口腔衛生学会雑誌
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歯と顎骨の不調和の歯頸部編蝕の発生に対する影響
郭 敬恵
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1983 年 32 巻 5 号 p. 439-457

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抄録

歯と顎骨の不調和 (tooth todenture base discrepancy) の齲蝕の発生に対する病因性を検討するため, 歯頸部齲蝕をとり上げ, 4つの異なる資料を用いて検討し, 総合的な評価を試みた。
1. 矯正治療のため早期抜去された若年者の歯の調査では, 歯と顎骨の不調和がある個体の歯頸部に高い頻度の脱灰像が認められ, しかもこれらの脱灰像がエナメル質の初期齲蝕像である可能性が大きいように思われた。2. 歯頸部齲蝕の多発がみられる臨床患者の調査では, 患者のtotal diiserepancy (負の値として表現される) の平均値が一般集団のそれと比べて有意に低いことが確認された。3. 青年期の一般集団の口腔模型の調査では, 歯頸部齲蝕の発生と歯と顎骨の不調和の独立性が棄却され, 両者の間に高い関連があることが知られた。4. 後期縄文時代から現代まで各時代の日本人古人骨および生体についての調査では, 各時代における歯頸部齲蝕の頻度には, 他の齲蝕と共通の推移がみられた。また, 齲蝕の発生要因としては, 縄文時代には, 口腔内環境汚染が主導的な役割を果していると考えられたが, 中世にはdiscrepancyの影響が優位になることが知られた。これに対して, 現代人の歯頸部齲蝕は両者の複合型であるように思われた。
以上のことから, 歯と顎骨の不調和は歯頸部齲蝕の発生の内部要因の1つであると考えることができるように思われた。

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