抄録
Early-Life Exposure(ELE)は胎芽・胎児期から成長・発達が完了するまでの薬や環境物質への曝露を広く捉えた概念で,遺伝情報発現の修飾さらに進化などへの関連を含めepigeneticsの分野で使われる.成長・発達途上の個体を各年齢層に分断して考えるのが小児科学,小児臨床薬理学の基本だが,Early-Lifeとして一括して扱うことで連続性が意識されるので,本稿では試みとしてこの言葉を使いたい.ELEのテーマの中から,ここでは薬の胎児毒性と生後の薬物代謝・排泄能の発達について,問題点や知識のギャップを議論する.第一は,胎児毒性因子・催奇形因子(teratogen)を特定することが単純そうで実は複雑な問題を含んでいる点である.Shepardの基準(1994)はteratogen定義の基本だが,一定の相対危険度をカットオフとして必須項目の1つに加えている.しかし二分法的な解釈をすることで連続的な用量依存性の現実にそぐわなくなり,また「対照群の毒性リスクより高いがカットオフ値より低い」多くの薬物に対処できない.むしろteratogenか否かを決めるより,用量を考慮したうえで帰結の発生頻度を議論するほうが現実的であろう.第二は,小児臨床薬理学の基本ともいえる薬物代謝・排泄能の発達と成長(体重で表される身体サイズの増加)の関係,それに基づく小児の至適投与量への考え方の共有が,私見だが,不十分に思う点である.これは母乳を介する乳児の薬物曝露と乳幼児への直接の薬物治療の両方に関わる.まず薬物代謝・排泄能が未熟の乳児では乳汁中の比較的少量の薬でも大きな曝露になるのでは,という懸念が根強い.同様に治療目的での乳幼児への薬物投与量は,体重あたりの成人投与量よりかなり低いと漠然と認識されている.肝臓・腎臓のサイズは体重換算で出生時には成人値の2倍ほどだが,その後の臓器成長が体重増加よりも緩やかなため,体重比にすると臓器サイズは成長とともに減り思春期頃にはほぼ成人値に落ち着く.この「全体」と「部分」の成長速度の関係は単純比例の一次式ではなく,「べき乗式」で一般化されallometry原則として知られる.肝臓・腎臓あたりの酵素量や糸球体濾過率などが出生時に成人レベルの半分だったとしても,これらの臓器容量が体重あたりで成人値の2倍なので,体重換算すると(50%の2倍)成人と同じことになる.その結果,体重あたりの至適投与量も成人と同じになる(感受性など他の要素が全て同じなら).さらに臓器あたりの酵素などが成人レベルに近づくと,体重あたりの薬物代謝・排泄能が成人値を超えることになる.この原則があって小児期には体重換算の至適投与量が成人より大きくなる.正確な発達プロファイルは薬によって違うが,この原則を理解しておくことは重要である.またAllometric scalingは薬物動態論,とくにモデル解析の基本的ツールである.モデリング解析が小児領域で盛んになるにつれ,ELE薬理学に携わる者は専門家・伝道者の役目を負う.その際,allometry原則の理解は基本的な薬物動態の解釈技術とともにますます重要になるであろう.