口腔衛生学会雑誌
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最新号
令和6年1月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 山下 喜久
    原稿種別: 総説
    2024 年 74 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

     従来の口腔ケアに代わる口腔健康管理の新しい定義が日本歯科医師会から公表されて5年が過ぎたが,その定義の理解は歯科界内部においてさえ十分ではない.この口腔健康管理ではケアとキュアを統合した新しい歯科保健医療の理念が構築されており,予防の概念を積極的に組み込んだ今後の歯科医療のあり方を総論的に捉えて,その理念を社会にわかりやすく説明するうえで有益である.その一方で,その分類は実施者が誰かという点に主眼が置かれており,ケア部分の具体的な方法論についての言及が不足していることから,今後求められる予防等の処置の手技手法の開発の目標設定には対応していない.そこで,本小論では改めてこの新しい概念を再考して,その理解を深めるとともに,ケアの部分により焦点を当てた口腔健康維持・支援の概念を提唱した.さらに口腔健康維持・支援を手段と目的に基づき大きく4つのタイプに分類し,それぞれのタイプの口腔健康維持・支援手技の現状を踏まえて,今後必要なhealth-oriented保健医療の技術開発に向けての課題を示した.

原著
  • 稲田 さくら
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,口腔機能とサルコペニアとの関連の報告が増えている.しかし,これらの先行研究において,口腔機能に加えて現在歯数を含む口腔状態とサルコペニアとの関連については,ほとんど検討されていない.さらに,研究間で一貫性がなく,詳細な関連性は明らかにされていない.本研究の目的は,高齢者における口腔機能を含む詳細な口腔状態とサルコペニアとの関連を検討することである.2022年10月~2023年6月に岡山大学病院歯科外来を受診した60歳以上の患者を対象に,サルコペニア,口腔状態,栄養状態,精神・心理状態,併存疾患を調査した.口腔状態は,舌背細菌数,口腔湿潤度,舌圧,咬合力,オーラルディアドコキネシス(Oral diadochokinesis:ODK),咀嚼機能,嚥下機能,現在歯数を評価した.栄養状態は簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment: MNA)を用い,精神・心理状態は老年期うつ病評価尺度を用いて評価した.χ2 検定およびMann-Whitney U 検定によると,年齢,性別,舌圧,ODK/pa/,/ka/,現在歯数,MNA値がサルコペニアと関連していた.共分散構造分析の結果,舌圧が低いほど栄養状態が悪く,栄養状態が悪いほどサルコペニアであった.年齢は,舌圧,栄養状態およびサルコペニアと関連があった.

     結論として,舌圧は栄養状態と関連し,栄養状態はサルコペニアと関連した.舌圧の低下が栄養状態の悪化につながり,サルコペニアを引き起こす可能性が示された.

  • 山地 加奈
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,矯正歯科治療におけるセルフケアに対する課題固有的な自己効力感測定尺度(Self-efficacy scale for self-care;SESS)を開発し,その信頼性と妥当性を明らかにすることを目的とした.47項目からなる尺度原案を作成し,矯正歯科治療を受ける患者52名を対象に予備調査を実施した.項目分析により16項目からなるSESSを作成した.次に,信頼性と妥当性を検証するために,矯正歯科治療を受ける患者83名を対象に本調査を実施した.因子分析の結果,「ブラッシングに関する自己効力感」「習慣化に関する自己効力感」および「間食・受診に関する自己効力感」の三つの因子が抽出された.SESSの内的整合性ではCronbachのα係数が0.89であり,テスト─再テスト間に有意な相関(ρ=0.73,p<0.001)が認められ,高い信頼性が確認された.SESSは一般性セルフ・エフィカシー尺度と有意な相関が認められ(ρ=0.23,p=0.037),併存的妥当性が示された.矯正装置装着前後の歯垢付着を比較すると,SESSの高得点群と低得点群には有意な差がみられなかったことより,SESSの予測的妥当性は示されなかった.以上から,今回開発した矯正歯科治療におけるSESSには高い信頼性と併存的妥当性が認められた.本SESSを用いた今後の臨床研究への応用が期待される.

  • 佐久間 愛, 福井 誠, 麻生 幸男, 日野出 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 1 号 p. 40-51
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,日本の成人に対するモチベーションスケールスコア(MSS)の有用性を評価すること,および歯周基本治療における口腔状態に関連するモチベーションを,MSSを用いて検討することである.

     対象者は静岡市の歯科診療所に来院した20~64歳の初診歯周病患者221名である.MSSは患者のモチベーション評価尺度に関する14項目の質問紙を用いて算出し,MSSの主成分分析を行った.また,ベースライン時および歯周基本治療後の MSS と口腔保健行動項目,歯周状態[Bleeding on probing (BOP) 率,Periodontal inflamed surface area (PISA)]および口腔衛生状態[O’LearyのPlaque control record (PCR)]との関係を評価した.

     MSS は信頼性と妥当性の点からその有用性が示され,5つの要素に分類された.ベースライン時BOP10%未満の者はBOP10%以上の者と比較してMSSおよびMSS-F1(口腔衛生行動)が有意に高かった.また,年1回の歯科健診受診,歯間部清掃用具の使用の者はMSSおよびMSS-F1が有意に高く,非喫煙者でMSS-F1が有意に高かった.二項ロジスティック回帰分析において,ベースライン時BOP10%以上と統計学的に有意な関連を認めた因子は歯間部清掃用具の使用であった.一方,歯周基本治療後,喫煙状況を除くすべての項目で良好な改善が認められた.このうち,歯周基本治療後のPCR20%未満の者はMSSが有意に高く,歯間部清掃用具の使用および非喫煙者においてMSS-F1が有意に高かった.

     本研究で用いたMSSは有用であり,ベースライン時の歯周組織状態および口腔保健行動と関連した.歯周基本治療介入後,MSS およびMSS-F1の値は有意に上昇した.歯間部清掃用具の使用は良好な歯周組織状態と関連し,MSSの高値と関連した.それ故,高いモチベーションが,歯間部清掃用具の使用によって口腔保健行動の改善に対する患者のコンプライアンスに影響を与え,歯周病患者の良好な口腔状態を導いた可能性がある.

  • 吉松 英樹, 河村 佳穂里, 黄 哲麒, 楊 世傑, 李 前穎, 北山 貴也, 小柳 圭代, 加納 慶太, 土居 貴士, 小野 圭昭, 片岡 ...
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

     Streptococcus mutansS. mutans)は,う蝕病原細菌として知られており,グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)によって不溶性グルカンを合成する.そのため,S. mutansのGTFはバイオフィルム形成に深く関与する重要な病原因子であると考えられている.

     ヒノキチオール(HNK)は,細菌や真菌に対して抗菌作用を有しているが,S. mutansに対する抗菌作用やバイオフィルム形成に与える影響についての報告は少ない.本研究では,S. mutansに対するHNKの抗菌効果,およびバイオフィルム形成抑制効果を検討した.HNKを添加した培地にS. mutansを加え,経時的に濁度を測定することにより増殖阻害効果を調べた.次に,S. mutansバイオフィルム形成に対する阻害効果を検討するため,HNKを添加した培地にS. mutansを加え,24時間作用させた後,バイオフィルム形成量を測定した.また,バイオフィルム形成関連遺伝子(gtfB,gtfC,gtfD)の発現量の比較をRT-qPCR法にて行った.その結果,HNKは濃度依存的にS. mutansの増殖を阻害し,バイオフィルム形成を抑制することが示された.また,HNK添加群では,S. mutansバイオフィルム形成関連遺伝子に対する発現が有意に抑制されていた.

     以上の結果から,HNKはS. mutansバイオフィルム形成を抑制するとともに,バイオフィルムに対し殺菌効果を有し,う蝕予防に対し有効であることが示唆された.

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