抄録
炭酸リチウムは双極性障害の治療薬として広く使用されている。リチウムの標的として様々な分子が報告されているが,リチウムの詳細な作用機序には不明な点が多く残されている。これまでにリチウムの神経新生や軸索伸長といった神経分化の誘導作用が数多く報告されており,妊娠中のリチウムの服用は胎児の奇形を引き起こすことが広く知られているが,その詳細な催奇形性のメカニズムは解明されていない。このような背景を踏まえて,我々はリチウムの持つ神経分化作用機序の解明を行うため,マウス神経芽細胞腫由来N1E-115細胞を用いて解析を行った。N1E-115細胞へのリチウム添加により,添加12時間後から神経突起の伸長がみられ,24時間後では約30%の細胞で突起伸長が観察された。リチウムはglycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)を阻害することが知られていることから,GSK-3β阻害剤を用いて同様の検討を行った。その結果,リチウム添加と同様にGSK-3β阻害剤添加でも顕著な突起伸長が観察された。次にリチウム/GSK-3βの下流で作用する因子としてSorting nexin(SNX)ファミリーの1つであるSNX3に着目し解析を行った。その結果,リチウム添加による突起伸長時にSNX3発現が顕著に増大し,またSNX3のノックダウンによりリチウム誘導性の突起伸長が抑制されることが明らかとなった。これらの結果から,リチウムがGSK-3阻害を介してSNX3発現を亢進させ,神経突起伸長を促進していると考えられた。