2025 年 75 巻 2 号 p. 97-101
健康日本21や歯科口腔保健の推進に関する基本的事項において,健康格差の縮小が重要な目標として掲げられている.貧困やひとり親家庭などの健康の社会的決定要因は,経済的な余裕や時間的な余裕を減らし,子どもの歯科受診を難しくして健康格差の一因となると考えられる.デンタルネグレクトは医療ネグレクトの一種であり,特に口腔領域における医療を受けさせないことを指す.これは子どもの健康や発達に深刻な障害をもたらす可能性が高い.子どもの頃の虐待は高齢期の歯の喪失リスクを高め,全身の健康にも影響を及ぼす.そこで本報告では,デンタルネグレクトに焦点を当て,その解決のために歯科医院と子ども食堂,行政が連携した取り組みを紹介する.この取り組みでは歯科医院Aと子ども食堂Bが連携し,歯の健康講座の定期的な開催や,歯ブラシやフッ化物配合歯磨剤の配布等を無償とした歯科健康教育を行うことで,ハイリスク集団へのアプローチを実施した.さらに,ボランティアスタッフが子どもに歯科医院への同行受診を行い,う蝕治療と定期健診の受診を支援する取り組みも行った.今後は,子ども食堂での健康講座において歯科検診を実施し,ネグレクト児童のスクリーニングを行うことで同行受診につなげ,さらに多くの子どもたちが必要な歯科医療を受けられる仕組みを作る予定である.これにより,健康格差の縮小に貢献することが期待される.