口腔衛生学会雑誌
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就労継続支援事業所に通う成人知的障がい者の口腔機能に関する研究
中山 真理矢作 真依植野 正之
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2022 年 72 巻 4 号 p. 258-265

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抄録

 全身の健康と口腔の健康との関連を示すエビデンスは,口腔の機能が脆弱であると,低栄養状態が起こり,病気による生命予後が不良になることを示唆している.知的障がい者では,生活習慣病の徴候が早い年代からみられることや,歯や口の状態が不良であることがこれまでの研究で示されている.しかし,成人知的がい者の咀嚼などの口腔機能を定量的に測定した調査はほとんど行われていない.

 そこで,本研究は成人知的障がい者の口腔機能の総合的な指標である咀嚼の状態およびそれに関連する身体や口の状態を把握することを目的として行った.

 就労継続支援事業所に通所する48名(年齢中央値44.0歳)を分析の対象とし,身体状態,歯の状態,口腔機能について調査を行った.各調査項目は年齢階級別にKruskal-Wallis testを用いて分析し,主観的咀嚼能力と各調査項目との関連をMann-Whitney U testを用いて分析した.

 その結果,BMIの中央値は23.4,肥満の割合は33.3%であった.また,握力の中央値は21.5 kgであった.現在歯数と咀嚼単位数の中央値は27.5および8.0であり,年齢の上昇に伴い有意に減少した.口腔機能に関する項目の中央値は,客観的咀嚼能力の指標としてグミゼリー咀嚼時のグルコースの溶出量が82.5 mg/dL,主観的咀嚼能力の指標としての咀嚼スコアが91.7,最大舌圧が13.4 kPa,オーラルディアドコキネシスの/pa/, /ta/, /ka/音がそれぞれ2.8回/秒,2.7回/秒,3.1回/秒であった.どの口腔機能の項目においても年齢階級の上昇に伴う有意な減少はみられなかった.

 主観的咀嚼能力を示す咀嚼スコアは客観的咀嚼能力を示すグルコースの溶出量と関連が認められ,咀嚼スコアが低い者は,年齢が高く,BMI,握力,咀嚼単位数,オーラルディアドコキネシスの/ta/音が低値であった.

 成人知的障がい者においては,咀嚼などの口腔機能に関して不良な状態にある者が多い実態が認められた.この実態をさらに詳細に調査し,不良な口腔機能によりどのような問題が生じているのか更なる研究が必要であると考えられた.

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© 2022 一般社団法人 口腔衛生学会
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