口腔衛生学会雑誌
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手用歯ブラシによる歯みがき圧, 歯みがき動作の回数および歯垢清掃効果に及ぼすブラッシング指導の影響について
松沢 栄
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1974 年 24 巻 2 号 p. 152-175

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抄録
一般に人間の技術は指導を受けることによって上達し, その結果, その技術を用いて行なう仕事の効率や効果も向上するのが常である。歯みがき動作もいうならば, 一種の技術である。
もし, ブラッシング指導を受けていないならば, 各人の習慣性や癖によつて刷掃しているから, 歯垢清掃の効率も悪く, 清掃効果も十分に上らないであろう。また, 指導を受けても, 日がたつと歯みがき動作の技術がその人固有の方法に固定してしまったりする。まして, 指導されたとおりに刷掃していないときには, もとの指導前の刷掃状態にもどってしまう。
したがって, ブラッシング指導を受けたかどうか, また指導を受けたあとも, 指導されたとおりの方法で刷掃しているかどうかは, 歯みがき動作の効率と効果, すなわち歯垢清掃効果と効率とに影響を与える。
本実験では, この影響について検討を加えた。
歯みがき圧は指導後には大きくなるが, 歯みがき動作の回数は指導直後に一時的に指導前よりも減少し, その後しだいに増加する。また, 指導直後では指導された歯みがき方法に慣れていないために, 個差による歯みがき圧および歯みがき動作の回数の変動幅は小さくなる。このことは, 一定の歯みがき方法を指導することが, 各個人の歯みがき技術の程度を同一にし, その結果個人差を小さくすることになることを示している。
しかし, 指導後の日数がたつにつれて, 個人差による変動幅は大きくなる。これは指導された歯みがき方法に対する各個人の慣れがでてきた結果である。
以上のような歯みがき圧および歯みがき動作の回数の経日的変化は, どの歯みがき部位においても同じ傾向を示す。すなわち, 指導効果はどの部位にも現われる。そして, 歯垢清掃効果率はブラッシング指導によつて増加する。ブラッシング指導を受けた被検者は, 一般に効率のよい歯みがき方法を行なつているわけである。
しかし, 歯みがき圧は歯垢清掃効果率が100%である被検者においては, 歯みがき動作の回数に逆比例することおよび上顎および下顎の前歯部唇面は歯垢清掃効果率がよく, 上顎および下顎の右側臼歯部舌面では低いことは, 指導前はもちろん指導後においても同様に認められるので, ブラッシング指導をしても, 手用歯ブラシを用いて刷掃する限りでは, 以上のような歯みがき動作の基本的な法則性を本質的に変えることは不可能である。
したがって, ブラッシング指導によって歯垢清掃効果を高めることはできるが, その効果を期待するためには, 各個人の習慣性や癖を十二分に考慮に入れて, 指導することが肝要である。
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© 有限責任中間法人日本口腔衛生学会
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