環境化学
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報文
山形県上山市におけるエネルギー回収施設と微量元素汚染の関係性調査―2022年から2024年にかけての調査報告―
大矢 悠幾樫木 詞音鵜池 杏菜林 佳奈雑賀 力弥加藤 翔平渡邉 泉
著者情報
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電子付録

2026 年 36 巻 p. 19-31

詳細
要約

山形県上山市川口地区では2018年以降,廃棄物発電能力を備えたエネルギー回収施設川口が稼働し,農作物への影響と人体への健康被害が懸念されていた。廃棄物処理による排出が懸念される化学物質の1つとして,微量元素に着目し,周辺環境の無機試料の33元素濃度分析を実施した結果,Co,Ni,Cu,Zn,As,CdとPbの濃縮係数(EF値)が人為的に強い汚染を示す数値にあることが明らかとされた。また,当該施設から東方方向への拡散,とくに 1.7 kmから 3.0 km地点にはホットスポットの形成が示唆され,調査地域の主要風向である西風と周囲を山に囲まれた地形によるダウンドラフト現象による影響が想定された。また,As,HgおよびPbに関しては当該施設からの直線距離に応じて,EF値が減少する距離減衰傾向を示した。これらの汚染が懸念される元素と拡散状況の傾向は欧州の類似施設周辺における化学物質汚染状況と類似しており,当該施設の稼働が周辺環境への微量元素負荷要因の1つであることが想定された。廃棄物発電施設の適切かつ安全な運用と周辺環境保全を共に実現するためにも,市民および施設関係機関の連携調査や廃棄物発電に関する技術革新にむけた研究が必要とされよう。

Summary

Energy Recovery Facility Kawaguchi, equipped with waste-to-energy facility, has been operating in Kaminoyama City, Yamagata Prefecture since 2018. However, after operating this facility, potential impact on crops and human health have been concerned. Therefore, in this study, 33 elements in inorganic samples from the surrounding environment were analyzed for evaluating the effect of waste processing. As a result, the enrichment factors (EF values) for Co, Ni, Cu, Zn, As, Cd, and Pb were at levels indicating “strong anthropogenic contamination”. Furthermore, diffusion eastward from the facility, particularly at points 1.7 km to 3.0 km away, suggested the formation of hotspots. These results were attributed to the prevailing westerly winds in the study area and the influence of downdraft transport due to the surrounding mountains. Additionally, for As, Hg, and Pb, EF values showed a distance-dependent attenuation trend, decreasing with linear distance from the facility. The trends in these potentially problematic elements and their dispersion patterns resemble chemical contamination observed around similar facilities in Europe. The facility’s operation may be a contributing factor to trace element loading in the surrounding environment. Continued investigation is necessary to achieve the appropriate and safe operation of the waste-to-energy facility and the preservation of the environment.

1. 緒言

山形県上山市川口地区にて,2018年12月から広域廃棄物処理施設の1つであるエネルギー回収施設川口の稼働が開始された。本施設は2炉の流動床式ガス化溶融炉で一般廃棄物の焼却処理を行い,1日あたり 150 tの処理を行うことを想定している1,2。本施設で採用される流動床式ガス化溶融炉はストーカ式焼却炉と比較して,焼却残渣の再資源化効率が高く,最大1,200°Cの高温下でのスラグ処理を行い,ダイオキシンをはじめとした有害化学物質排出量の抑制が期待されている。また,本施設は焼却時に生じた熱を利用した発電技術を備えた,廃棄物発電施設でもある。

しかし,本施設は近隣に居住区や農地を有する場所にあり,農業を主要な産業とする上山市の農家や地域住民から,農業活動への被害と住民への健康影響を不安視する声があった。稼働開始以降,周辺のラ・フランスやシャインマスカットといった農作物の生育不良や干し柿の乾燥異常が地域住民によって報告されている。また,稼働反対を唱える市民団体の調査からは周辺住民で,喘息をはじめとした健康被害者数の増加も報告された。これらの農作物および人への被害と施設の稼働との因果関係の解明が望まれており,地域住民を主体とした汚染調査が試みられている。

本施設のような廃棄物発電施設は燃やせるゴミを燃料とした熱発電方式であり,1960年代の欧州での先駆的な実装移行,新たな発電方式の1つとして,世界的な実装が図られている3。廃棄物発電は化石燃料を消費することがなく,資源の抑制が可能な点と,天候に左右されず,昼夜問わず発電可能な点が主な利点とされている4,5。一方で,発電効率は石炭火力発電の20~30%程度であり,電力供給の面では従来の手法に劣ることが報告されている5。技術的な面でも,発電に必要な高温条件に耐えうる伝熱管等の発電設備の実装が困難であり,アルカリ金属やZn,Pbといった各種金属元素の焼却による酸化反応の促進と塩化物の生成による腐食リスクが懸念されており6,安定的な実装にはこぎつけていない。本エネルギー回収施設では,これらの問題解決のために,燃料効率の維持と発電および施設の安全な維持のために,原則として焼却炉の24時間稼働が義務付けられている1。しかし,実際の運用は1炉または2炉ともに1日から1週間程度の運用停止や一方の炉を不規則に運用および停止するような方法がとられていることが施設の提示するリアルタイム運行掲示板に示されており,24時間の稼働原則が長期にわたって守られていない状況にある。

これらの状況から,本研究では汚染を及ぼす危険のある化学物質の1種である微量元素に着目し,施設周辺の土壌,粉塵および堆積物(以下,無機物が主要な構成であることから便宜上,“無機試料”と略す)を用いた動態解析を行った。本研究では,地点間差による拡散の程度を評価することを主目的とし,2022年から2024年にかけて山形県上山市川口地区を中心に,試料採取と分析を行うことで,微量元素分布の地点間差や汚染度合の解明を図った。

2. 試料と方法

2.1 試料採取

2022年9月から2024年7月にかけて,山形県上山市川口地区を中心に施設から東部 10 km以内の地点で無機試料の採取を行った。試料の採取は降雪や残雪がない,各年の春季から秋季にかけて行った。無機試料は土壌試料(湿地土壌や農地土壌含む),粉塵試料(道路粉塵,雨水枡堆積物および屋上堆積物)と河川堆積物を採取した。試料採取地点はFig. 1 に示す。上山市は通年で西風が吹く地形であることから7,施設直下部および東部を汚染地として調査し,回収施設煙突部より上部かつ山地を隔てた場所にある森林土壌を対照地とした。西風の移動方向にあたる施設より東部において試料の採取を行うことで,施設より東部への拡散の有無を評価した。採取した試料のSample IDと試料の詳細な内容に関してはTable 1 に示す。

Fig. 1 Sampling site in Kaminoyam City, Yamagata Prefecture

Table 1 ID and details of samples collected from 2022 to 2024

SSL: Surface soil, MSL: Middle depth soil, SFS: Surface farm soil, MFS: Middle depth farm soil, RVS: River sediment, RDS: Road dust, DS: Dust, DDS: Drainage Dust, and RFDS: Roof dust.

Sample IDは対照区をControlとし,その他は土壌(SSLおよびMSL),河川堆積物(RVS),農地土壌(SFSおよびMFS),道路粉塵(RDS),粉塵(DS)および屋上堆積物(RFDS)で試料名を区別し,エネルギー回収施設からの方角と直下部周辺は0,その他は小数点第1位までの距離(単位:km)を示すように割り当てた(ex:SSL. E0.1の場合,施設から東方 0.1 kmで採取した表層土壌)。雨水枡堆積物(DDS)については,施設から東方約 0.1 kmから 0.15 km範囲内の敷地内のなかで,採取地内の建造物を中心とした方角ごとに採取した都合から,採取地内建造物からの方角を小文字で付記し,採取した順の番号を便宜上割り当てた。また,すべての土壌試料について,表層 5.0 cm程度までの表層土壌をスコップにて採取し,深部まで採取可能と判断した土壌のみ,表層から 30 cm程度,シャベルにて掘り返した深度にて,中層土壌を採取した。

2.2 元素分析のための試料前処理

採取した試料は室温で24時間風乾させた後,2.0 mmの篩で篩別した。各試料から約 0.100 gをバイアル管に秤取し,61%硝酸 2.0 mLを添加し,200 W 30分の条件下で湿式灰化処理を施した。液化試料をろ過(Advantec 5C)し,PPチューブに移したものを5%硝酸で10,000倍まで希釈したものを分析試料とした。

2.3 元素濃度分析

元素濃度分析はICP-MS (Agilent 7500cx) で行い,103Rhを内部標準試料とし,33元素(Li,Na,Mg,Al,K,Ca,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Rb,Sr,Y,Mo,Cd,In,Sn,Sb,Cs,Ba,La,Ce,Gd,Pt,Tl,PbおよびBi)濃度を分析した。ICP-MSの回収率はCRM No. 13 (NIES) 毛髪で確認し,認証可能な元素の回収率は48%(Al)~116%(Cu)であった。本回収率において,Alは回収率が最も低かったものの,同様に毛髪のCRMを用い,同手法と同様の前処理および分析手法を適用した先行研究8においても類似した結果であった。既報8では同程度の回収率下のAlを用いたEF値の算出と分析および解析が実施されており,その妥当性は示されている。認証物質での回収率が求められなかった元素は検量線のR2 が0.999以上であることを確認したうえで,精度を保証した。以降のTableにおいて,回収率が求められた元素についてのみ本文中に示し,回収率が求められなかった元素はサプリメントデータとして示す。

また,2023年に採取された試料は同様の液体試料を用い,還元気化式水銀分析計(京都電子工業 MD-700A)にて,Hg濃度を計測した。Hgの回収率はNIST1633b Coal Fly Ashで確認し,その回収率は93±1%であった。

2.4 濃縮係数(Enrichment Factor (以下,EF値))の算出および評価

すべての無機試料について,重金属による汚染の程度を評価するために以下の式(1)にて濃縮係数を算出した。標準化には分析対象とした元素の中で地殻中に含まれる量が最多かつ最も普遍的に存在する元素であるAlを用い,参照値としては既報の数値を用い9,以下の式10で算出した。本研究においてEF値算出の参照値として適用した元素濃度値9は,日本国内における土壌中の元素濃度を様々な分析手法から入手したデータをもとにしている。当該文献9の分析手法には本研究と同様の手法も含まれている点と日本国内の複数の土壌条件を比較したうえでの基準となる濃度を示している点から,特定地域の地質特性に由来する元素濃度の偏りを反映しにくい参照値であると考えた。よって,国内の底質試料との比較研究における,特定地域の地域的特性による高濃度あるいは低濃度の土壌を基準値として用いた場合に生じるEF値の過大および過小な評価を抑制できると考え,本数値を参照した。また,粉塵試料や堆積物試料についても土壌成分を一部含有することと,同一の参照値を用いることで,土壌試料を含めた本研究の数値内での比較が可能になることも鑑みて,すべての試料で当該文献の数値を参照値として用いた。EF値に関して,EF<2で汚染なし,2≦EF<5で軽度の汚染,5≦EF<20で明らかな汚染,20≦EF<40で強い汚染,40≦EFで非常に強い汚染と区分した10

  
EF= [M]sample/[Al]sample [M]reference/[Al]reference (1)

[M]各元素濃度,[Al]Al濃度

2.5 統計解析

統計解析はR 4.5.0を用い,R studioで各種の統計解析を行った11。元素濃度間の相関を調べるために,Spearmanの順位相関係数(Spearman’s rank correlation test)を行った。各試料および地点間での元素分布評価をヒートマップ解析にて行った。ヒートマップ解析内に形成されるクラスターは既報12と同様の手法で作成された。濃度が検出限界を下回った元素に関しては,検出限界の1/2の値を用いて解析に用いた。検出限界は分析ブランクの標準偏差の3倍に,希釈倍率の基準とした10,000倍を積算した値を用いた。

3. 結果と考察

3.1 2022年および2023年の無機試料における上山市川口地区の元素分布

2022年および2023年に上山市で採取された無機試料での元素濃度をTable 2 およびTable S1,それらをもとに算出したEF値について,土壌試料をTable 3 およびTable S2,粉塵試料をTable 4 およびTable S3 に示す。

Table 2 12 element concentrations in inorganic samples collected from 2022 to 2023 (μg/g d.w.)

Table 3 Enrichment factor of 11 elements in soil and river sediment samples collected from 2022 to 2023

Red column: 40≦EF (Extremely High levels of pollution); Yellow column: 20≦EF<40 (High levels of pollution); Green column: 5≦EF<20 (Moderate levels of pollution); Uncolored column: Low levels of pollution or lower.

Table 4 Enrichment factor of 11 elements which can be certified by CRM No. 5 (NIES) in dust samples collected from 2022 to 2023

Red column: 40≦EF (Extremely High levels of pollution); Yellow column: 20≦EF<40 (High levels of pollution); Green column: 5≦EF<20 (Moderate levels of pollution); Uncolored column: Low levels of pollution or lower.

対照区として設定した森林土壌(ID: Control)では明らかな汚染に区分(5≦EF<20)される元素はCu,Zn,Sr,CeとGdの5元素のみであり,その最高値はZnでの11.6であった(Table 3 およびTable S2)。その他の元素では軽度な汚染以下の数値であることからも,回収施設より標高が高く,山を隔てた地点に位置する本地点は概して,人為的な汚染の影響が少ない地域であると示された。また,Zn,CeおよびGdでは,森林土壌とその他の土壌試料でのEF値が同程度であることから,本地域の土壌元素組成として,参照した土壌組成9よりもこれらの元素が豊富に含まれていたと考えられる。一方で,CuやSrは採取した他の土壌試料よりも対照区でのEF値は高い傾向にあり,森林周辺に負荷を高める要因が存在したと示唆された。

分析された元素のなかで,Pbは対照区および公園土壌(ID: SSL. ENE3.5)と1種の河川堆積物(ID: RVS. E0.1)を除く試料でEF値が5を超過し,明らかな汚染以上の区分に該当した。対照区でのEF値は4.22であり,この数値と比較して2倍以上の地点が半数以上であり,Pbの人為起源の負荷が平地部の広範囲で生じていることが懸念された。とくに,回収施設の西方直下部の中層土壌(ID: MSL. W0)と回収施設近傍の前川河川堆積物(ID: RVS. E0)では強い汚染(EF=21.9~31.5),同施設北方の農地土壌の表層と中層(ID: SFS. NE0.6, MFS. NE0.6, SFS. N0.1 およびMFS. N0.1)では非常に強い汚染(EF=45.1~233)が確認された。先行研究13にて,焼却場付近における農地土壌のPb濃度は 47.6-133.5 mg/kgと報告されており,本研究における直下部付近の農地土壌におけるPb濃度と類似し,最大値については4.5倍程度超過していた(Table 2)。同様の地理的条件の地域との濃度値の類似性と採取試料のなかで高いEF値が確認された地点が共通して施設直下部の周辺であったことからはPbの負荷要因の1つとして回収施設由来の影響が作用している可能性が考えられた。

Pbで高EF値が認められた農地土壌は,同様に北方直下部の農地土壌であるSFS. NE0.3およびMFS. NE0.3も含めて,Pb以外にもZn,CdやInの高い人為負荷が認められた(Table 3)。ZnではSFS. NE0.6およびSFS. N0.1で対照区と比較して約2から4倍の数値であった。とくに,Zn濃度は先行研究の焼却場付近の農地土壌におけるZn濃度範囲である 31.2-213.6 mg/kg13と比較して,本研究における施設周辺の農地土壌の最小値および最大値が共に高く(Table 2),焼却施設由来の影響が示唆された。CdやInは対照区での濃度が検出限界未満であったことに対し,SFS. NE0.6,SFS. N0.1およびSFS. NE0.3では検出され,そのEF値が明らかな汚染から非常に強い汚染に区分された。以上より,農地土壌が土壌試料のなかでは元素負荷の影響を受けやすい試料種であることが示唆された。一般に,作物収量の向上のために,農地土壌は施肥された肥料中の必須元素や水分を長期的に保持するように,保肥性および保水性の高い土質となるように作土される14。この作土によって形成された保肥性および保水性の増加といった物理化学的性質から,農地土壌は他の土壌と比較して各元素を強く濃縮し,高いEF値となったと考えられる。

無機試料のなかでも,屋上,道路および雨水桝の堆積物である粉塵試料では,試料種を問わず,土壌試料よりも高い汚染状況区分にあり,Mg,Cr,Ni,Cu,Zn,GdとPbは半数以上の粉塵試料でEF値が5を超過した(Table 4 およびTable S3)。とくに,Cr,Cu,ZnおよびPbではEF値が40を超過する非常に強い汚染に区分される試料もみられ,それらは回収施設北方の道路粉塵(ID: RDS. N0)と回収施設に隣接する企業構内の屋上および雨水桝堆積物であり,回収施設近傍で採取された粉塵試料であった。これら4元素のうち,Pbは土壌試料でも回収施設近傍の試料ほどEF値が高く,回収施設由来の負荷が生じている可能性が懸念される元素であり,粉塵試料からも同様の傾向が示唆された。また,Cr,CuおよびZnも負荷要因の1つとして回収施設が影響している可能性が粉塵試料の結果より示唆された。くわえて,既報15にて,工業地帯付近で採取された雨水桝堆積物中でZnは 1,200 mg/kg,Cuは 100 mg/kgおよびPbは 90 mg/kg程度であったと報告されていることに対し,本研究における直下部の屋上および雨水桝堆積物における濃度はZnはすべての試料,CuとPbは1試料を除く試料で既報の最大濃度を超過した(Table 2)。EF値と既報15との比較の双方の結果より,直下部周辺において,人為的なCu,ZnおよびPb汚染が生じていることが示された。

粉塵試料で回収施設直下部周辺での負荷が高くなりやすい傾向を示した元素としては,Pb以外にAsがみとめられた。Asはかみのやま温泉駅(ID: RDS1. NE4.0およびRDS2. NE4.0)やその周辺の道路や建造物付近で採取された粉塵(ID: RDS1. E4.0からRDS6. E4.0)では検出限界未満(Table S1)またはEF値が5未満の軽い汚染レベル以下の低い汚染懸念状態であった(Table S2 およびTable S3)。しかし,施設近傍の屋上および雨水桝内堆積物では明らかな汚染に区分される数値が記録された。Asのこれらの施設近傍の屋上および雨水桝内堆積物試料における濃度値は,工業地帯周辺での濃度値が示された既報15の最大濃度値の 9.0 mg/kgと同程度の値であり,Cu,ZnおよびPb同様に人為的な負荷は濃度比較からも想定された。ゆえに,AsもPb同様に回収施設由来の負荷が懸念される元素種であると考えられた。

廃棄物発電処理施設周辺での重金属汚染は,欧州のフランス,オランダおよびスペインでも報告されており16,17,18,そのなかで,As,Cd,HgおよびPbの4元素は住宅,公園や学校の土壌およびコケ類で基準値を超える濃度での検出がみとめらた。また,同一の研究からコケ類で検出されたCo,Ni,CuおよびZn濃度は施設近傍ほど高濃度になることも明らかとされている。本研究において回収施設直下部周辺での人為的な高い負荷が確認された元素(Cr,Cu,Zn,AsおよびPb)や高いEF値(Mg,Cr,Ni,Cu,Zn,GdおよびPb)がみられた元素は欧州での報告例(Co,Ni,Cu,Zn,As,CdおよびPb)と類似していた。共に廃棄物発電に着目した研究例であり,この共通点からも,該当元素の周辺環境の負荷要因として廃棄物発電施設が関与している可能性が示唆された。

3.2 2023年に採取された無機試料における水銀濃度

2023年3月から11月にかけて採取された無機試料に関しては水銀濃度を計測し,その値と図をTable 5 およびFig. 2 に示す。

Table 5 Mercury concentration in inorganic samples collected in 2023 (μg/g d.w.)

Fig. 2 Mercury concentration in inorganic samples collected from sampling site in 2023

日本国内の土壌における水銀のバッググラウンド濃度は 0.03 μg/gとして考えることが可能であると先行研究では報告されている19。対照区とした森林土壌におけるHg濃度は全地点のなかで4番目に低濃度であり,その濃度も 0.0022 μg/g d.w.と極めて低値であった。一方で,2023年に採取された試料のうち,半数近くの試料が本参考値 0.03 μg/g19を超過した。これらの試料は回収施設南部直下の湿地土壌(ID: SSL. S0およびMSL. S0),回収施設北部直下の農地土壌3地点(ID: SFS. NE0.6, MFS. NE0.6, SFS. N0.1, MFS. N0.1, SFS. NE0.3およびMFS. NE0.3),隣接企業の屋上堆積物(ID: RFDS. E0.1)と同企業内の1地点を除く雨水桝堆積物(ID: DDS. ne1 以外)であり,その他の微量元素濃度をもとにしたEF値比較において,Co,Ni,Cu,Zn,As,CdおよびPbの高い負荷が懸念された試料種と概して一致した。本結果からも,農地土壌や屋上および雨水桝内堆積物が元素を蓄積している試料であることが示され,また,Hgもエネルギー回収施設由来の周辺環境への負荷が懸念された。

日本のバッググラウンド濃度を超過した試料はすべて,対照区の森林土壌(ID: Control)と比較して10倍程度高い値を記録し,同地域内でも高い負荷を受けていることが懸念された。一方で,Hg濃度は回収施設から 2.0 km程度離れた位置にある試料(ID: SSL. NE2.5)では濃度が対照区と同程度の 0.0021 μg/g d.w.まで低下し,さらに離れた位置においても同程度の水準(0.0015 μg/g d.w.~0.0091 μg/g d.w.)で推移した。本結果より,回収施設直下部周辺でのみHgは高濃度化し,回収施設から離れるとともに減衰する傾向にあることが明らかとされた。Hgも欧州の研究事例16,17,18では廃棄物発電施設近隣の無機試料およびコケ類にて,高濃度で検出されており,濃度の変化や類似施設周辺での高濃度化といった共通性がみられた。

3.3 2024年7月の無機試料分析による回収施設を起点とした元素拡散

2024年7月に採取された無機試料に含まれる元素濃度を,回収施設との直線距離が近い順にTable 6 およびTable S4 に示し,同様にEF値をTable 7 およびTable S5 に示す。

Table 6 12 element concentrations in inorganic samples collected in 2024 (μg/g d.w.)

Table 7 Enrichment factor of 11 elements in dust samples collected in 2024

Red column: 40≦EF (Extremely High levels of pollution); Yellow column: 20≦EF<40 (High levels of pollution); Green column: 5≦EF<20 (Moderate levels of pollution); Uncolored column: Low levels of pollution or lower.

半数以上の試料でEF値が5を超過し,調査地点の広域で明らかな汚染以上の区分が確認された元素はCu,Zn,As,Mo,Cd,In,Sb,PtおよびPbであった。これらのEF値の変化を棒グラフで図示し,Fig. 3 に示した。これらの元素のうち,Asは回収施設直下部のSSL. E0(煙突から東北東 0.14 km) では強い汚染に区分された(EF=26.4)ものの,最も離れた地点であるDS(S29). E4.0(煙突から東北東 4.4 km地点)では軽度な汚染の区分(EF=2.95)まで低下した。2022年から2024年までの結果からも,総じてAsは回収施設直下部周辺で高い負荷が生じていることが明らかとされており,調査地域でのAsの周辺環境への負荷源として回収施設の影響が懸念された。

Fig. 3 Cu, Zn, As, Mo, Cd, In, Sb, Pt and Pb enrichment factors in inorganic samples collected from sampling site in 2024 (Red bar: 40≦EF (Extremely High levels of pollution); Yellow bar: 20≦EF<40 (High levels of pollution); Green bar: 5≦EF<20 (Moderate levels of pollution); Uncolored bar: Low levels of pollution or lower)

一方で,Cu,Zn,As,Mo,Cd,In,Sb,PtおよびPbの各元素で共通してみられた特徴として,回収施設の煙突からの距離が 1.7 kmから 3.0 km 地点に位置するSSL. NE1.7からSSL. NE3.0でのEF値の増加があげられる。とくに,Mo,Cd,In,Sb,PtおよびPbは該当地点で最高EF値が記録され,施設から 4.4 kmほどの遠方では低濃度化する傾向にあったAsも該当範囲内では一時的なEF値の増加が確認された。以上より,1.7 kmから 3.0 km地点は調査範囲内における微量元素の滞留が懸念される地域であると示唆された。

1.7 kmから 3.0 km地点におけるEF値増加には,2つの要因が考えられる。1つは自動車の通行による影響である。2024年7月調査で半数以上の地点で明らかな汚染がみとめられた元素種のうち,Znはタイヤ素材として使用され,摩耗粉塵による汚染が問題視されている元素種であった20,21。くわえて,Moは自動車のブレーキディスク22,Sbはブレーキパッド23,24,そしてPtは自動車エンジンの三元触媒25,26として用いられている。とくに,Ptの環境中への負荷要因は自動車のエンジン触媒由来であることが明らかとされており26,自動車由来での負荷が生じる代表的な元素種である。以上の共通点から,回収施設以外の要因として,これらの元素の負荷には自動車が関与していたと考えられる。しかし,該当地域における自動車交通量27について,1日の平均交通量は17,246台であり,これは回収施設直下部沿線道路の21,043台や施設から最も離れた採取地である高層マンション付近の道路(煙突から 4.4 km地点)の26,699台と比較して少ない台数であった。自動車由来の負荷量推定には台数以外にも信号等による停車時間推移や平均速度,車種といった要因の考慮も必要とされるものの,台数の観点からは 1.7 kmから 3.0 km地点は最も負荷影響が少ない地点といえる。また,これらの直下部から高層マンション付近までの3地域と同等以上の交通量の道路上で採取された道路粉塵の元素濃度を調査したポーランドの研究28と比較して,本研究のZnとPb濃度は既報28の平均濃度(Zn: 68.99 mg/kg; Pb: 11.42 mg/kg)を超過する傾向が示された(Table 2 およびTable 6)。ゆえに,交通量によって生じる負荷以上の影響が生じていることが示唆され,1つ目の要因として考えられた自動車以外の要因を考慮する必要性がある。

そこで2つ目の要因として,上山地域での主要な風向きとなる西風とダウンドラフト現象による 1.7 kmから 3.0 km地点への沈着があげられる。ダウンドラフト現象は排気口を有する施設の排気口の高さが周辺構造物の2.5倍以下であった場合に,排気口から生じた排煙が上空で希釈されず,構造物周辺で生じた乱気流によって地上付近へ降下する現象である29,30。窒素酸化物では,煙突高が周辺構造物の標高に対して,5 km圏内で0.6倍以上,20 km圏内で1.0倍以上となる地形影響ありとされる条件下では,着地濃度が平坦な土地と比較して,2~3倍程度に増加することが評価されている31。また,最大着地濃度が生じる最大着地距離は平地では煙突から 12~14 kmであったことに対し,ダウンドラフト現象の生じる地域では平地と比較して0.2倍程度の距離まで減少することがモデルにより計算されている27。エネルギー回収施設川口の立地は北部および南部を山で囲われており,その排気口は山の頂上部よりも低い位置にある。また,この施設北部および南部の山地はEF値のピークがみられた施設から東方 1.7 kmの地点まで連なる形で続き,東方 2.0 km付近で途切れている。この地形条件から,元素の滞留が懸念された調査地域はダウンドラフト現象の発生が想定される条件にある箇所が含まれているといえる。くわえて,先行研究から考えられるダウンドラフト条件下での窒素酸化物の最大平地距離は,本研究におけるEFで強い汚染が示された元素のピーク距離の範囲内であることが想定された。以上より,煙突から 1.7 kmから 3.0 km地点はダウンドラフト現象が他地点よりも発生しやすい地形構造をしていたと考えられ,当該地域での元素の滞留箇所の形成に寄与する要因の1つとして西風による輸送とダウンドラフト現象の発生が影響した可能性が考えられた。当該地域における大気の移動性や滞留に関する研究が必要とされよう。

3.4 2022年から2024年に採取された無機試料の元素濃度を用いたヒートマップ解析

2022年から2024年にかけての無機試料の微量元素濃度分布について,元素が滞留しやすい地点や試料種の特徴を解析するためにヒートマップ解析を実施し,その結果をFig. 4 に示す。

Fig. 4 Heatmap analysis of 33 element concentrations in inorganic samples collected from sampling site in 2022 to 2024

最も多くの元素が高濃度で蓄積している特徴がみられた試料は雨水桝堆積物や屋上堆積物であるとヒートマップ解析からも明らかとされた。本結果からは,雨水枡内や屋上の壁際といった移動性の少ない場所に沈着した試料ほど,強い負荷を受け,人為的汚染による高い負荷を受けやすいことが示された。また,これらの試料は同一クラスター内に属しており,雨水枡堆積物と屋上堆積物の試料の起源や試料に対する負荷要因は類似していることも,ヒートマップ解析からは示唆された。

雨水枡や屋上堆積物といった高元素濃度試料種のクラスターに,隣接する位置にクラスターが形成された試料種は2024年に採取された試料11種のうちの8種類であった。これらの試料はLi,Mg,Al,K,V,Fe,Co,Ga,As,Rb,Y,Cs,La,CeおよびGdの高濃度蓄積の特徴が共通していた。また,2024年試料ではMo,SbやPtの高濃度蓄積の特徴もヒートマップ解析から支持された。この2024年試料のうち,試料のEF値が高まっていた,施設より 1.7 kmから 3.0 km東方地点の6試料のうち4試料が本クラスターに分類された(ID: SSL. NE1.7, SFS2. NE2.0, SSL. SE3.5およびSSL. NE2.0)。この高濃度蓄積の特徴とホットスポット化が懸念される試料種である雨水桝や屋上堆積物のクラスターとの隣接による試料特徴の類似性から,施設より 1.7 kmから 3.0 km東方地点に元素が滞留しやすい地点が形成されやすいことがヒートマップ解析から支持された。

また,元素の負荷が高い懸念がある試料種と異なるクラスターであったものの,施設直下部北東の農地土壌SFS. N0.1およびMFS. N0.1と施設直下部南部の湿地土壌のSSL. S0およびMSL. S0は試料中のLi,Al,K,Ga,Rb,Y,Cs,La,CeおよびGdの高濃度蓄積の特徴が雨水桝および屋上堆積物や2024年試料と類似した。本結果から,直下部周辺の農地土壌や湿地土壌での高EF値から懸念されたこれらの土壌試料における高濃度蓄積の傾向が統計解析からも支持された。くわえて,元素の滞留が支持された施設直下部の農地および湿地土壌,雨水枡や屋上堆積物と2024年試料の一部は,対照区とした森林土壌を含むクラスターとは異なるクラスターに属していた。以上より,これらの試料は対照区のような自然起源を中心とした組成とは異なることが示され,人為的影響による元素負荷を受けていると支持された。

3.5 Zn濃度およびPb濃度とFe濃度の比による元素組成評価

調査地域の広域で人為負荷が懸念される元素には,ZnおよびPbが該当した。ZnとPbには正の相関が認められ(p<0.05 by Spearman’s rank correlation test),これら2種の元素の起源が共通している可能性が示唆された。また,ZnとPbについて,土壌中に普遍的に存在する元素であるFeとの相関を調べたところ,PbとFeの間には正の相関が認められたものの(p<0.05 by Spearman’s rank correlation test),ZnとFeの間には相関関係が認められなかった。この結果より,Pbは土壌成分の影響を受けている可能性も考えられ,ZnとPbのみでのプロットの比較では土壌をはじめとした自然起源の影響による過大または過小な評価につながることが懸念された。そこで,自然起源の元素の代表値として,本研究におけるEF値から人為的負荷が比較的軽微であったFeをもとに,Fe濃度との比による標準化を行い,試料種ごとの人為的影響の程度の違いを評価した。Fe濃度での標準化による微量元素の人為的負荷評価は複数の調査32,33で有効性も示されている。Zn濃度とFe濃度の比(以下,Zn/Fe値),Pb濃度とFe濃度の比(以下,Pb/Fe値)を算出し,散布図としてプロットした(Fig. 5)。

Fig. 5 Zinc and Iron concentrations ratio (Zn/Fe) and Lead and Iron concentrations ratio (Pb/Fe) of inorganic samples collected from sampling site in 2022 to 2024

濃度比の結果からはZn/Fe比に卓越した試料グループ(以下,Zn/Fe卓越型)とPb/Fe比に卓越した試料グループ(以下,Pb/Fe卓越型)にわかれた。Pb/Fe卓越型の試料は主に土壌系試料と河川堆積物試料によって構成されていた。土壌系試料はZn/Fe比の数値の変動は試料間での差が微小であり,Pb/Fe比が試料種ごとに変化していた。土壌間でのPb/Fe比の違いには保肥性や保水性といった土壌の物理化学的特性が影響していると考えられた。Pb/Fe比が最大であった試料は回収施設直下部北東の農地土壌(ID: SFS. N0.1およびMFS. N0.1)であった。次いで,湿地土壌(ID: SSL. S0およびMSL. S0)とSFS. N0.1およびMFS. N0.1以外の施設近傍農地土壌が続き,その他の土壌試料のPb/Fe比は0.003以下で同等であった。Pb/Fe比が高かった試料はヒートマップ解析にて高濃度試料群に大別され,元素の高濃度蓄積が懸念される試料種であり,本結果からは,農地土壌と湿地土壌はPb負荷による高い負荷が生じていることが明らかとされた。とくに,高い負荷を受けている試料は農地土壌であり,作土による保肥力の高さによる元素の保持能力の高さや通気性および透水性の高さによる吸収のしやすさが影響したことが考えられる。また,湿地土壌に関しては雨水桝同様に外部への流出が少ない条件下にあり,一度流入した元素が排出されにくかったために生じたものと考えられる。

一方で,Zn/Fe比の結果からは試料種ごとでの組成の違いが確認された。最もZn/Fe比が高かった試料種は屋上および雨水桝内堆積物といった粉塵試料であり,次いで道路粉塵となり,最も低かった試料は土壌試料であった。屋上および雨水桝堆積物はヒートマップ解析やEF値の結果からもZnに関する数値が高く,高い負荷を受けている試料種であることが示されていた。本組成比の結果からはPb/Fe卓越型ではなく,Zn/Fe卓越型の試料種であることが示され,屋上および雨水桝堆積物は特にZnの負荷を受けていることが明らかとされた。一方,道路粉塵は一部で屋上および雨水桝堆積物と同程度のZn/Fe比を示す試料がみられ,Znが土壌系試料と比較して,粉塵系試料を特徴づける元素であることが示唆されたものの,その試料は4試料程度であった。道路粉塵の採取箇所は周囲に構造物が少ない開放的な場所でとられたことに対し,屋上および雨水桝堆積物は周囲を壁に阻まれた閉鎖的な空間から採取されている。結果として,道路粉塵は降雨によるランオフや風による巻き上がりによって輸送されやすいことに対し,屋上および雨水桝堆積物は輸送されづらく,さらにはこれらの風雨によって輸送された物質が沈着する場所にある。結果として,乾性および湿性経路で沈着した元素が元から存在した堆積物に濃縮される経路と風雨によって周辺から輸送された表層上の道路粉塵が混入する経路の複合的な影響によって,粉塵試料のなかでも高い負荷を受けやすい試料となり,2種の粉塵試料でのプロットの分離は試料の移動性による違いによるものであると考えられた。また,試料種としては2番目に高いZn/Fe比となった道路粉塵は,自動車タイヤのようなZn含有物が粉塵のもととなったとも考えられる。しかし,最もZn/Fe比が高かった試料種である屋上および雨水桝堆積物は道路粉塵とは異なり,泥状の物質であった点から,交通由来のみが影響したとは考えにくい。また,高層マンション近傍で採取された試料に着目した場合,同一地点内の方角を変えた場所で採取された試料間でZn/Fe比について,数値が高い試料群と低い試料群にわかれる傾向が確認された。さらに,同一マンションの29階南方ベランダで採取された粉塵試料のZn/Fe比は高い試料群と同等の値を示していた。29階で採取された粉塵は路上よりも高い位置で採取された試料であり,道路粉塵と比較して交通の影響を受けにくい試料であると考えられ,Zn/Fe比の増減には交通以外の要因が関与していることが示唆された。

マンションで採取された各粉塵に着目し,Zn/Fe比の変動と各粉塵採取地の方角とマンションの構造に関して考察を図った(Fig. 1)。該当高層マンションはエネルギー回収施設から東北東方面 4.4 km地点に位置している。西風が通年で吹く上山市では,高層マンションはエネルギー回収施設方面からの西風が当たる場所に位置している。本調査でZn/Fe比はマンション西方駐輪場粉塵,マンション西方下部およびマンション南方下部と南方29階ベランダ粉塵で高くなり,マンション北部下部と南部車庫内粉塵では低い値となった。西方駐輪場およびマンション西方下部は西風がマンション構造物に当たった部分の下部にあたる。また,風の吹く方向の後方にはマンションがあり,西風によって輸送された物質や粉塵が風によって拡散されにくい。マンション南方下部も粉塵採取箇所がマンションおよび車庫によって囲まれた場所にあり,西風によって輸送された物質が逃げにくい構造にあったといえる。また,南方29階ベランダ粉塵に関しても,南方下部の上部で採取されており,同様に西風の影響とその後の拡散が生じにくい場所で採取された。一方で,車庫内部の粉塵は外部からの風による輸送の影響を受けにくい閉鎖的な空間であり,マンション北方下部には西風が吹き抜ける場所で採取されている。以上より,Zn/Feが増加,すなわちZn負荷が高まった要因として,西風の関与が示唆された。Zn/Fe比が総じて高い試料群であった屋上および雨水桝内堆積物が施設東部の隣接企業内で採取されたものであることからも,Znの負荷要因にエネルギー回収施設由来の影響が想定される。一般廃棄物処理場から排出される飛灰に含まれる元素濃度比較において,Znが 17,000 mg/kg d.w.であることに対し,Pbは 3,000 mg/kg d.w.であり,約5.7倍程度Znの含有量がPbよりも多いことが明らかとされている34。本研究にて,Cr,Cu,Zn,AsおよびPbのEF値が分析試料のなかでも高く,回収施設の稼働による負荷を特に受けていることが懸念された粉塵試料がZn/Fe卓越型の傾向にあったことから,調査地域における無機試料に対するZn負荷は,廃棄物発電施設の稼働に由来した排出物が影響した可能性が懸念される。

また,マンション付近で採取された6種類の粉塵間で比較した場合,Pb/Fe比も,西風の影響を受けやすい場所ほど増加する傾向にあり,6種の中でPb/Fe比が最大となった試料は南方29階ベランダ粉塵であった。南方29階ベランダ粉塵のPb/Fe比は施設直下部北東農地土壌(ID: SFS. N0.1)や直下部南部湿地土壌と同等の値であった。ゆえに,西風による輸送はPb負荷も高める要因となっていたと示唆されたとともに,施設直下部および東北東方面でのPb負荷増加からは,Pb負荷の要因として,エネルギー回収施設の稼働が影響していたと懸念される。

4. 総括

施設稼働前のベースラインデータが存在しないため,観測された微量元素濃度が施設稼働による上昇か,当該地域の元来の特性によるものかを厳密に区別することができない点からは,本研究には方法論としての制約が生じている。しかしながら,1)EF値による人為的汚染評価から明らかとされたCo,Ni,Cu,Zn,As,CdとPbの広域での強い汚染区分,2)施設周辺の立地と高EF値区域の風向による拡散やダウンドラフト現象による沈着が想定される方向および距離の一致性,3)施設周辺でのAsやHg,Pbの高EF値化と距離減衰傾向,そして,4)同様の機能を有する施設周辺で明らかとされている元素汚染状況との一致性という複数の証拠は,当該施設の稼働が人為的な微量元素汚染の1つの要因として関与していた可能性を示すものである。今後,施設からの排出物質の分析や,稼働前データが保存されている他の類似施設との比較研究により,因果関係のさらなる検証が期待される。

電気化が促進される状況下では,廃棄物を資源とし,天然資源消費量を抑制した発電手法を実現する廃棄物発電の安全かつ安定的な技術確立は重要かつ必須課題といえる。施設関係者,地域住民および各種研究機関による汚染調査といった市民,行政および企業の連携によるモニタリング解析とともに,廃棄物発電処理施設の抱える技術的問題の克服に向けた研究も望まれる。

謝辞

本研究の遂行には,藤原寿和氏(藤原市民環境相談室(室長))および結城玲子氏(山形県の環境と観光産業を守る会)から,上山市の地理的情報の提供,試料の採取および提供において,多大なるご尽力を賜った。ここに感謝の意を表す。

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