ヒトの唾液中にはリゾチームが含まれ口腔の感染防禦に役立つていることはすでに知られている。近時卵白リゾチームが溶菌作用以外に抗炎症作用等の薬理作用などをもつていることが明らかにされ歯科領域においても卵白リゾチーム製剤が歯周病の治療に応用されつつある。しかしながら唾液リゾチームと卵白リゾチームとの蛋白性状等の差異についてはPetitら (1963), Balekjianら (1969) の報告を除いては充分に検討されていない。本研究は大量のヒト耳下腺唾液からリゾチームを単一に精製し精製標品について卵白リゾチームとの異同を明らかにすると共に先人の唾液リゾチームの報告との比較検討を行なつた。耳下腺唾液8lからリゾチームをcellulose column chromatography, ゲル濾過ならびにAmberliteによるイオン交換法により525倍に精製した。精製標品は超遠心分析ならびに電気泳動により単一であることを確認した。この耳下腺唾液リゾチームはS20, w=1.8の沈降定数をもち, ニワトリ卵白リゾチームより3.5倍高い比活性をもつことがわかつた。アミノ酸分析の結果, 18種類のアミノ酸より構成され卵白リゾチームと同様であつたが, tyrosine, serineならびにglutamic acidの含量が異なり特にtyrosineは卵白リゾチームの2倍の含量を示した。活性アミノ酸であるtryptophan含量はBalekjianらが唾液リゾチームで得た1分子あたり2個に対し5個と大きな違いがみられた。耳下腺唾液のリゾチームの分子量はアミノ酸組成から14,300と推定された。