本研究では再石灰化時のフッ化物添加とpHサイクリング時間がエナメル質の表面性状に与える影響をナノスケールでの微小表面粗さと脱灰量により検討した.
ヒトエナメル質を切り出し研磨した.試料は12個ずつ4実験群に割り付けた.また実験群とは異なる2個の試料は形態観察用とした.
実験1:脱灰と再石灰化を5分間ずつ4回繰り返した.実験 2:脱灰とフッ化物添加再石灰化を5分間ずつ4回繰り返した.実験3:脱灰と再石灰化を1分間ずつ20回繰り返した.実験 4:脱灰とフッ化物添加再石灰化を1分間ずつ20回繰り返した.試料は微小表面粗さ(Ra(算術平均高さ),Rq(二乗平均平方根高さ))および脱灰量を測定し,再石灰時のフッ化物添加とpHサイクリング時間を要因とした二元配置分散分析により分析した.また,試料の原子間力顕微鏡(AFM)像により試料の微細構造の形態観察を行った.
その結果,Ra, Rqともにフッ化物添加により有意に低くなった(p<0.05)ものの,pHサイクリング時間は関連しなかった.また,脱灰量についてはどちらの要因についても関連しなかった.一方,AFM像から再石灰化溶液にフッ化物添加した実験群は結晶の粒径が大きいことが観察された.
以上より,短い時間でのpHサイクリングによるエナメル質の表面性状として,微小表面粗さのナノスケールによる評価では結晶の大きさは反映されずに再石灰化時のフッ化物添加により有意に小さくなることが示された.そして,微小表面粗さはpHサイクリング時間と関連せず,作用時間の合計に関連する可能性が示された.