抄録
フッ素 (F) が, 骨代謝に及ぼす影響について, 骨代謝を反映する一つの指標とされる尿中hydroxyproline (OHPro) を手がかりに検討した。実験はウイスター系雄性ラットを用い, 低F飼料飼育下で, 各種濃度のNaF溶液を45日間自由に飲用させた慢性毒性実験と, NaFを一回投与した急性毒性実験を行った。
慢性毒性実験では, 100, 200ppmF飲用群で, free-及びtotal-OHProの排泄減少傾向がみられ, 骨吸収の抑制とコラーゲンの合成阻害が考えられた。10, 50ppmF飲用群では, F飯用15日目頃に尿中OHPro (free, total) の排泄増加がみられ, 一時的な骨吸収の促進が起こるようであった。これらの結果から, ある程度以上のフッ化物の飲用により, 初期変化として一時的な骨吸収がみられ, その後持続的なF摂取によって骨吸収が抑制されるという過程が推測された。大腿骨の軟X線写真像では, 200ppmF飲用群で骨皮質が薄くなる傾向がみられた。また大腿骨中の無機成分については, 10, 50ppmF飲用群でCa/P (モル) 比の上昇がみられた。
急性毒性実験では, NaF投与時に骨の代謝活性の高い部分で, 一時的に急激な骨吸収が起こるようである。これらの変化は血清CaとFとの反応などが考えられ, さらにCa代謝機構が複雑に関与しているようであった。
いずれの実験においても血清alkaline phosphatase活性には, 明らかな傾向は認められず, Fは骨芽細胞に対してはそれほど影響を及ぼさないものと考えられた。