環境化学
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総説
水成膜泡消火剤AFFFに含まれるフッ素系界面活性剤
柴田 康行
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電子付録

2026 年 36 巻 p. 1-18

詳細
要約

 基地における消火活動や消火訓練による,周辺の表流水や地下水のPFAS汚染が近年大きな問題となっている。水成膜泡消火剤AFFFは激しい油火災を消火し人命や資産を保護する有効な手段として,半世紀以上にわたり精力的に開発され利用されてきた。しかしながらAFFFのPFASやその他の添加物は企業秘密で公開されておらず,汚染の把握や適切な対策の遅れが生じて事態のさらなる悪化が引き起こされている。AFFF由来のPFAS汚染に対する効果的な対策実施を支援するための科学基盤の強化を目的として,本総説では米軍におけるAFFFの開発経緯並びにPFASやその他の添加物の組成に関する定量的情報を収集,整理した。AFFFの主要成分は製造メーカーにより異なり,製品の種類や製造時期によっても変化する。また,主成分として複数の異なる構造のPFASが混合されている場合も多く,AFFFからはその合成中間体或いは副生成物と思われる物質も検出される。特に日本で使われたAFFFのPFASに関する情報は不足しており,分析や毒性評価のための標準物質の整備と,国内における使用AFFFの組成や基地その他のAFFF使用箇所周辺の汚染実態解明が求められる。

Summary

Surface and ground water pollution by per/polyfluoroalkyl substances (PFAS) caused by firefighting/training activities at military bases have been of serious concern in recent years. Aqueous Film-Forming Foams (AFFF) have been developed and used extensively for more than half a century as efficient tools to extinguish severe fuel fires and to save human life/properties. The compositions of PFAS and other additives, however, are confidential and not open to the public, and the secretive attitudes worsen the situation by causing delay of recognition of, and proper actions against the pollution caused by PFAS in AFFF. The purpose of this review is to strengthen scientific basis to support effective measures against the pollution by collecting and compiling information on the historical development of and the compositions of PFAS and other additives in AFFF for US military. It was found that major PFAS in AFFF were different depending on company / product / production years, and that frequently several different PFAS were found in a AFFF as major components together with their production intermediates and/or by-products. Quantitative information on the PFAS in AFFF, particularly those used in Japan, are still insufficient, and it is needed to provide standards for the quantitative analysis and toxicological researches and to promote researches on the composition of AFFF and pollution status around the military bases / other AFFF used locations in Japan.

1. はじめに

いわゆるPFAS(Per/polyfluorinated Alkyl Substances:全/ポリフッ素化アルキル化合物)によるヒトや環境の汚染が大きな社会問題となり,本学会でも特集号1が組まれた。なかでも高濃度かつ広範囲におよぶ汚染事例として,基地周辺での水環境汚染,地下環境汚染があげられる。これらは主に火災或いは消火訓練で放出されたAFFF(Aqueous film-forming foams:水成膜泡消火剤)に起因すると考えられる2。AFFFは様々な構造のPFASを含み,放出されるとその一部は水路などを通じて表流水に,残りは地下に浸透して地下水に溶け込み,あるいは土壌等に吸着・保持されて継続的な汚染を引き起こす。

PFASを含むAFFFの開発,利用は1960年代に始まり,3M社のPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)製造中止(2002年)後も代替PFASを含む製品の利用が続いた。AFFFはガソリンなど可燃性の高い燃料(以後「油」と略記)火災において早期消火,人命救助,延焼防止等に重要な役割を果たし,その開発には多くの努力がはらわれた。しかしながら,その主成分であるPFASの一部に毒性が認められ3,4,その高い安定性があだとなって過去の使用による汚染の継続・拡大が現在大きな問題となっている。フッ素フリーの泡消火剤FFF(Fluorine-free foams)への代替も進みつつあるが5,すでに環境中に出たAFFF由来のPFAS汚染の拡大防止や除染は容易ではない。米軍が用いたAFFFは定められた条件での油火災の消火能力で規定され,その組成の詳細は各社の機密であり公開されていない。実試料の分析結果や特許情報の精査からその組成が推測され,それらをベースに様々な環境研究が進められているのが実情である。

本稿では海外における研究報告が多く,国内でも基地や消火訓練場周辺の汚染が問題となっている米軍の用いたAFFFを中心として,その開発経緯をたどりながら,含まれる主なPFASや添加物についてその種類や濃度に関する情報をまとめる。近年の相次ぐ分析報告6,7,8,9,10,11によってAFFFの主要成分の構造は次第に明らかになりつつあるが,まだ標準物質がなく確実な同定,定量ができない成分も少なくない。本稿では消火剤開発に関わるこれまでの研究や分析結果,その他の組成情報などを中心に紹介しながら,一部筆者の推測も交えて主要なAFFFのPFAS組成の解明を試みる。

2. 油火災の消火剤開発の歩み

クラスA火災(木や紙などが燃える一般の火災)とは異なり,クラスB火災(水より軽く可燃性の高いガソリン等による油火災)は水をまいても消火できず,むしろまいた水の上に油が広がり,火災を拡大してしまう。水に界面活性剤を混ぜて軽くて丈夫な泡を作り油を覆えば,可燃性ガスの揮発を防ぎ酸素供給を遮断し温度を下げて,効率よく消火することができよう。こうした泡消火剤のアイデアを最初に実証したのはロシアの技師アレクサンドル・ローランとされる12。ローランは植物由来の界面活性剤サポニンが入った重炭酸ナトリウム溶液と酸性の硫酸アルミニウム溶液を混ぜ,発生した二酸化炭素で膨らんだ泡でナフサの火を消す実験を1904年に行った。1912年に二液混合型の化学泡消火装置が英国の消防に導入され,1920年代には粉末化した泡成分をホッパーで水と混合して泡として噴き出すメカニカル泡タイプが開発され普及していった。1930年代末には動物の蹄や角のタンパク質を加水分解して泡消火剤が作られ,20世紀半ばにはクラスA用の重炭酸塩粉末消火剤とタンパク泡消火剤を組み合わせてクラスB火災の消火が行われるようになった13,14。しかしながら,粉末消火剤の表面を覆い耐湿性を高めて分散を助けるシリコンがタンパク泡を壊すことから,さらなる改良が求められていた13,15

ECF(Electrochemical Fluorination:電解フッ素化)法の特許を購入した3M社は,製造したフッ素系界面活性剤の新たな用途を求めていたが,NRL(Naval Research Laboratory:米国海軍研究所)がその特性に着目し,粉末消火剤メーカーのAnsul社も交えた新たなクラスB消火剤の共同開発が1962年に始まった13,15。3M社はその後独自に消火剤開発を続け,大規模な艦船の火災事故を契機に米軍のAFFFを規定するMIL規格(Military Specification Mil-F-24385)16が1969年に制定されると,海水希釈方式の消火剤が米国海軍に採用された。当初は3M社の独壇場だったが,1973年にNational Foam社,1974年にAnsul社(PFASはCiba-Geigy社製)の製品がそれぞれMIL規格の認証を受け,1990年代にはAngus社やChemguard社,2000年代に入るとBuckeye社の製品がそれぞれ認証されている14。1990年代末の時点でクラスB消火剤マーケットの3割,米軍及び同盟国軍に限れば最大6割を3M社が占めていた17。特に米国海軍は3M社製を高く評価して全面的に依存し,PFOSの製造中止や条約追加2を経て3M社がAFFFから撤退する際には在庫のすべてを海軍が買い取ったとも噂された17。一方,日本では1971年に都内の,1972年には全国の駐車場消火剤としてAFFFが認められた15。1974年からは石油コンビナートへの導入が,1975年には空港でのタンパク泡消火剤からAFFFへの切り替えが決まり,1977年からは住友スリーエム社で国内生産も始まった(フッ素系界面活性剤自体は米国から輸入)15。自衛隊艦船への導入も進んだとされる。1982年には大日本インキ(DIC)社がAFFFを開発し,自衛隊を含む様々な分野へ導入された18

AFFFはフッ素系界面活性剤のほか,炭化水素系界面活性剤,有機溶媒,その他添加物を含み,使用時の水による希釈率の違いに応じて3%,6%希釈がある14,17(他に1%なども作られた)。例えば3%の場合,濃縮液(AFFF concentrate):水(或いは海水や鹹水)=3:97に混ぜて使用する(希釈後の液をfoaming solution又はpremixと呼ぶ)。AFFFは油の上に浮いて薄く膜状に広がり油火災を効果的に消火できることから“Light Water”と呼ばれ13,その後3M社の登録商標になった17。3%タイプのAFFF濃縮液は20%までの有機溶媒,5~10%の炭化水素系界面活性剤,0.6~1.5%14(0.9~1.5%)19のフッ素系界面活性剤,少量の多糖類や防さび剤などの添加剤を含み,残り(60%以上)を水が占める14,19Fig. 1:後述のように製造メーカーや製品によって割合や成分は異なる)。その濃縮液を水で33倍に希釈して,空気を吹き込み6~10倍17に膨らませた泡がノズルから放出されて消火剤として使われる。Fig. 1 に掲げた有機溶媒の中で,ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)は泡の安定化や一部の界面活性剤の溶解に寄与し14,19,20,多種類のMIL規格濃縮液に 260~300 g/L(中央値)と高濃度で含まれていた21。寒冷地使用の際には凍結防止のため1,2-プロパンジオールなどが数%の濃度で添加される19。AFFFの使用pHが規定される場合は,pH緩衝剤などが添加される14。なお,アルコールなど水溶性有機溶媒火災の泡消火剤(AR-AFFF)では,泡の消失を防ぐためにキサンタンガム等の高分子多糖類(濃縮液の1~1.5%程度)やフルオロテロマー基で修飾された親水性ポリマーなどが添加された14,19

Fig. 1 Typical AFFF Concentrate Composition14,19

3. AFFFにおけるフッ素系界面活性剤の役割

消火剤に求められる機能には,消火と再着火の防止がある14,17。当初海軍はラジカル捕捉剤である重炭酸カリウム粉末の初期消火能力を高く評価し,泡消火剤には消火後の再着火の防止を期待していた13。しかし泡に覆われていない部分も再着火しなくなる現象が認められ,水成膜の形成というフッ素系界面活性剤特有の性質が注目されるようになった13。その後制定されたMIL規格ではAFFFはフッ素系界面活性剤と泡安定剤からなると規定され,粉末消火剤なしの単独使用も想定された16。フッ素系界面活性剤を含む泡と水成膜の優れた消火能力が認識され,単独消火に向けて開発が進んだ様子が伺える22

開発において課題となったのは,1)水成膜が油の表面を覆う速度,2)可燃性成分の揮発抑制能力,3)泡の耐久性や持久性,である23。泡の先には厚さ数十ミクロン以下の界面活性剤を含む水の膜(水成膜(Aqueous film))が拡がり,油の表面を覆っていく17。泡そのものが油の表面を覆って再着火を防ぐ従来の泡消火剤に対して,フッ素系界面活性剤では泡の先に水成膜が拡がって消火と再着火防止に大きな役割を果たすことから「水成膜を作る泡」(Aqueous film forming foams(AFFF))と呼ばれるようになった16。水成膜の拡大には液体の表面を別の液体が覆う際の理論的な扱いが適用でき,張力測定により性能の評価が行える。泡と水成膜を区別する考え方17,23はその後のAFFFの発展に大きな影響を与え,3M社ではそれぞれに適したフッ素系界面活性剤(役割に応じてFoamer及びFilmerと呼ぶ17)を開発して混合し,優れたAFFFを作成した24

水成膜が油の表面を覆う能力を示すSC(Spreading Coefficient)は以下の式で表される14,23

SC=δa–(δb+δi)

δa:油の表面張力,δb:水の表面張力,δi:両者の界面張力

SCが正になれば油を覆うことができ,大きいほど覆うスピードも速まるので,できるだけ水の表面張力並びに水と油の界面張力を下げるような界面活性剤が求められる。様々な研究により,炭化水素系界面活性剤よりフッ素系界面活性剤の方が水の表面張力を下げる力が大きく両者を適切に混ぜるとより低下すること,異なる官能基を持つフッ素系界面活性剤を適切に混ぜても低下すること,水と油の界面張力の低下にもフッ素系界面活性剤と炭化水素系界面活性剤の適切な組み合わせが有効なこと,さらに炎や油に接した泡の耐久性や持久性,油の揮発防止能もフッ素系界面活性剤が優れていることなどが明らかにされた17,19,23。一方,フッ素系界面活性剤の価格は高く(AFFF全体のコストの4割から8割に上る)23,その使用量を減らすためにフッ素系界面活性剤の構造や濃度,各種炭化水素系界面活性剤との混合条件などが検討されていった。MIL規格自体も当初は海軍のみが対象だったが,その後陸上の基地にも拡大され,AFFFの発展にあわせてその内容も変更された。MIL規格の承認を受けた3M社のAFFFとMIL規格自体の変遷との関係を,Fig. 2 にまとめる(3M社以外のAFFFについては第5節参照)。

Fig. 2 Development of AFFFs at 3M company and transition of Military Specification14,17,25

4. ECF法によるAFFF

4.1 3M社によるAFFFの開発経緯

AFFFの詳細な組成情報は非公開だが,分析情報や特許をもとに,各社のAFFF中の主なフッ素系界面活性剤の構造(推定を含む)が報告されている6,7,8,10,11,14,17。中でもDlugogorskiとSchäfer17は3M社の作成した主なAFFFとその変遷について詳細な解明を試みており,その過程で海水希釈への対応が大きな課題となったことを明らかにした。以下,この報告に沿って3M社における開発経緯をまとめる。なお,彼らの論文の本文にある引用文献番号の大半は,なぜか参考文献リストと対応していない。以下,重要な点については元情報を確認したり関連する別の情報を見つけてそれらを引用するようにした。またAFFF中の主成分PFASには研究者により異なる略称が与えられ,混乱した状況にある。本稿では基本的に図に構造と番号を示して本文中には番号で示した。なお,PFOS,PFOA等の汎用される略称はそのまま用いた。フルオロテロマースルホン酸についてはFTSとFTSAが共によく使われるが,本稿では環境省の記述26にあわせてFTSで統一した。本稿で用いた番号や略称と,論文でよくみかける略号7,9,11,27やPubChemでの物質番号CID,元素組成,質量数,CAS番号,IUPAC化合物名の対応関係をSupplementary Tableにまとめた。本稿で取り上げたPFASのほとんどはPubChemに記載されており,CID番号からさらに情報をたどることができる。繰り返しになるが,以下の説明は消火剤分野の専門家による各種情報に基づく合理的な推測17を基本としながら一部筆者の推測を交えたものであり,必ずしも確実ではない点も含まれうることをご了解いただきたい。

3M社は主にPFOS,PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸),PFOA(ペルフルオロオクタン酸)を出発物質として,ぞれぞれの酸をアミド化し極性基を持つ有機鎖をつなげて界面活性剤を作成した(以下,PFOS等スルホン酸を有するペルフルオロアルキル酸をPFSAs,PFOA等カルボン酸を持つ物質をPFCAsと総称する)。1963年にNRLから申請された特許28では,スルホンアミド基ないしアミド基の窒素に短い極性基を1つつなげた数種類の一置換型誘導体について,それぞれ単独及び混合した場合の消火能力を比較している。Fig. 3(A)に最もよかった組み合わせを記す。FC-183と呼ばれる最初のAFFFは界面活性剤として(1),(2)の2種類を含み17,水溶性高分子を加えた粘性の高い溶液で,海水希釈ができず発泡にCFC-12を必要とし,艦船の既存の消火設備では使えなかった17,29。その後3M社は1971年までに矢継ぎ早に4種類のAFFF(FC-194,195,196,199)を開発し(いずれも6%希釈),FC-196以降はMIL規格をクリアして米海軍に採用された14,25

Fig. 3 Estimated composition of fluorosurfactants in AFFF developed by 3M

(A) Perfluorosurfactants in FC-183

(B) Major Foamer and Filmers in acidic formulation, FC-194~FC-199

(C) Foamers and Filmers in alkaline formulation, FC-200, FC-203/206 series

(D) Foamer in the 2nd generation amine-oxide surfactant

Based on ref.17 with some modifications (see text for details). PKa were calculated by SPARC and corrected by adding 1.7 17. Protons dissociated in alkaline pH were written as ℍ.

これら4種類では界面活性剤の機能は泡形成(Foamer)と水成膜形成(Filmer)に分けられ,FC-183の2種類のうちPFOA誘導体(2)がFoamerに,PFOAと炭化水素系界面活性剤の混合物がFilmerに選ばれたと推測されている(Fig. 3(B):FilmerとしてPFOS誘導体(EtFOSAA)が使われた可能性も指摘されている)17。Fieldらは各社のAFFFの分析を進める中で,古い時代の3M社のAFFFはもっとPFCAsの濃度が高かったようだとの業界団体からの伝聞情報を紹介している9が,あるいはPFOA主体とされるこの時代のAFFFのことかもしれない。一方,ECF法により作られたFoamerでは,ペルフルオロアルキル基と直結するためフッ素の高い電気陰性度に電子が引っ張られ,スルホンアミド基/アミド基が負の電荷を帯びやすくなる17,30。そのため一置換型では中性付近でプロトンがはずれて負イオン化し,海水中のMg2+やCa2+とキレートを作って沈殿し,また解離に伴い張力などの性質が変化し消火能力が低下するなどの問題が起きた17。これを防ぐため,希釈時には酢酸を加えて酸性に保つ必要があった。参考までにグレーの斜字体で,SPARCで計算された一置換型スルホンアミド基,アミド基のpKa(補正項1.7を加えた値)17を図示した。なお水溶性高分子は使われず,泡の安定化のためブチルカルビトールが加えられた。

1972年に出たFC-200以降は,pH調整せずに微アルカリ性の海水で直接希釈可能となった。FC-199までをAcidic formulation,FC-200以降をAlkaline formulationとも呼ぶ17。これ以降は,3%希釈(FC-203シリーズ)と6%希釈(FC-206シリーズ)が並行して作られるようになる。FC-200以降のFoamerにはいずれもPFHxSの二置換型誘導体((3)~(7):Fig. 3(C))が使われたと考えられる(詳しくは後述)。スルホンアミド結合の窒素に有機極性基が2個結合して水素がなくなり,pHを変化させても解離して負電荷をもつことはなくなった。一方FilmerにはPFOSのカリウム塩(3M社ではFC-95と呼ばれた)と炭化水素系界面活性剤の混合物が使われた。Acidic formulationで使われたと推測されるPFOAと比較するとPFOSは揮発性がより低く,消火剤や金属メッキのような高温環境での使用に適している17。ただし,ECF法では炭素の鎖が長いほど目的物質の生成効率が落ち,不純物が増える19。PFOSには直鎖異性体のほかに様々な分岐異性体が含まれ,またPFHxSなど炭素数が異なるPFSAsやPFOAなどのPFCAsも不純物として含まれ,これらがAFFFの散布とともに周囲の環境を汚染することになった2

スルホン酸基とアルキルアミンの組み合わせであるFC-203CE(206CE)(スルトン(Sultone)型:合成時にプロパンスルトンと反応)と,スルホン酸基の代わりにカルボン酸基を持つFC-203CF(206CF)(アクリル(Acrylic)型:アクリル酸と反応)は最も成功したAFFFとされる17。いずれもFilmerにPFOSを使うためPFOS泡とも呼ばれた17。スルトン型は2002年まで,アクリル型は3%仕様は2010年まで,6%は2007年までMIL規格の認証を受けた25。なお,図には中性付近での解離状態を表した。例えば文献17にも元の特許にも(5),(6),(8)などが末端に持つ3級アミンはプロトンが外れた構造で書かれているが,一般に3級アミンは11前後にpKaを持ち中性では正電荷になると考えられるので,Fig. 346にはプロトン付加して正電荷をもった構造で記載した。

その後3M社はアミンオキサイド型フッ素系界面活性剤(9),(10)を開発した(Fig. 3(D))。一置換型だが,スルホンアミド結合をアミド結合に変えることでpKaはよりアルカリ側に移動し,さらに近傍のかさばった構造でII価イオンを介した二量体形成が邪魔されて,海水希釈でも問題はない17。PFOSは不要で,フルオロテロマー系と同等の低い濃度ですぐれた性能を発揮したが,合成は面倒でコストも高かったと推測されている17。開発はPFOS製造中止を発表する直前で,MIL規格への申請はされず民生利用に限られたようだ。土壌吸着性や分解性が高いこともあり,環境分析でも(9)や(10)の報告は見当たらないという17

4.2 3M社のAFFFに含まれる主要PFASの種類と濃度

以上,主に文献17に沿って3M社のAFFF開発の概要を説明した。先にも記したが文献17の引用文献番号がずれており,裏付けをとるため元情報を探す過程で,FC-200以降のAlkaline formulation AFFFの組成情報がコロンビア大学とニューヨーク市立大学が共同で運営するToxic Docs31に集められた資料の中に見つかった(Table 1)。

Table 1 Composition of alkaline formulation AFFF produced by 3M(unit: %)17,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42

*: benzotriazole was used instead of tolyltriazole.

このうちFC-203CE41とFC-203CF42の組成情報は文献17のTable 6 と一致する。Table 6 はさらに詳しく,前者のFoamerは(4)と(5)が50%ずつ,後者は(6)が50%,(7)と(7)のスルホンアミド基からプロピオン酸が外れた物質が25%ずつと書かれていた(元情報は特許43:なおプロピオン酸が外れた物質は実際のノンターゲット分析では見つからず,(8)など他の物質が報告されている6,8Fig. 4))。

Fig. 4 Possible synthetic pathways and detection mode of fluorinated surfactants in sultone and acrylic foamers6,7,8,17,44

Surfactants with numbers in normal, open, and bold characters are reported in AFFF, in groundwater, and in both AFFF and groundwater, respectively.

DlugogorskiとSchäfer 17の記述にはこのToxic Docsの情報と整合しない点もある。彼らは不確実性が高いと断ったうえで,特許情報に基づきカルボン酸基を末端に持つ二置換型誘導体とEtFOSAAをそれぞれFC-200のFoamer,Filmerと推測し,スルトン型はこの後のFC-203シリーズ並びにFC-206シリーズになってからと考えた。一方Toxic Docsの情報32ではFC-200は2.7%のHydroxy foamerと1.8%のPFOSを含むとされている。DlugogorskiとSchäfer 17が推測したFoamerには水酸基はなく,スルトン型に特徴的なPFOSをFilmerとする点も推測と異なる。Hydroxy foamerという言葉はその後に出たFC-203CやFC-206Cなどにも使われ,他のスルトン型AFFFのSultone foamerという用語と使い分けられているように見える(Table 1)。

DlugogorskiとSchäfer17は別に興味深い話題を紹介していた。スルトン型には(4)のほかにプロピル基の中央が水酸化された(3)もあった(それぞれSultone foamer A,Sultone foamer Bと呼称)。Sultone foamer Bの合成には塩素化された化合物が使われたが,反応ではずれた塩素が残って304ステンレス製保存タンクを腐食することが問題となり,1981年制定のMIL-F-24385Cでハロゲンの許容残留濃度が設定されたという17。以上を考え合わせると,Toxic Docsの文献に記載されたHydroxy foamerとSultone foamerはそれぞれSultone foamer B(3)とSultone foamer A(4)を指すのではないかと考えられる。最初に(3)を含むFC-200が作られたが腐食が発生したため,同じ(3)を含み残留塩素濃度を下げたFC-203C/206Cと,プロパンスルトンとの反応でできる塩素フリーの(4)を主体とするFC-203CE/206CEの開発が同時に進められたと考えると,FC-200がMIL規格から外れた後FC-203C/206Cが認証されるまでに数年間があくことや(その間にMIL-F-24385Cが制定されたこともFC-200が塩素事件の“犯人”であることを示唆するようだ),CシリーズとCEシリーズが長く同時に使われたことが理解しやすい(Fig. 2)。MIL規格リストにはFC-200とFC-203Cの間にFC-780(Sultone)とFC-780B(Hydroxy)というかけ離れた番号で異なるスルトン型のAFFFがごく短期間だけ入るが,或いは製法変更の確認ないし中継ぎの役割だったのではないか。以上の考察から,本稿では文献17とは異なるがスルトン型(及びPFOSのFilmerとしての利用)はFC-200から始まり,(4)と(3)をそれぞれ主成分とする二系統の開発が共に進められたと考えてまとめた。

FC-200のあとのFC-203,FC-206は共にスルトン型とされ17,文献33,39にSultone foamerと書かれていることからSultone A(4)と思われる。FC-206はFC-200と同じく6%仕様だが,FoamerやPFOSの濃度は半分以下になっている。FC-200とほぼ同時にMIL規格からはずれたのは,(4)でも当初は残留塩素が問題となったためかもしれない(3-クロロプロパン-1-スルホン酸など塩素を含む物質が合成に使われたのではないか)。FC-203は初の3%仕様の位置づけだが,MIL規格リスト25になく製造期間はわからない。Toxic Docsには他にFC-203AやFC-203S(エチレングリコールを除きFC-203と同じ組成)もあるがMIL規格リストにはない。

Table 1 を見ると,3%仕様のAFFF中PFOS濃度はいずれも1%以上である。FC-203以降次第に高くなるがアクリル型のFC-203CFになってほぼ半減する。防さび剤のトリルトリアゾールは希釈率によらず0.05%と一定である。ちなみにFC-200には記載がなく,FC-200による腐食事件の後に防さび剤が添加されるようになったのではないか(FC-203C/206/206C/780Bではベンゾトリアゾールが添加されていた)。防さび剤以外の成分は希釈率に応じて基本的に6%仕様では3%仕様の半分になっている。なおFC-203Cの組成の合計は100%を超え,どこかおかしい(C8H17C6H4(OC2H4nOHを10%でなくFC-206Cの倍の2.1%にするとほぼ100%になる)。数%の尿素添加はFC-200とFC-206を除き6%仕様に共通する。アクリル型にはトリエタノールアミンの添加,アルキルスルホン酸のポリオキシアルキルスルホン酸への変更など,スルトン型との違いが認められる。

PFHxS誘導体は標準物質がなく,信頼できる濃度の報告は見つからなかった(Fieldらの分析7,8,9ではPFOSの検量線で濃度を推定している)。Table 1 の情報源はいずれも3M関係資料と思われ,PFOS濃度が実測結果7とも近いことから,Foamerの濃度やその他の炭化水素系界面活性剤の情報も実際の状況に即しているのではないかと考えられる。ただ,以下にも述べるように3M社のAFFFのFoamerは複数の物質の混合物である場合が多く,それぞれの具体的な割合についてはわからない。なおTable 1 は濃縮液の濃度であり,実際に散布されるPremixでは希釈されている(例えばPFOSなら 300~550 mg/Lとなる)。

4.3 3M社のAFFF誘導体の詳細と合成経路に基づくまとめ

以上,主要な誘導体について開発の経緯並びに組成情報をまとめた。DlugogorskiとSchäferの報告17や3M社のAFFFの分析結果6,7,8には副生成物も含めて他にも多くの物質が記載されている。以下,分析情報と照合しながら,予想される合成経路17,44を踏まえてPFOS泡中に報告された誘導体全体の整理を試みる。なお,初期のAFFF濃縮液については測定報告がない。そのため,参考までに基地周辺の地下水中で検出された誘導体についてもあわせてFig. 4 にまとめた。番号が太字で示されたPFASはAFFFと地下水で,普通字体はAFFFで検出されており,白抜きは地下水のみで報告がある物質である6,7,8。また,Fieldらのグループの分析報告には各AFFFの製造年の記載はあるものの具体的な製品名は記述されていない。ここでは1989年以前の3M社製品はスルトン型,1993年以降はアクリル型として整理した。

PFOS泡(Alkaline formulation)のAFFFのFoamerはいずれもPFHxSをアミド化して作られる。(8)が起点となって,トリメチル化(22)やアミンオキサイド(21)への変換,並びにエチレンオキサイドやプロパンスルトン,アクリル酸,クロロ酢酸等との反応によるスルトン型((3),(4)),アクリル型((6),(7))等の二置換型誘導体の合成が進む。同時に,様々な反応副生成物ができたと推測される。DlugogorskiとSchäfer17は,Sultone A(4)の合成は(11)を介して進むと考えた。またFC-203CEは(4)に加えて(8)から作られる(5)を含むが,後者の反応副生成物として(14)~(16)や(13)の存在が予想されている17。実際,これらすべてがFC-203CEと推測される1988年ないし1989年製AFFFから検出された((14)は1998年のアクリル型からも報告がある)8。一方Sultone B(3)の合成も同様に(8)から(11)を介して進むと考えられるが,FC-203CなどSultone B(hydroxy foamer)型と予想されるAFFFの分析例は見当たらず実際の組成はわからない。Sultone Aの場合と同様に(8)からの反応生成物も考えれば,(17)や(18)の存在が予想される。このうち(17)は1989年のスルトン型のほか,1993年,1998年,2001年のアクリル型から報告がある8Fig. 4 に+(17)と記載)。一方(18)はAFFFからは検出されず,基地周辺地下水から(3)とともに見つかった8

スルトン型の合成中間体(11)と副生成物(12)はすべてのスルトン型に検出されたほか,アクリル型にもすべての年で検出された8。(8)がメチル化された(22)はスルトン型,アクリル型の両方で,さらにメチル化の進んだ(23)がスルトン型の一部で見つかっている8。ほかに水酸基を複数もつ(25)~(27)がスルトン型から報告されている8。一方,1993年以降のアクリル型には(6)が(7),(8)とともに主要な成分として認められている6,7。他に(19),(20),(24)もアクリル型AFFFから見つかった。(19),(20)は炭素数3ではなく炭素数2のカルボン酸が結合しており,アクリル酸ではなくクロロ酢酸などを使う別の合成経路が予想される17。その他,スルトン型やアクリル型に類似したり複数の水酸基をもつ誘導体(28)~(35)が地下水のみから見つかっている8。形がいびつになりいささか複雑だが,各AFFFタイプの含むPFASの包含関係を点線の枠で囲ってFig. 4 に示した。

このように,ECF系AFFFにはFig. 3 にまとめた主要Foamer,Filmer以外にも,合成過程での副生成物など様々な物質が含まれることが分析により明らかにされてきた。これらの中には,アクリル型に含まれるスルホン酸型誘導体(14),(17)やスルトン型の合成中間体(11)及び副生成物(12)など,主成分の合成過程の副生成物ではなく別の合成経路をもつ物質が含まれる場合も認められる。オレゴン州立大グループによるAFFFの分析では,他のAFFFからのコンタミを避けるために濃縮液容器から直接試料を採取するよう注意している6。従って,上記の検出成分は保管中のコンタミではなく,いずれも元のAFFFに存在したものと考えられる。3M社のFoamerは副生成物の多いECF法45によるPFHxSをベースとするため,もともと直鎖体だけでなく複数の分岐異性体や炭素数の異なる類縁物質の誘導体も含む5,6,7,8など組成が複雑だが,Fig. 4 から推測すると実際は恐らく性能向上のため意図的に複数の成分を混ぜ合わせ,さらに複雑な組成だったのではないか。特に,正電荷ないし双性イオン型で,水酸基を特徴として持つ多種類の誘導体((11),(12),(25)~(27))がスルトン型,アクリル型共に検出されたことが目を引く。ただ,(25)~(27)は文献17に言及がなく,同定の確かさも一段低いとされ8,他の研究者によるアクリル型AFFFの分析報告にも記載がない。またFig. 4 の物質はいずれも分析標準がないため信頼できる定量値がないことも課題となっている。

なお,ECF系のAFFFにはPFOSベースの誘導体は見つからず,単体のPFOS並びにECF法における副生成物45と考えられる様々なPFSAs,PFCAsが検出,同定されている(Fig. 76,7,8。他に二重結合やF4S-基を持つPFSAsなども報告され,特に後者は分岐体と並んでECF法によるPFASの特徴として注目される8。PFSAs,PFCAsなど,分析標準が整備された物質については信頼できる濃度が報告されている。詳細については地下水濃度と比較しつつ後の節で紹介する。

5. フルオロテロマー系のAFFF

5.1 フルオロテロマー系AFFFの開発の経緯と主なフッ素系界面活性剤の構造

文献25に基づく各社のMIL規格対応製品のリストをMIL-Specの変遷とともにFig. 5 にまとめる。いくつかの会社で2015年を境に製品番号が変わっているが,PFOA及び長鎖ペルフルオロアルキルカルボン酸の2015年末までの全廃を目指した米国の管理責任プログラム2への対応と思われ,以下にまとめるように途中で組成が大きく変化したケースも少なくない。

Fig. 5 Fluorotelomer-type AFFFs listed in MIL-Spec25

フルオロテロマー系も製品のフッ素系界面活性剤の構造や濃度に関する情報は公開されていないが,業界団体から主要な誘導体の提供を受けた結果,管理責任プログラム以前の製品のいくつかについては主要成分とその濃度が報告されている6,7,8,9。一方,それ以降の製品についてはノンターゲット分析の報告しかなく11,定量値がない。著者らはピーク面積が500,000を超えるものを主成分として推定構造を報告しており,本稿でもこのやり方にならって文献11のTable S11,S12にピーク面積≧500,000と表示された物質を各AFFFの主要成分と考えてまとめた。以下,文献17の考え方に沿って情報をまとめる。

フルオロテロマー系ではペルフルオロアルキル基の後ろに炭化水素のスペーサーが入るため,その先のスルホンアミド結合はフッ素の影響をうけにくい。そのため,窒素の置換基が一つで水素が残ってもpKa>10となり,pH~8の海水中で負イオン化してII価イオンとキレートを作ったり,中性付近のpH変化で性質が変わることはなくなる17。実際,フルオロテロマー系では二置換型(Y字型)ではなく様々な一置換型(直鎖型)フッ素系界面活性剤が作られ使われてきた。当初は炭素数8以上のペルフルオロアルキル基を持つものも検出された6,7が,上記の管理責任プログラム2が進められる中で長鎖の利用はなくなり,ペルフルオロアルキル基の炭素数が6でエチレンでスルホンアミドやチオールとつなぐ 6:2タイプ(C6タイプ)が主流となった。文献6,7,8,17に基づいてまとめた結果をFig. 6 に示す。Fig. 6 の左側にはいくつかの誘導体の商標名17を記載した。Forafac1157は文献46に機器分析による同定結果が報告されている。なおCapstone 1470については文献47の記述に基づく。右側には各社のAFFFの主要誘導体とその変化(右側がより新しい製品)を文献番号と対比させながらまとめた。図には 6:2タイプ(Buckeye社は図の説明参照)の濃度7を記載した。

Fig. 6 Major PFAS in fluorotelomer-type AFFF 6,7,8,11,17,47

Structures and concentrations (unit mg/L) of C6 PFAS are shown in the figure as representative examples. Calculated pKa17 by SPARC is written in gray italic and the proton to be dissociated is shown as outline character “ℍ”. Information on trade names are from ref.17 except for Capstone 147047.

*1: Early Buckeye 3MS contained 2,000 mg/L of 5:1:2 type (47) plus 4,700 / 1,900 mg/L of 7:1:2 / 9:1:2 types (47), and 530 / 610 / 430 mg/L of 5:3 / 7:3 / 9:3 types (48), respectively7.

極性基としては正負の解離基を併せ持つ双性イオン型が特徴的である。3M社のAFFFの主要フッ素系界面活性剤((3)~(7))でもスルホンアミド結合の窒素に結合した2つの置換基の一方は負電荷(スルホン酸やカルボン酸),もう一方は正電荷(4級アンモニウムや3級アミン)と,ひとつの分子に両極性の解離基を併せ持つ形がみられたが,フルオロテロマー型では置換基が一つのため,ベタインやアミンオキサイドなど同じ置換基内に正電荷と負電荷の両方を持つコンパクトな双性イオン型が選ばれた。また,ポリフルオロアルキル基とこれら極性基を繋ぐ方法としては,大きく3つに分かれた。Atochem社のForafacブランド(DuPont社を経てChemours社に移り,Capstoneブランドに移行)は3M社と同じスルホンアミド結合でフルオロテロマー部分と極性基をつないだのに対し,Ciba-Geigy社のLodyneブランド(その後Chemguard社,Tyco社を経てJohnson Controls社に移行)はチオエーテル結合でつなぐ方式だった14,17。Dynax社からは直結タイプも誕生した。

1971年申請の特許にも示された(36)は,ECF系と同様にスルホンアミド結合でベタイン構造とつながっている。最も成功したフルオロテロマー型界面活性剤の1つとされ17,3M社に次いでMIL規格の認証をうけたNational Foam社をはじめ,Fire Service Plus社(前期)やSolberg社,またBuckeye社の後期製品など多くの会社から同じ物質を含むAFFFが出された。末端から酢酸がはずれた(37)もしばしば検出されている6,7,48。アミンオキサイド基を持つ(38)も広く使われた。一方,チオエーテル結合型では末端がスルホン酸の負電荷型(42)が上記2種類やスルトン型(4)に次いで多く使われた17。当初3M社と共同開発を行い,後にCiba-Geigy社と組んでAFFFを開発したAnsul社を始めとして,Chemguard社やAngus社,Dafo Fomtec社,Solberg社などでこれを含むAFFFが作られた。チオエーテル部分が酸化された(43),(44)もしばしば同時に検出されている11,27。なお,チオエーテル型では恐らく水溶性を高めるため,途中に(42)などアミド結合を持つもののほか,水酸基(40)を含む物質もある。

負電荷型(42)はしばしば正電荷型と一緒に混ぜて使われる。2002年のAngus社製品をはじめ,Dafo Fomtec社,Chemguard社,Solberg社,Fire Service Plus社(後期)の製品では,いずれも(42)に加えて末端が4級アンモニウムの(40)が高い強度で見つかった11。Dafo Fomtec社の製品には,さらに末端が3級アミンの(45)並びに(42)などの部分分解物ないし前駆体と思われる(46)も比較的高いシグナル強度で検出されている。興味深いのは管理責任プログラム後に出たSolberg社の製品で,チオエーテル型(40),(42)に加えてスルホンアミド型(36),(38)も同時に高い強度で検出された11。Buckeye社(前期)の含むフッ素系界面活性剤(47),(48)はペルフルオロアルキル基とベタインが炭素鎖で直結されている。図にはペルフルオロアルキル基部分が炭素数5の濃度を示したが,他に炭素数7や9もあり,特に7が多く見つかった(Fig. 6 説明参照)7。またペルフルオロアルキル基とベタインを繋ぐ部分の炭素数が偶数タイプ((49),(50))の存在も報告されている8

主成分のPFHxS誘導体とほぼ同濃度でPFOSを含んでいたECF系と異なり,フルオロテロマー系AFFFにはPFSAsやPFCAsはほとんど検出されない。6:2 FTS等のフルオロテロマー酸もほとんど検出されず,これらを原料としスルホンアミド結合を有する誘導体を主成分とするAFFFに,恐らく不純物として主成分より2~3桁程度低い濃度で検出されるにすぎない6,7,8,9,10,11。Titaleyら21はフルオロテロマー酸の原料のテロマーアルコールの測定を行い,フルオロテロマー酸よりさらに低い濃度で 6:2 FTOHなどを検出して報告している。

5.2 フルオロテロマー系AFFFの組成とその変遷

フルオロテロマー系のAFFFの詳しい組成情報はToxic Docsに見当たらなかった。代わりに比較的詳しいSDS関連の情報49,50,51,52,53Table 2 にまとめる。各社や各製品の書き方がバラバラのため,それぞれ別のTableとした。いずれも組成に幅があり正確な濃度はわからない。文献53に定量NMRによるフッ素の総濃度がまとめられており,( )内に%で表示した。なお,この文献53ではMIL規格リストにはないAFFFが多く取り上げられている。

Table 2 Compositions of fluorotelomer-type AFFF based on SDS information (unit: %)49,50,51,52,53

*: Total fluorine contents from ref.53

National Foam社のAER-O-WATER 3EMはFig. 1 の組成情報と調和的で,炭化水素系界面活性剤と比較しフッ素系界面活性剤の濃度は低い。総フッ素濃度は0.85%と報告され17,もう一つのAER-O-LITE TMC6の0.89%という定量結果53とも近く,総フッ素の少ない(高価なフッ素系界面活性剤の少ない)AFFFの一つと思われる(スルトン型FC-203CEはフッ素濃度2.1%17)。Backeら7によると2003年製造の製品には 6:2 FTベースの(36)と(37)がそれぞれ 4,600 mg/L,2,100 mg/L含まれ,8:2体などより長鎖の関連物質も百mg/Lの桁で定量された。他に数十mg/L未満の 6:2 FTSや 8:2 FTSが見つかっている。Fire Service Plus社の製品も当初(製造年は不明)は同様の組成と報告された7。一方,2017年の製品になると(36)やその類縁体はなくなって正電荷の(40)と負電荷の(42)が主成分となり,構造不明の物質も高いピーク強度で見つかった11。他に(40)の硫黄が酸化された(41)や部分分解物と思われる(46)も比較的高めのピークとして報告されている。Chemguard社の製品も製造年によって変化する。2010年製造のAFFFには 6:2 FTベースの(42)が 11,000 mg/Lの濃度で認められたが7,2017年製では(42)に加えて(40)も主要ピークとして見つかり,他に複数の未知成分が報告されている11。一方2007年以前は(45)が主成分だった6。Angus社の場合も組成変化が認められており,2002年には6:2 FT体の(40),(42)が 2,200 mg/L,4,900 mg/L報告されたが,2016年製造になると(42)並びにその酸化体(43)が主体となった。他に(39)も存在する11(後述のように元素組成上は(4)の可能性もあるが,Angus社がECF系の誘導体を含むことはないと考えられる)。

多くの会社の製品に10%前後ないしそれ以上のブチルカルビトールが含まれるなかで,Buckeye社はHexylene glycolを含む点,並びに界面活性剤の総量が多い点が特徴となっている。Buckeye社のAFFF(BFC-3MS)のフッ素系界面活性剤(47),(48)はDynax社製で水溶解度が0.01%以下と低く,溶かすために水溶性の炭化水素系やフッ素系界面活性剤と混合された17Table 2 のBuckeye社のSurfactants Mixは他社製品の炭化水素系界面活性剤と比べてかなり多く見えるが,(47),(48)等を溶解するためではないか。なお,この製品は2015年にMIL規格から外れ25,2020年からBuckeye Premium Plus C6 3% - Mil Spec AFFF (BFC-3.6MS)が認証された54。SDSを見るとフッ素系と炭化水素系界面活性剤の総和が<25%から<5%に下がっている55。Hanらは2021年の論文で,市販の標準を使ってBuckeyeのAFFFに約 3,000 mg/Lの(36)を定量し報告した56。これに対しShojaeiらはTOPアッセイにより約 20 mMの未知成分を見出し,その大半が(39)だと報告している54(分子量×20 mM=13,000 mg/L相当)。ShojaeiらはBFC-3.6MSを対象とした54。一方,Hanらは50285というOrder番号を記載しているが,カタログ57でみるとBFC-3MSの5ガロンペール缶に該当する。SERDP報告書58にBuckeye 50285の19F-NMRスペクトルが記載されているが,これは2017年のNRLレポート53にBFC-3MSのものとして掲載されているものととてもよく似ている。全体が 1 ppmシフトしているが,化学シフトの基準物質の違いではないか(SERDP報告書には測定条件の記載がなく確認できない)。大小2群のピークに分かれ,大きい方はCapstone 1157(=(36))のパターンと同じに見える53。これは別の文献59のCapstone 1157の 19F-NMRスペクトルとも一致しており,(36)が主成分だとするHanらの報告56と矛盾しない。

以上をまとめると,Buckeye社のMIL規格認証AFFFの主成分は,当初の(47)+(48)(および長鎖の関連物質)→(36)→(39)と変化してきたのではないかと考えられる。主成分がいつ(36)に変更になったのかはっきりしないが,前期型のBFC-3MSには(47)や(48)の関連物質で炭素数9のペルフルオロアルキル基を持つものも見つかっており8,管理責任プログラムへの対応のため2015年までに(36)主体に変化し,その後2020年からは(39)主体のBFC-3.6MSに変わったのではないだろうか。

なお,後期BFC-3MSの19F-NMRには大小2組のシグナルがあり,(36)以外に未同定物質があると思われる。NMRの小さい方のピークのパターンはChemguard社のAFFF C-303と一致するように見える(文献53のFig. 11)。C-303の分析結果は見当たらなかったが,Chemguard社は2010年以前(C-203)6も2017年の製品(C-306とC-606)11もともに主成分はチオエーテル結合型誘導体で,スルホンアミド結合型は報告がない。Snowら53の指摘のように19F-NMRのスペクトルの化学シフトがフッ素系界面活性剤を(スルホンアミド結合型とチオエーテル型に)グループ分けする際の指標となると考えると,Buckeye社のBFC-3MSの後期型にはスルホンアミド結合をもつ(36)以外にチオエーテル結合をもつ誘導体も含まれることをこのNMRスペクトルは示しているのではないか。同様にSolberg社の製品の 19F-NMRもBFC-3MSとよく似た大小の2組のシグナルからなる53。この製品はMIL規格リストにはないが,Solberg社のMIL規格AFFFにはスルホンアミド結合型とチオエーテル結合型がともに見つかっている11ことから,NMRスペクトルから推測されるようにこの製品もスルホンアミド結合型とチオエーテル結合型をともに含むと考えてよいのではないか。

なお,Ansul社とDafo Fomtec社(Fomtec AFFF 3%)のSDSではフッ素系界面活性剤が2つのグループに分けられている(Table 2)。Dafo Fomtec社は先に述べたように複数のチオエーテル型を含むが,どのように2群に分けるのかわからない。Ansul社のポリフッ素化アルキルポリアミドもよくわからず,最近のノンターゲット分析研究報告8,11,27にも該当する構造の報告は見あたらない。

分析標準がそろっていないAFFFの主要誘導体の分析では,高分解能質量分析計あるいはそれとLCを結合させたノンターゲット分析やサスペクトスクリーニング手法が広く使われ成果をあげてきた60,61が,注意点も指摘されている。Shojaeiら54は(39)と(4)の元素組成が同じで高分解能MSでも親イオンは同じになるため,同定を間違える危険性を指摘している。彼等の指摘はDubocqらの報告10に当てはまるかもしれない。Dubocqらは英国3FFF社及びドイツDr Sthamer社の製品にフルオロテロマー酸とECF法で作られるスルトン型誘導体(4)を共に検出したと報告した(Table S10)10が,これらのAFFFにはPFHxSもその他のPFSAs,PFCAsも見つからず,一方で 6:2 FTSは検出されていることから,主成分誘導体は実際はフルオロテロマー系の(39)ではないだろうか。DubocqらのMSスペクトル(Fig. S15)10はネガティブモードでポジティブモードの文献54(Fig. S19)と単純には比較できないが,コリジョンエネルギーを上げて見える大きなフラグメント(184.0637854(182.049210))は,(39)では該当する部分構造が説明できるが(4)ではうまく説明できない54。Liuらも同じ点を指摘している62。ECF系とフルオロテロマー系で元素組成が同じになる組み合わせとしては,他に(11)と(38),(24)と(36)などもあり(Supplementary Table),コリジョンエネルギーを下げて親イオンから元素組成を求めて推定したりデータベースと比較する場合は特に注意が必要である。同じECF系で官能基の付く位置が異なる組み合わせ(例えば(5)と(14))でも親イオンは同じ元素組成になり,さらにフラグメントも同じになる可能性があるので,同定には注意が必要だろう。

6. 周辺地下水に検出されるPFAS

分析報告6,7,8,9,10,11,21,63,64をもとに,3M社及びフルオロテロマー系各社のAFFFの成分の濃度を,基地や消火訓練場所の周辺地下水中濃度とともにFig. 7 にまとめた。PFSAs,PFCAsや 6:2 FTSなど分析標準物質が整備されて高精度測定ができる界面活性剤に加え,業界団体から提供を受けて定量が行われたいくつかのフルオロテロマー系の誘導体濃度も対数軸表示にして図示している。(A)は3M社の1989年と2001年の製品(前者はスルトン型のFC-203CE,後者はアクリル型のFC-203CFと考えられる),(B)はフルオロテロマー系各社のAFFF中の定量可能な成分濃度を示す。(C),(D)はそれぞれ1942~1990年,及び1950~1993年の間使用された2か所の米軍基地周辺で採取された地下水,(E)は2か所の空軍基地から1999年に採取されて冷凍保存されていた地下水,(F)は同じく1999年に採取されて冷凍保存されていた海軍基地周辺地下水(以上Backeら7及びShultzら((E),(F))63),(G)はマサチューセッツ州コッド岬の消火訓練場JBCC(Joint Base Cape Cod)周辺の地下水(2007~2021年に採取された地下水の平均値)64の測定結果をまとめた。なお,(A),(B)については,環境レベルと比較するうえでAFFF原液より実際にまかれたPremix中の濃度の方が適切と考え,論文の報告値をPremix濃度に換算して図示した。個別の詳細な定量値については各文献を参照されたい。

Fig. 7 PFAS levels in ECF- and fluorotelomer-type AFFFs as well as in groundwaters around military bases / fire training sites (all units: mg/L in logarithmic scale)

Acronyms are based on ref.64. See Supplementary Table for more details on the acronyms.

(A) AFFFs: (3M AFFFs) and (B) (fluorotelomer AFFFs): Concentrations were converted to those in AFFF premix by dividing the reported values7 in the AFFF concentrates by 33.

Groundwater: (C), (D), (E) and (F) from ref.7, and (G) from ref.64.

3M社のECF系AFFFは,スルトン型,アクリル型いずれも数百mg/LのPFOS,並びに一桁低いPFHxSや数十分の1のPFOA,PFHxAなどを含む。ECF法によって製造されたPFOSには数%のPFHxS,1%弱のPFOA等が含まれたとされ45,AFFF中のPFHxS,PFOA等もFilmerであるPFOS中の不純物に由来すると思われる。一方FoamerはPFHxSから作られており,未反応ないし部分分解物としてのPFHxSやその合成時の不純物が含まれる可能性もあろう。これに対し,フルオロテロマー系AFFFはいずれもPFSAs,PFCAsはほとんど含まず,(36),(40),(42),(47),(48)等主要誘導体の他には6:2 FTS等フルオロテロマースルホン酸がわずかに検出されるにすぎない。

一方,各地点での地下水の測定結果のパターンとECF系,フルオロテロマー系AFFFとを比較すると,(F)の海軍基地を除き,3M社製のパターンに似た分布を示すPFSAs,PFCAsに加えて,6:2 FTSやその類縁物質である 8:2 FTS,4:2 FTS,並びにその親物質と考えられるフルオロテロマー誘導体(42)が同時に認められた。さらに3M社のAFFFのアクリル型(6)とその部分分解物(8)も,5つの基地すべてでいずれかの地下水試料に検出された。この結果から,(F)以外ではECF系とフルオロテロマー系の両方のAFFFの影響を受けていることがわかる。ただ,フルオロテロマー系でも(36)など他の物質は検出されなかった。調査地点で過去に行われた消火訓練で使用されたフルオロテロマー系AFFFはAnsul社製のみとされており7,誘導体の検出状況もその組成と一致する(Fig. 6 参照)。またこの結果から,分解実験でも示されているように65,チオエーテル系の誘導体(42)は散布後早い速度で 6:2 FTSに分解される様子がわかる。一方,同じく分解実験で示されたPFOA等PFCAsの生成については,3M社のAFFFの影響が重なることもあってこの結果からはよくわからない。これに対して(F)ではフルオロテロマー系特有の物質が認められず,海軍はECF系にもっぱら依存したとする文献17の記述と整合する結果となった。

Ruyleら64はJBCC近傍地下水の経年的なPFAS変化を報告している。JBCCでは1970~1985年にかけて3M社のAFFFを使った訓練が行われ,その後1997年に火災の消火が行われた。時期的には3M社のAcidic formulationとスルトン型が使われたと考えられる。実際に彼らが地下水に検出したPFASにはPFSAsやPFCAsのほか,スルホンアミド構造を持つECF系の誘導体としていずれもスルホン酸を側鎖にもつ(13),(14),(15)及びそれらの類縁物質でPFPeSないしPFBSの誘導体が報告されている。この論文では,高分解能MSによるサスペクトスクリーニングは分析機器メーカーに依頼し,誘導体の同定はメーカーが持つデータベースに依存して行われている。スルトン型の主要な誘導体とされる(3)~(5)(Fig. 3)は報告されていないが,実際に地下水に無かったのか,妨害成分に邪魔されたのか,それともデータベースに無いため同定できなかったのかはわからない。なお,6:2 FTSも報告されており,1997年の火災ではフルオロテロマー型AFFFが使われたのかもしれない。地下水の測定は2007年から2021年まで行われ,濃度はPFHxSが最も高くPFOSがそれに次ぎ,PFBSもすべてで見つかった。採取試料毎の変動は大きいが明確な経年変化は認められず,モデル計算からPFHxSやPFBSは土壌に吸着するスルホンアミド誘導体が1~2×10-3 year-1程度のゆっくりした速度で分解し流出してくるものと予測された64

PFSAs,PFCAsは主として土壌有機物と疎水性の相互作用を行うため,一般に炭素数の長い方が,また同じ炭素数ではカルボン酸型よりスルホン酸型の方が(ペルフルオロアルキル基の長さはスルホン酸型の方がカルボン酸型より炭素1つ多いため)より強く相互作用する66,67。土壌と水中の相対濃度は逆の傾向を示すことから,Fig. 7 にまとめた地下水の分析結果は土壌との相互作用により元のAFFF組成の相対的な比率が変化した結果と考えて大きな矛盾はない。その中で,Fallon海軍基地周辺の地下水でPFOSに対するPFOAの割合が高いことが目を引く。フルオロテロマー系誘導体が分解するとPFOA或いは短鎖のPFCAsが作られる一方PFSAsはできず65,PFSAはもっぱらECF系に由来するはずである。そのため,ECF系とフルオロテロマー系を共に使った基地周辺ではECF系のみの海軍基地よりPFCAsが相対的に高めになりうると期待されるが,Fallon海軍基地で逆になっているのは,PFOA主体のAcidic Formulation型AFFFがかつて使われたためなのかもしれない。先に述べたようにこの研究を行ったFieldらもPFOAが高いことに注目し,以前の3M社のAFFFにもっと多くのPFCAsが使われていたという伝聞情報を紹介している9

ECF系は直鎖体の他に様々な分岐体も含むが,フルオロテロマー系は基本的に直鎖のみ(2つずつ炭素数の異なる直鎖異性体が副生する)で,PFOAの起源については分岐体の有無から判断できる可能性がある。PFSAsやPFCAsはLC/MS/MS測定の際に質量電荷比が50ずつ(CF2一つ分に相当)ずれた位置にプロダクトイオンピークが出現し,その相対強度は分岐体の分岐位置により特徴を持つ67。例えばPFOAなら,m/z=413のプレカーサーイオンを選び,プロダクトイオンとして69,119,169,219と50ずつずらしながらクロマトグラムを書かせていけば,分岐体の有無と種類を調べることができる。ただ直鎖体と分岐体の比率は物質によっても異なり,一般にPFCAsの方がPFSAsより分岐体の相対的な割合が少ない45。また直鎖体と分岐体は土壌有機物との相互作用の強さが異なり,直鎖の方が保持されやすく分岐体は先に流れていくため68,AFFF散布場所からの距離により相対的な比率が変化して判断が難しくなる可能性もある。KärrmanらはECF系AFFFを散布した基地の周辺で,土壌中並びに地下水中のPFOS,PFOAのパターンが基地からの距離に応じてどう変化するかを調べた69。散布場所の土壌ではPFOS,PFOAいずれもECF特有のパターンを示したのに対し,距離が離れるほど土壌中の直鎖体の割合が増える。特にもともと分岐体の割合の少ないPFOAの場合は,100 m以上離れると土壌中には直鎖しか見えなくなりフルオロテロマー誘導体から分解されてできたものと区別がつかない。一方,地下水中のPFOS,PFOAは,場所によらず分岐体の相対的な割合が高めに検出された。周辺地下水中のPFASを測定すれば,分岐体の有無については汚染源からの距離に関わらず判断ができそうに思われる。一方土壌に関しては,汚染源がECF系かフルオロテロマー系かをはっきりさせるために,できるだけ汚染源に近いところで採取を行う必要がある。

以上をまとめると,3M社のAFFFを使用した基地周辺では主要誘導体である(3)~(8)が,またフルオロテロマー系の場合は(36)や(42)などが,しばしば地下水中に検出される。ただ,いずれの場合も多いのはPFSAsやPFCAs,それにフルオロテロマー酸で,とりわけPFOSやPFHxS,PFOA,PFHxA,6:2 FTSが比較的高い濃度で報告されている。PFOS等は他の用途でも検出されるため,AFFFに由来するかどうかを判断するにはAFFFの主成分誘導体の検出が重要なポイントになろう。一方,6:2 FTS等のフルオロテロマー酸はAFFFにはほとんど含まれておらず,元の誘導体が比較的早く分解されてできると考えられる。またフルオロテロマー系誘導体の部分分解にともなうPFCAsの生成も報告されているが,これらはPFOSの不純物として3M社のAFFFに含まれており,地下水における発生源の特定にはPFSAsやフルオロテロマースルホン酸類を含めた全体の分布の比較が重要と考えられる。なお,AFFFに含まれる主要PFASの微生物分解に関する研究報告も増えており,関心のある方は例えば最近の論文70やその引用文献を参照いただきたい。

なお米軍の消火訓練では,燃料を火災ピットに投入して着火し,75~100リットルのAFFF濃縮液を適宜希釈してPremixを作り,これを泡として散布し消火を行ったとされる71Table 1 の組成からFC-203CEを選んでFoamer 2.5%,Filmer(PFOS) 1.8%,比重1として計算すると,1回の訓練毎にそれぞれ 1.9~2.5 kg,1.1~1.8 kgが散布されたことになる。Fallon 海軍基地の場合はこうした訓練が1988年まで週1回~月1回の頻度で行われたとされ71,控えめに見積もっても毎年 10 kgを超える量のPFOSやPFHxS誘導体が訓練でまかれたと推測される。

7. まとめと今後の課題

以上,分析情報6,7,8,9,10,11とAFFFの開発史に関する研究17,並びにToxic Docsにまとめられた3M社関連のAFFFの組成情報とフルオロテロマー関連のAFFFのSDS情報などを総合して,米軍が用いたAFFF中のPFAS組成をまとめた。間接的な根拠に基づく推測に頼る部分もあり,また濃度などの定量値については信頼できるデータが少ないなど,まだいろいろと不確実,不十分な点が残されているが,ECF系とフルオロテロマー系のAFFFのそれぞれの開発の流れと特徴がある程度整理できたのではないかと思われる。

AFFFのフッ素系界面活性剤には,炭素数6前後のペルフルオロアルキル基と双性イオンなどの極性をもつ有機鎖が共有結合でつながった誘導体が広く使われた。3M社の場合はペルフルオロアルキル基による強い電子吸引力でスルホンアミド結合の負イオン化が促進されるため,2個の極性有機鎖を結合させ水素を無くして解離を防ぐ二置換型(Y字型)の誘導体をFoamerとしたが,別にFilmerとしてPFOSを必要とした(Fig. 8)。一方フルオロテロマー系誘導体では間に入る炭化水素鎖のためフッ素の影響が弱まり,一置換型(直鎖型)で性能の良い界面活性剤が作られた。フルオロテロマー系では別にFilmerを必要としない。これは3M社のアミンオキサイド型にも共通した特徴で,おそらく一置換型(直線型)であればFoamerとFilmerの機能を同時にうまく発揮できるのだろう。フルオロテロマー系AFFF濃縮液には低分子のPFSAsやPFCAs,フルオロテロマー酸はほとんど認められず,主要誘導体と同じ濃度レベルでPFOSをFilmerとして含むECF系AFFFとは大きく異なっている。ただし,使用後は早く分解して6:2 FTS等ができ,ECF法のPFOSと同等の濃度で地下水などに検出されるようになる。

Fig. 8 Differences in chemical properties of ECF- and fluorotelomer-type PFAS in AFFF

フッ素フリーのFFFへの代替にむけた活動も急ピッチで進められている5。NRLのHinnantらは単純な組成でMIL規格を満足したRef-AFFFを作成して各成分の役割や混合による効果を検討できる体制を整えるとともに72,フッ素系界面活性剤に特有の水成膜重視の考え方から泡のダイナミクスを重視する考え方に変え,界面活性剤の物理化学的性質に関する膨大なデータベースを構築している73。ただ,AFFFの各成分の機能と組み合わせについては,まだ未解明の部分も残されているように見える。消火能力に関しては複雑な組成をもつスルトン型がベンチマークとされてきた。特に消火限界泡供給率(Critical(foam)application rate:消火できる最少の泡供給率)については,アクリル型やアミンオキサイド型,さらにはフルオロテロマー型も,スルトン型を超えられなかったという17。軍用では消火のスピードが何より重視され,FFFに置き換えるためにはHinnantらが目指すように,泡の性能を評価し最適化するための理論や評価手法の構築が急がれる。また泡消火剤にはフッ素系界面活性剤以外にも様々な成分が含まれている。FFFでも様々な物質が含まれることを認識し,開発段階から環境動態や毒性,生態毒性の評価を進めておくことも重要と考えられる74。広く界面活性剤全般の環境汚染防止に向けた環境動態研究,毒性研究の推進も重要だろう。特に毒性については,AFFFと比較して安定性が低いFFFの場合,消火の際にできる分解物までも視野にいれた評価が求められる74。その際,現在の一般的な毒性試験では十分に評価できない低濃度長期暴露による影響,次世代影響,免疫系などの高次生命機能への影響,また毒性に影響する体内動態の種差,性差などがPFAS問題で注目されていることにも十分留意する必要があろう。

AFFF由来のPFAS汚染に対する今後の研究や対策を進めるうえで,AFFFに含まれた主要な誘導体の標準物質の整備が重要な課題となる。米国NIST(National Institute of Standards and Technology)は米軍のAFFFを入手して8.8倍に希釈し,分析を支援する参照物質(RM 8690~RM 8693)として提供を始めた。これらの作成の経緯や含まれる物質の種類,濃度,主要誘導体の推定構造などの情報が報告されている(Fig. 975。このうちRM 8690はPFOSを主成分として含み,2番目に多い(8)もFig. 4 の3M社のスルトン型とアクリル型に共通して含まれる。さらに定性分析では(6)ならびにペルフルオロアルキル基の長さの異なる一連の物質が見つかっており,3M社のアクリル型(FC-203CFかFC-206CF)ではないかと考えられる。ただ,RM 8690はPFOS濃度から見て濃縮液ではなく希釈されたPremixをもとに作られたと考えられ,ECF法とは異なる製造方法2で作られる(36)や6:2 FTS,HFPO-DA,ADONAも検出されている(Table 14 75)ことから,Premixの保管中にいろいろコンタミした恐れがある。RM 8693はフルオロテロマー系でスルホンアミド結合を有する(36)や6:2 FTSを含む。ノンターゲット分析では同じくスルホンアミド結合型の(37)及び(38)のほか,チオエーテル型の(40),(42),(43),(46)も見つかっており,先のまとめから推測するとSolberg社の製品かもしれない。(36)の濃度からみてRM 8693はPremixではなく濃縮液を希釈したようだ。一方RM 8691,8692は(36)も含むが濃度は低く,ノンターゲット分析で6:2 FTSのほか(42),(43),(46)が見つかっており,主としてチオエーテル型からなるように見える。RM 8691では6:2以外にも4:2から12:2まで炭素数が2ずつずれたフルオロテロマー系特有のパターンの数種類の類縁物質が報告されているが,RM 8692ではFTSを除くと6:2しか報告がなく,管理責任プログラムに対応した製品のように見える。これらの参照物質は分析精度管理のほか,複雑な誘導体の分析法の開発や定性的な分析の際の基準としても役立つと期待される。なお最近になり,これまで標準物質がほとんどなかった3M社の主要誘導体関連物質のうちスルトン型の主成分である二置換型の(5)を含む,合計10種類の標準物質の合成が報告された76。今後,標準物質の供給が拡大され,汚染実態解明がさらに進展することが望まれる。

Fig. 9 Results of target and non-target analysis of reference materials, NIST RM 8690~869375

Levels of each compound is plotted in logarithmic scale (mg/L). PFAS in solid rectangle are those quantified by target analysis while those in dotted rectangle are identified by non-target analysis in the corresponding RMs (based on Table 14)75. See Supplementary Table for chemical names/abbreviation.

AFFF中には一般に複数のPFASが混在しており,AFFFのメーカーや製品,製造時期によって主成分や組成が変化する。さらに長い年月の間に基地で使用するAFFFが変化した結果,周辺環境を様々な種類のPFASが同時に汚染する様子も次第に明らかにされてきている7,8,9。PFOSやPFOAに比べれば,スルホンアミド基などで極性アルキル基とつながった誘導体は一般に水溶解性が低くて土壌吸着性が高く,散布地点の近傍に長くとどまりながら次第に分解してより移動性の高い形に変わっていく64。実際の環境中では,こうした多種類のPFASの時間的空間的な変化が起こり,複雑な複合暴露状況になるが,その影響をどう適切に評価し対処していけばよいかも今後の大きな課題と考えられる。さらにMIL規格以外のPFAS含有消火剤の組成は断片的にしかわからず,自衛隊によるAFFFの使用状況や国内メーカーによるAFFFの組成も残念ながらよくわからない。今後,国内においても泡消火剤のPFASの構造や環境中での分解・変化に関する研究が進み,AFFFにふくまれた主要誘導体やその分解物の標準物質の提供体制が整って,汚染実態の解明と毒性,生態毒性に関する研究が進むことを期待する。

文献 (各URLは2026年3月10日時点で接続確認)
 
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