口腔衛生学会雑誌
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原著
S-PRGフィラー配合歯磨剤から徐放される無機イオンは口腔バイオフィルムのフッ化物停滞性を促進する
加藤 一夫田村 清美嶋﨑 義浩
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2021 年 71 巻 1 号 p. 28-35

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抄録

 表面改質型酸反応性無機ガラス(S-PRG)フィラーから徐放される無機イオン(Al3+, BO33-, F-, Na+, SiO32- およびSr2+)が同時に口腔バイオフィルムに作用した際のF-動態に与える影響をみるため,Sr2+ がバイオフィルムのF- 停滞性を促進させるという仮説を立て,その検証を行った.被験者18名の口腔に留置したエナメル質スラブ上にバイオフィルムを堆積させ,3日間朝夕2回,S-PRGフィラー配合歯磨剤濾過液で1分間浸漬処理した.フィラー未配合歯磨剤濾過液にF-とSr2+ またはF- のみを添加した溶液で処理したものを陽性(PC)および陰性対照(NC)とした.包埋した試料を薄片化(2または4 µm)し,3層の層別試料分画(厚さ300 µm)に分離した.酢酸緩衝液で4 µm 切片から無機イオンを抽出後,F- をイオン電極,Al3+, BO33- およびSr2+ をICP-AESで定量した.結果は2 µm切片の染色面積と厚さから推定したバイオマス容積で補正後,ノンパラメトリック法で統計的に検討した.すべての試料が同じF-濃度の歯磨剤濾過液で処理されたにも関わらず,S-PRG群のF- 濃度はPC群の外層と中層およびNC群の全層より有意に高くなった一方,PC群とNC群の間では差は認められず,仮説は検証できなかった.S-PRGフィラー配合歯磨剤濾過液によるフッ化物停滞性はSr2+ 単独の作用ではなく,多種イオンとの相互作用による可能性が示唆された.

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© 2021 一般社団法人 口腔衛生学会
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