口腔衛生学会雑誌
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72 巻, 4 号
令和4年10月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 廣島屋 貴俊, 山下 浩司, 於保 孝彦
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 72 巻 4 号 p. 234-240
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/15
    ジャーナル フリー

     自衛隊員は訓練期間中に口腔内環境が悪化しやすいため,適切な歯科保健行動による歯科疾患の予防が望まれる.これまでに自衛隊員の訓練期間中の歯科保健行動に影響を与える要因については明らかにされていない.本研究は陸上自衛隊員を対象としてアンケートおよび歯科健診を実施し,訓練期間中の歯科保健行動に影響を与える因子について検討した.平成26年にA駐屯地で歯科健診を受診した男性隊員658名を調査対象とした(平均年齢=35.2±9.4歳).健診時に得られた地域歯周疾患歯数(Community Periodontal Index)を用いて評価された歯周状態と歯科保健行動に関するアンケートを解析した.対象者の歯科保健行動を過去1年間の歯科受診歴で比較した結果,歯科受診歴あり群は歯科受診歴なし群と比較して訓練期間中の「歯ブラシの使用頻度」および「歯磨剤の使用頻度」が有意に高かった(p<0.01).その後,歯科保健行動を歯周疾患の総合的診断プログラム(FSPD34型)に該当する尺度に当てはめパス解析を行った結果,「歯科受診行動」と非訓練期間中および訓練期間中の「歯口清掃行動」との間に有意な関連を認めた.また,非訓練期間中および訓練期間中の「歯口清掃行動」は有意に相関していた(非標準化係数=0.38,p<0.01).本研究結果から,陸上自衛隊員における訓練期間中の歯科保健行動に「過去1年間の歯科受診歴」が関連している可能性が示唆された.

  • 清水 都, 小島 美樹, 井下 英二, 真田 依功子, 大森 智栄, 倉田 秀, 森崎 市治郎
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 72 巻 4 号 p. 241-250
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/15
    ジャーナル フリー

     歯科疾患や口腔の不健康とメタボリックシンドロームとの関連が,多くの疫学研究で報告されている.本研究では,壮年期男性における口腔の自覚症状とメタボリックシンドロームおよびそのリスク因子との関連を調べることを目的とした.歯科・医科健診データを用いて,4年間の後ろ向きコホート研究を行った.42歳時点で,メタボリックシンドロームがない者3,519人,肥満(高BMI)をもたない2,574人,高血圧症(高収縮期血圧かつ/または高拡張期血圧)をもたない者2,785人,脂質異常症(高中性脂肪かつ/または低HDLコレステロール)をもたない者2,879人,高血糖症(高空腹時血糖)をもたない者3,604人を解析対象とした.これらの項目別に,46歳時点で各項目を有する者の割合を,42歳時点における口腔の自覚症状の有無で比較した.ロジスティック回帰モデルを用いて交絡要因を調整したオッズ比と95% 信頼区間を算出した.その結果,生活習慣調整モデルでは「う蝕あり」と「歯肉出血」は高血圧症と,「歯肉出血」と「歯肉腫脹・疼痛」は高血糖症と有意に関連していた.生活習慣に加えて全身状態を調整したモデルにおいても,「歯肉出血」と高血圧症,「歯肉腫脹・疼痛」と高血糖症との関連は有意であった.以上の結果より,壮年期男性において,特に歯周病に関係する症状の自覚が,メタボリックシンドロームのリスクとなる状態の発症と関連することが示唆された.

報告
  • 星野 行孝, 片岡 正太, 茂山 博代, 角田 聡子, 安細 敏弘
    原稿種別: 報告
    2022 年 72 巻 4 号 p. 251-257
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/15
    ジャーナル フリー

     平成24年の周術期等口腔機能管理料の保険収載以降,地域での周術期等口腔機能管理の取り組みは全国的に行われつつある.しかし,現在開業歯科医院における周術期等口腔機能管理の実態については不明な点も多い.そこで,われわれはF県K市K区内開業歯科医院の周術期等口腔機能管理の現状および問題点を把握し,分析することを目的とした.K歯科医師会に所属する開業歯科医院225件を調査対象として,令和2年8月22日から令和2年10月31日までを回答期間として自記式調査票による質問紙調査を実施した.調査項目は,(1)周術期等口腔機能管理患者の来院状況,(2)周術期等口腔機能管理の具体的な実施状況,(3)周術期等口腔機能管理に対する歯科医師の意識状況,とした.また,テキストマイニング(KH Coder 3. Beta. 01h)を用いて自由記述欄の内容について質的評価を行った.その結果,解析対象は52件(回収率:23.1%)周術期等口腔機能管理の実施率は12 件(24.0%)であった.自由記述欄の内容を分析した結果,「周術期等口腔機能管理」を行っていない理由,「周術期等口腔機能管理」を行うつもりがない理由や大学への要望で,共通する回答として保険の知識の不足や医科との連携不足が挙げられた.以上より,開業歯科医院における周術期等口腔機能管理の実施率は低いまま推移しており,その背景として保険の知識不足など開業歯科医院側の問題や地域における医科歯科連携不足の現状が複合していることが示唆された.

  • 中山 真理, 矢作 真依, 植野 正之
    原稿種別: 報告
    2022 年 72 巻 4 号 p. 258-265
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/15
    ジャーナル フリー

     全身の健康と口腔の健康との関連を示すエビデンスは,口腔の機能が脆弱であると,低栄養状態が起こり,病気による生命予後が不良になることを示唆している.知的障がい者では,生活習慣病の徴候が早い年代からみられることや,歯や口の状態が不良であることがこれまでの研究で示されている.しかし,成人知的がい者の咀嚼などの口腔機能を定量的に測定した調査はほとんど行われていない.

     そこで,本研究は成人知的障がい者の口腔機能の総合的な指標である咀嚼の状態およびそれに関連する身体や口の状態を把握することを目的として行った.

     就労継続支援事業所に通所する48名(年齢中央値44.0歳)を分析の対象とし,身体状態,歯の状態,口腔機能について調査を行った.各調査項目は年齢階級別にKruskal-Wallis testを用いて分析し,主観的咀嚼能力と各調査項目との関連をMann-Whitney U testを用いて分析した.

     その結果,BMIの中央値は23.4,肥満の割合は33.3%であった.また,握力の中央値は21.5 kgであった.現在歯数と咀嚼単位数の中央値は27.5および8.0であり,年齢の上昇に伴い有意に減少した.口腔機能に関する項目の中央値は,客観的咀嚼能力の指標としてグミゼリー咀嚼時のグルコースの溶出量が82.5 mg/dL,主観的咀嚼能力の指標としての咀嚼スコアが91.7,最大舌圧が13.4 kPa,オーラルディアドコキネシスの/pa/, /ta/, /ka/音がそれぞれ2.8回/秒,2.7回/秒,3.1回/秒であった.どの口腔機能の項目においても年齢階級の上昇に伴う有意な減少はみられなかった.

     主観的咀嚼能力を示す咀嚼スコアは客観的咀嚼能力を示すグルコースの溶出量と関連が認められ,咀嚼スコアが低い者は,年齢が高く,BMI,握力,咀嚼単位数,オーラルディアドコキネシスの/ta/音が低値であった.

     成人知的障がい者においては,咀嚼などの口腔機能に関して不良な状態にある者が多い実態が認められた.この実態をさらに詳細に調査し,不良な口腔機能によりどのような問題が生じているのか更なる研究が必要であると考えられた.

資料
  • 笹原 妃佐子, 杉山 勝, 内田 堅一郎, 西村 瑠美, 前原 朝子, 倉脇 由布子, 林堂 安貴, 二川 浩樹
    原稿種別: 資料
    2022 年 72 巻 4 号 p. 266-271
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/15
    ジャーナル フリー

     抑うつ度は癌患者の生活の質(QOL)に大きく影響している.そこで,われわれは,積極的治療が終了し再発のみられない口腔癌患者233名に対して,SDSうつ性自己評価尺度(SDS)を利用して抑うつ度を調べた.また,抑うつ度と同時に生活の質をUniversity of Washington Quality of Life 質問紙を用いて調べ,抑うつ度と生活の質との関連性を調査した.

     その結果,中等度以上の抑うつ度と判断される患者が1/6程度みられた.また,対象患者のQOLは一般的に高く,抑うつ度とも有意な負の相関がみられた.一方,〈Anxiety〉と抑うつ度との関連はみられなかった.

     積極的治療が終了した段階の口腔癌患者においても,SDS尺度により抑うつ性がみられた場合には,QOLを良好に保つため,必要に応じて心理的介入を行うべきと考えられた.

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