口腔衛生学会雑誌
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う蝕の発生および進行機序に関する実験的研究
和田 聖一
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1983 年 32 巻 5 号 p. 563-578

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抄録

離乳期ハムスターの口腔内にS. mutans1089 (serotype d) を接種し, う蝕誘発食Diet2000 (CLEA Co., Japan) を用いて, う蝕発生および進行に影響を与える食餌因子について検索した。これらの因子によって影響される歯垢中の微生物の消長について実験的研究を行なった。
実験 (I) では, う蝕誘発性食餌を用いて, その中のショ糖の粒度およびショ糖の含有量, 更にはう蝕誘発性食餌に種々の加工操作を加えて物理的形状の異なった食餌を作製して, これらの食餌を離乳期ハムスターに与えることによってう蝕発生およびその進行の程度に与える影響について検索した。実験 (II) では, S. mutansを中心として歯垢内細菌叢の変動を追求し, さらに歯垢内細菌叢の変動を定量的に測定する方法としてATP量を用いて判定した。
その結果, 次のことが明らかになった。
1. 粉末のう蝕誘発食中のショ糖粒度は, う蝕の発生および進行に強く影響していた。
2. う蝕の発生および進行は, う蝕誘発食に加えた, 例えば水を混合して, 混捏する, 固形成型する, 熱処理するような操作によって変化する物理的形状とも強く関連した。また口腔内停滞性の高い食餌群ほど高いう蝕罹患状態を示した。
3. 熱処理にともなってう蝕誘発食は, その栄養価が低下してう蝕進行に与える影響がみられるが, この栄養価の低下によって生ずるう蝕発症に与える影響は全身に与えるそれと比較して極めて軽度であった。
4. う蝕の発生および進行は, う蝕誘発食を固形成型処理した場合には, ショ糖含有量に依存していないことが明らかになった。
5. S. mutansの定常期は, ショ糖存在下においては著明に延長した。
6. S. mutansは, 実験開始後4週間で, 歯垢細菌叢の80%以上を占めた。
7. 高度なう蝕の発生および進行を示す群は, 対照群に比較して, 総生菌数, S. mutans数の有意な増加を示していた。
8. ATP量の測定は, う蝕誘発性を示す歯垢の生細菌の動態の検索に有効であった。
9. う蝕発症に関する動物実験では, 使用したう蝕誘発食の物理的性状を明らかにする必要がある。

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