口腔衛生学会雑誌
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マウス親仔の骨フッ素濃度に及ぼすフッ素摂取量の影響
小林 清吾
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1982 年 32 巻 1 号 p. 51-70

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抄録
CF#1系のマウスを用い, フッ素摂取量が親仔の骨フッ素濃度に及ぼす影響を, 3代にわたって調査した。とくに, 親の摂取したフッ素が, 胎仔や哺乳中の幼若マウスへ移送される様相について検討した。
実験群には低フッ素飼料 (F=0.55ppm) を基礎飼料とし, 0ppm, 0.25ppm, 0.5ppm, 1ppm, 2ppm, 5ppm, 10ppm, 20ppm のフッ素濃度の飲料水を与え, また。対照群には市販の飼育用飼料 (F=33ppm) と普通の水道水 (0.1ppm) をそのまま与えた。骨フッ素濃度は, 親の大腿骨, 仔の四肢骨を分離, 軟組織を除去, 室温乾燥し, 微量拡散法とイオン電極法によって測定した。
胎生期より, 終生同一条件で飼育された1代親の骨フッ素濃度は, 水のフッ素濃度をよく反映し, フッ素摂取量が増加するにつれ直線的に増大していた。その飲料水フッ素濃度別の隣接する群間の差はいつれも統計学的に有意であった。一方, 新生仔の骨フッ素濃度についてみると, 0ppm~2ppm実験群においては差がみられず, 5ppm以上の実験群では親の傾向に比例した増加が認められた。しかし, 0ppm実験群と20ppm実験群を比べた場合, 親の骨フッ素濃度は1: 113という著しい差が生じているが, 仔では1: 6程度に留っていた。そして, 骨フッ素濃度の親に対する仔の割合をみると, 0ppm群では138%, 0.25ppm群, 37.9%, 1ppm群, 14.4%, 20ppm群, 7.7%であった。すなわち, 0ppm群においてのみ, 仔の方が有意に高い骨フッ素濃度を示し, その他の群では総て親の方が高い値で, その差はフッ素摂取量の多い群ほど大きくなっていた。これらのことから, フッ素摂取量が低い場合, 胎仔に移送されるフッ素量は一定レベルに保持され, 一方, フッ素摂取量が多くなると大幅に抑制されているものと考えられた。
また, 生後日数による骨フッ素濃度の変化を観察したところ, 一般的な加令にともなう増加傾向に反して哺乳期間中は骨フッ素濃度が減少し, 新生仔に比べ離乳直前の時点では約1/3の濃度になっていた。この傾向は測定した0ppm, 2ppm, 20ppmの群とも同様であった。すなわち, 成長による急激な骨の造成量に対し, 乳汁だけからのフッ素摂取量は母胎内で供給される量, あるいは離乳後飼料から摂取する量よりも少いことを示唆するものと思われた。
なお, 対照群のフッ棄摂取量は20ppm実験群と同程度であったが, 1代親マウスの場合, 対照群の骨フッ素濃度は5ppmと10ppm実験群の中間に相当し, 新生仔の場合, 対照群の骨フッ素濃度は10ppm実験群よりやや高い値となっていた。
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