯増加数に占める4被災地の割合は,地震後に小学校の3学年単位で減少が認められ,小学校3年生(p<0.05)など3学年単位で地震前後の間に有意差が認められた.3.全県のDMF歯数の増加に占める4被災地の割合は,地震後に中学校の2学年推移で増加が認められ,地震前後間で有意差(p<0.01)が認められた.4.DMFT増加率は,地震後に中学校で増加傾向が観察できる以外,明確な変化は認められなかった.これらの点から,地震が被災地の処置歯率減少に影響している可能性が示唆され,今後の地震災害対策を歯科保健医療の面から検討する際に,学校歯科保健への影響についても留意する必要があると考えられた.
  • 川崎 弘二, 酒井 怜子, 吉川 秀一, 村川 浩子, 神原 正樹
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 507-512
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    脱灰程度の異なるエナメル質人工初期う蝕試料に対し,濃度の異なるフッ化物配合歯磨剤の応用を試みたうえで,経時的な再石灰化過程のモニタリングを行うことにより,脱灰程度に対するフッ化物濃度の影響を検討した.ウシエナメル質試料を脱灰溶液に浸漬し,低および高脱灰のエナメル質人工初期う蝕試料を作製した.4種類の濃度のフッ化物配合歯磨剤(0,500,1,000,4,000ppm)を調製し,エナメル質人工初期う蝕試料を1日3回歯磨剤懸濁液に5分間ずつ浸漬した.歯磨剤処理を行う以外の時間は再石灰化溶液に28日間浸漬し,再石灰化程度はQLF法により評価した.その結果,低脱灰エナメル質人工初期う蝕試料においては1,000ppmまでの歯磨剤懸濁液に浸漬した3群は高い再石灰化を示したが,4,000ppmフッ化物配合歯磨剤懸濁液への浸漬を行った群は再石灰化の程度は低く,他の3群との間に有意差が観察された.高脱灰エナメル質人工初期う蝕試料における再石灰化は,0および4,000ppmフッ化物配合歯磨剤懸濁液へ浸漬した群において低く,500および1,000ppmフッ化物配合歯磨剤懸濁液へ浸漬した群において高い傾向が観察された.以上の結果から,低脱灰の初期う蝕に対しては環境の整えられたin vitro環境で高い再石灰化を促進できること,高脱灰の初期う蝕に対しては,通常用いられる範囲のフッ化物配合歯磨剤の使用が必須となる可能性があることが示唆された.
  • 瀧口 徹, カンダウダヘワ ギターニ, ギニゲ サミタ, 宮原 勇治, 平田 幸夫, 深井 穫博
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 513-523
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,発展途上にあって多宗教,多民族国家の一つであるスリランカにおける社会経済的要因と糖分摂取,歯磨き習慣,フッ化物歯磨剤および定期的歯科受診の4つの歯科保健行動との関連を分析することである.対象の西プロビンスは同国の9省(プロビンス)のうち管内の市町村間で最も社会経済的多様性がある.スリランカ国のうち最も都市化した西省の21小学校の12歳児男女949名が無作為抽出され,無記名自記式質問票を担任の監督のもと各家庭に配布し回収した.性別,地域差,民族,父母学歴,職業,収入,児童数,因子分析による社会経済的6因子,歯科保健情報源,および定期的歯科受診の10分類の要因系と前述の4種類の歯科保健行動との関連を多重ロジスティック回帰分析により分析し4つの歯科保健行動の要因系の違いを比較した.その結果,オッズ比が2.0以上を示した要因はタミール族がショ糖含有食品を制限していることが最大オッズ比(exp(-B)=5.44)を示し,次いでオッズ比が大きいものは最多民族であるシンハラ族のフッ化物歯磨剤使用(2.34)および歯科保健情報源としてのテレビ(2.32),生活必需品充足度(因子分析第1因子)と食間でのショ糖添加(2.16),シンハラ族の定期的歯科受診(2.11)であった.高有意性(p<0.001)を示す関係は6つあり,女性の歯磨き励行,生活必需品充足度と食間でのショ糖添加,ショ糖添加紅茶飲用およびフッ化物歯磨剤使用,定期的歯科受診と食事時・食間のショ糖追加摂取および歯磨き励行との関係であった.また2つ以上の歯科保健行動にかかわる指標は,民族,父親の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の4つであった.以上,本研究により性差,民族,父の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の5つが歯科保健計画策定,キャンペーンや活動に際して注目すべき要因であることが示された.
  • 瀧口 徹, カンダウダヘワ ギターニ, ギニゲ サミタ, 宮原 勇治, 平田 幸夫, 深井 穫博
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 524-533
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的はスリランカの12歳児DMFTの多寡に有意な歯科保健行動要因と社会経済的要因を確定し,重要な少数の予測要因に絞ることである.データはスリランカ国の西プロビンスの949名の学童からなる.3名の歯科医師がWHOの基準によって歯科健康診査を行った.DMFTを0と1以上の2区分にした指標を多重ロジスティック回帰分析(MLRA)の従属変数として用いた.MLRAの独立変数は4種類の歯科保健行動(4-DHBs),すなわちショ糖含有の食品もしくは飲料,歯磨き習慣,フッ化物歯磨剤使用,定期的歯科医療機関受診等,10種類の社会経済的要因からなっている.その結果,変数減少法によるMLRAで最終モデルと各変数のオッズ比が得られた.DMFTの分布は指数関数的な減少傾向を示した.男女間および3民族間のDMFTの違いは有意でなかった.フッ化物歯磨剤がDMFTに関連した最も影響力の強い保健行動であり,一方,最も重要な社会経済的要因は民族の違いであった.4-DHBsの組合せの違いは伝統的な宗教的な慣習や嗜好に由来するように思われ,う蝕に対して時に相加的効果,時に相殺的効果を及ぼすと考えられる.対象プロビンスとスリランカ全体の経済的発展に伴って将来のう蝕が増加する可能性は関連データの不足のため否定できない.それゆえ,今回明らかになったう蝕の要因をモニタリングし,西プロビンスの非常に低いDMFTの原因を解明するための疫学的研究が必要である.
  • 田谷 かほる, 廣瀬 公治, 浜田 節男
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 534-541
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    二糖類であるトレハロースは卵巣摘出マウスの骨吸収を抑制する.そこで本研究で私たちは,ヒト閉経後骨粗鬆症の動物モデルである卵巣摘出ラットを用い,トレハロースの前投与により閉経後の骨密度減少を予防できるか検討を行った.雌性Sprague-Dawleyラットを4つの群,偽手術群(Sham群),卵巣摘出術群(OVX群),トレハロース前投与群(Pre-TH群)およびトレハロース投与群(TH群)に分けた.OVX群,Pre-TH群およびTH群のラットは卵巣摘出手術を,Sham群のラットは偽手術を8週齢で施し,トレハロース(10mg/kg)または滅菌蒸留水を経口投与により,毎日12週間(4〜16週齢)投与し,体重,子宮重量および大腿骨と腰椎の骨密度への影響を検討した.体重および子宮重量においては,OVX群とPre-TH群またはTH群において,統計学的有意差は認められなかった.しかし,大腿骨および腰椎の骨密度はOVX群と比較して,Pre-TH群において有意に増加していた.これらの結果より,トレハロースの前投与は閉経後の骨粗鬆症予防に効果があることが示唆された.
  • 川越 俊美, 猿田 樹理, 三宅 真次郎, 笹栗 健一, 秋本 進, 佐藤 貞雄
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 5 号 p. 542-547
    発行日: 2008/10/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    くさび状欠損や歯周病などの歯科疾患と咬合との関係は,今なお歯科領域における大きな研究課題となっている.歯のクラックやくさび状欠損と咬合因子との関係が示唆され,口腔疾患,特に楔状疾患の発現にも咬合に由来する生力学因子が関与していることが指摘されている.このことからブラキシズムの要因を加え,さらなる研究が必要とされている.これまでの睡眠ブラキシズム研究は,睡眠ポリグラフや筋電図による生理学的パラメータの測定,あるいはアンケート調査などを利用した研究に限定され,睡眠ブラキシズム時の歯の接触状態や下顎の運動パターンを把握することが困難な問題であったため,ブラキシズムと口腔疾患との関連について,その実態を把握することはきわめて困難であった.本研究では,咬合,特に睡眠ブラキシズム時の咬合接触パターンに着目し,くさび状欠損の発現との関連性を知ることを目的とし,一般集団を対象とした集団歯科検診を実施した.本調査は,2004年1月から12月にかけて東京都区内の大手製造業系企業の従業員および関連会社の職員を対象として実施した定期集団健診の診査にあわせて行った.また,口腔内診査,くさび状欠損の有無,咬合様式の診査も実施した.インフォームドコンセントの後,顎機能に関する詳細な検査を希望する者240名(男性195名,女性45名,平均年齢41.02歳)に対して,上下顎印象採得および咬合採得,ブラックスチェッカーによる睡眠ブラキシズム時の咬合接触状態の診査などを行った.くさび状欠損の発現は,20代が7.1%で,50代では15.8%と,年齢が上がるにつれて発現率が増加した.口腔内診査における咬合様式と,ブラックスチェッカーから得られた睡眠時の咬合接触状態には差異があることが明らかとなった.咬合様式による診査では,咬合様式に応じて,くさび状欠損発現率に差は認められなかった.ブラックスチェッカーによる診査では,作業側において,小臼歯まで接触している者(13.5%),大臼歯部まで接触している者(13.6%)のほうが,犬歯まで接触している者(3.6%)よりくさび状欠損の発現率が有意に高い傾向にあった.ブラキシズムにおける咬合接触とくさび状欠損発現に因果関係がある可能性が示唆された.
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