2024 年 74 巻 1 号 p. 52-58
Streptococcus mutans(S. mutans)は,う蝕病原細菌として知られており,グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)によって不溶性グルカンを合成する.そのため,S. mutansのGTFはバイオフィルム形成に深く関与する重要な病原因子であると考えられている.
ヒノキチオール(HNK)は,細菌や真菌に対して抗菌作用を有しているが,S. mutansに対する抗菌作用やバイオフィルム形成に与える影響についての報告は少ない.本研究では,S. mutansに対するHNKの抗菌効果,およびバイオフィルム形成抑制効果を検討した.HNKを添加した培地にS. mutansを加え,経時的に濁度を測定することにより増殖阻害効果を調べた.次に,S. mutansバイオフィルム形成に対する阻害効果を検討するため,HNKを添加した培地にS. mutansを加え,24時間作用させた後,バイオフィルム形成量を測定した.また,バイオフィルム形成関連遺伝子(gtfB,gtfC,gtfD)の発現量の比較をRT-qPCR法にて行った.その結果,HNKは濃度依存的にS. mutansの増殖を阻害し,バイオフィルム形成を抑制することが示された.また,HNK添加群では,S. mutansバイオフィルム形成関連遺伝子に対する発現が有意に抑制されていた.
以上の結果から,HNKはS. mutansバイオフィルム形成を抑制するとともに,バイオフィルムに対し殺菌効果を有し,う蝕予防に対し有効であることが示唆された.