乳酸脱水素酵素(LD)やヘモグロビン(Hb)は唾液を検体とした唾液検査により,細胞が破壊されたときに出る酵素である.唾液検査は問診を簡便化し,相互補完できる可能性がある.そこで,われわれは歯周病の自覚症状についての問診票項目と唾液バイオマーカーであるLD,Hbとの関連性の検討を目的とした.東近江市湖東地区の健康推進員の呼びかけに応じた46名(男性3名,女性43名)を対象とした.平均年齢は51.8±9.8(29-68歳)であった.すべての被検者は,歯周病の自覚症状についての問診票に回答した.唾液検体は,パラフィンガムを被検者に5分間咀嚼させて得られた刺激唾液とし,唾液中のLD,Hbの測定は検査会社に依頼した.被検者の自覚症状についての問診項目の自覚症状の有無により分類し,唾液中バイオマーカーの値の有意差検定(t検定)を行った.また,p<0.05の場合,各グループ間に有意差ありとした.分析は,SPSS ver.19.0(IBM,東京,日本)を用いて行った.各唾液バイオマーカー値はその分布からはずれ値を,スミルノフの棄却検定により,1例ずつ異常値として棄却した.また,記入漏れのあった1例は除外した.平均値はLD=550.2±481.8(IV/ml),Hb=13.7±26.5(μg/ml)であった.歯肉からの出血・排膿の有無で,歯肉出血が「ある」と答えたグループのHbの平均値が「ない」と答えたグループよりも明らかに高かった(p<0.05).また,口腔乾燥感の質問で,口腔乾燥感が「ある」と答えたグループのHbの平均値が「ない」と答えたグループよりも明らかに高かった(p<0.01).
また,自覚症状を有する群のLD値が歯の動揺,歯肉出血・排膿,歯肉腫脹,咀嚼困難,口腔乾燥感,口臭の項目で自覚症状を有しない群より高い傾向を示したものの有意差は認められなかった.Hb値では,歯の浮き感,歯肉腫脹,咀嚼困難,口臭の自覚症状を有する群が自覚症状を有しない群よりも高い値を示す傾向が認められたが有意差は認められなかった.歯周病の自覚症状とLD値,Hb値の関連性を検討した結果,Hb値は,出血・排膿とドライマウスとの関連が示唆された.このことから,歯周病スクリーニングのための唾液検査項目としてHb値のほうが信頼性が高いと考えられた.今後,臨床パラメーターと合わせて,さらに検討を続ける予定である.