2020 年 70 巻 1 号 p. 35-43
本研究の目的は,てんかんの治療としてケトン食療法を行っている小児患者の歯科保健に関する課題を明らかにすることである.対象は静岡てんかん・神経医療センターに外来通院または入院中のてんかん患者とし,2015年7月から2016年8月に調査を実施した.対象者に対し,生活習慣および歯科衛生に関する面接調査,口腔内観察および臨床情報の収集を行った.小児51名(男児27名,女児24名,1‒14歳,平均年齢6.7歳)を分析対象とした.てんかんの治療としてケトン食療法を行っている小児(食事療法群)15名と食事療法以外の方法でてんかんの治療を行っている小児(対照群)36名の比較において,う蝕疑い歯の有無,歯肉の炎症所見の有無,歯肉増殖の所見の有無,かかりつけ歯科医の有無,口腔保健行動に関して統計的な有意差は認められなかった.歯ぎしりは食事療法群で有意に割合が高かった(p=0.030).「歯の色が気になる」という保護者の訴えは食事療法群の40%,対照群の16.7%にみられたが,統計的な有意差は認められなかった(p=0.079).本研究においては歯の着色の詳細な調査はしておらず,歯の着色の状況および原因を明らかにすることはできなかったが,今後解決すべき課題であると考える.また,食事療法群において甘味料を理由に歯磨剤の使用を避けている保護者が1名みられ,安心して使用できる歯磨剤に関する情報提供の必要性が示唆された.