2026 年 36 巻 Special_Issue 号 p. s59-s64
ペル及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は難分解性の工業化学物質で,ヒト曝露が世界的に確認されている。2020年以降の体系的レビュー又はメタ解析と主要原著論文を整理したところ,最も一貫した関連は1)脂質代謝(総/LDLコレステロール上昇),2)肝障害指標・脂肪肝,3)ワクチン抗体応答低下(特に小児)であった。さらに高血圧症,2型糖尿病,甲状腺機能,出生低体重・妊娠転帰,女性の受胎能低下,男性の精液所見との関連も示唆されるが,エビデンスの不均一性や曝露評価の不確実性に関する限界が残る。発がん性では国際がん研究機関がPFOAをヒト発がん性(Group 1),PFOSをGroup 2Bと評価した。近年,EFSAのTWI(4 PFAS合計 4.4 ng/kg/週)や米国EPAの2024年飲料水規制など指針値・規制値は厳格化している。今後は一般集団レベルの前向き研究,混合・新規PFAS,感受性期の検討,バイオマーカー変化の臨床的意義の確立が必要である。なお,動物実験で確認された影響の多くはヒト環境曝露より数桁高い濃度で認められており,低濃度曝露域でのバイオマーカー変化の臨床的意義の解明が課題である。
Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) are highly persistent industrial chemicals with widespread human exposure. Epidemiological evidence published mainly since 2020 was reviewed, prioritizing systematic reviews, meta-analyses and key original studies. The strongest and most consistent associations are observed for dyslipidaemia (higher total/low-density lipoprotein), markers of liver injury and fatty liver disease and reduced vaccine antibody responses—particularly in children. Evidence also suggests associations with hypertensive disorders, type 2 diabetes, altered thyroid function, adverse birth outcomes (lower birthweight, shorter gestation), decreased fecundability and male reproductive endpoints (reduced semen quality); however, heterogeneity and exposure misclassification remain important limitations. For cancer, the International Agency for Research on Cancer classified perfluorooctanoic acid as carcinogenic to humans (Group 1) and perfluorosulphonic acid as possibly carcinogenic (Group 2B), supported by limited human evidence (kidney and testicular cancer) and strong mechanistic evidence. Regulatory benchmarks have tightened globally, reflecting concern about health risks at low exposure levels. Priority research needs include longitudinal studies at general-population exposures, mixture/next-generation PFAS, susceptible windows and clinical significance of biomarker shifts. This review synthesizes current human evidence to inform risk assessment and public health actions. The review also highlights that most toxicological findings are derived from exposure levels several orders of magnitude higher than those in the general population, underscoring the need to clarify the clinical relevance of subtle biomarker changes at low-dose exposures.
PFAS(per- and polyfluoroalkyl substances)は耐熱・撥水・撥油性等の特性から広範な用途で利用され,環境中・生体内での残留性が極めて高い。一般集団では飲料水,食品,塵埃,製品由来の慢性低用量曝露が主である。欧州食品安全機関(EFSA; European Food Safety Agency)はperfluorooctanoic acid(PFOA),perfluorooctane sulphonic acid(PFOS),perfluorononanoic acid(PFNA),perfluorohexane sulphonic acid(PFHxS)の4物質合計に対し耐容週間摂取量(TWI; tolerable weekly intake)4.4 ng/kg体重/週を設定し,ワクチン抗体応答の低下を主たる根拠とした1)。米国では2024年に6つのPFASの飲料水規制が最終化され,長期曝露によるがん,その他の疾患リスク低減を目的にPFOA,PFOS,PFNA,PFHxS及びhexafluoropropylene oxide dimer acid(HFPO-DA; いわゆるGenX)に関する基準が導入された2)。さらに国際がん研究機関(IARC; International Agency for Research on Cancer)は2023/2025年にPFOAをGroup 1,PFOSをGroup 2Bに分類した3)。臨床対応では米国アカデミー(NASEM)のガイダンス4)が参照される一方で,ATSDRは臨床医向けの情報として「血中PFAS検査結果からは将来の健康問題に対する対策に関して情報は得られない(PFAS blood testing results do not provide information for treatment or predict future health problems.)」としており5),意見の一致を見ていない。本稿は,2020年以降に公表された体系的レビュー,メタ解析,及び主要原著論文を中心に,ヒト疫学研究のエビデンスを概観するナラティブレビューである。系統的レビューの手法(PICOS要素,PRISMA指針)に準拠するものではないが,主要アウトカム別にエビデンスの整合性と限界を整理し,政策・臨床的含意を明らかにすることを目的とした。
近年,特に2020年以降の疫学文献を中心に,体系的レビュー又はメタ解析を優先し,要所では代表的原著(高曝露集団研究,一般集団大規模研究,近年の前向き研究)をレビューした。文献検索はPubMed及びScopusを中心に2020–2025年の英文査読論文を対象とし,「PFAS」「epidemiology」「systematic review」「meta-analysis」を主要語とした。レビュー対象は脂質・肝・免疫・内分泌・生殖・発達・がん・神経系の主要アウトカムとした。Fig. 1に影響別に疫学エビデンスの強さをまとめた。

In this figure, the strength of the epidemiological evidence is defined as ‘strong (3)’ when multiple systematic reviews or meta-analysis support consistent results, ‘medium (2)’ when limited or heterogeneous epidemiological results exist, and ‘week (1)’ when limited studies available or results are inconsistent.
Costello E et al.による体系的レビュー,メタ解析では,ヒト観察研究で血清アラニントランスフェラーゼ(ALT)上昇とPFOA,PFOS,PFNAの用量反応的関連を示し,動物実験と整合してPFASの肝毒性を支持している6)。なお,同論文で引用された動物実験における曝露濃度は,ヒト血清中濃度(一般集団で数ng/mL,職業曝露者で数十ng/mL)と比較して3–4桁高い範囲(µg–mg/kg体重/日)であり,ヒト環境曝露域よりも高濃度で影響が確認されていることが報告されている。このため,ヒトにおけるALT上昇の臨床的意義については今後の検討が必要である。一方で,γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)はPFOAとのみ関連が見られたが,PFOSやPFNAでは関連が見られていない。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とはいずれのPFASも関連が見られていない。これらの臨床的意義は明らかにされていない。米国健康栄養調査(NHANES; National Health and Nutrition Examination Survey)横断研究において脂肪肝リスク上昇や肝機能悪化が報告されているが,アルコール多量飲酒,肥満,高脂肪食や慢性炎症などの既存リスク要因との切り分けや多重検定による偶発的発見の域を出ていないなどの課題がある7)。
2.2 脂質代謝横断・縦断研究を含むメタ解析では,PFOA,PFOSと総コレステロール・低比重リポタンパク質(LDL)の上昇が報告されるが,縦断データでは効果が小さくなる傾向がある8,9)。また,PFOAと中性脂肪(TG)の上昇との関連も報告されているが,他のPFASとTGには関連が見られていない8)。メタボリックシンドロームのレビューでは脂質項目で最も強い関連が確認されているが10),これらが臨床的にどのような病態を示すものであるかについては,明らかにされていない。
2.3 免疫機能(ワクチン抗体反応)免疫機能に関する報告は,主にワクチン抗体応答低下に関するものである。Faroes諸島出生コホートの縦断研究に加え11,12),メタ解析でも,特に破傷風,ジフテリア,麻疹,風しん等でワクチン抗体応答低下の関連が示されている13)。これらの反応は,抗体の種類に限らず一貫していた。成人でのSARS-CoV-2 RNAワクチン抗体に関する報告では,関連は見られていない14)。これらの知見を総合すると,PFAS曝露とワクチン抗体応答低下の関連については,複数のメタ解析により一貫した方向性が示されているものの,その効果の大きさや統計的有意性には研究間でばらつきが見られる13,15)。Crawford L et al.は破傷風・ジフテリア・麻疹・風しん抗体価の低下を支持する一方,Antoniou EE et al.は抗体応答と感染症罹患率との関連について一定の不均一性を指摘している。すなわち,免疫機能影響に関する疫学エビデンスは方向としては整合しているが,曝露評価法や抗体測定時期の違いなどに起因する異質性が残ることから,臨床的意義の確立にはさらなる前向き研究の蓄積が必要である。
2.4 循環・代謝疾患Schlezinger JJ et al.による総説では,高血圧,血圧上昇との関連は近年のレビュー・メタ解析で支持が増えているとしている16)。特に,PFOAと高血圧又は血圧上昇,高尿酸血症又は尿酸上昇,perfluoroundecanoic acid(PFUnA)及びPFOASとアテローム性動脈硬化症との関連については,強いエビデンス(60%以上の報告で正の関連が報告されている)があるとしている。個別メタ解析でも高血圧とPFOS,PFOA,PFHxSとの関連が示唆される17)。2型糖尿病についてはリスク上昇を示すメタ解析がある一方で,非単調(U字型)関係の可能性も指摘される18)。高尿酸血症又は尿酸上昇についてはPFOA等との関連がメタ解析で報告される19)。
2.5 腎臓PFASの腎臓への影響に関しては,推算糸球体濾過量(eGFR)低下や慢性腎疾患(CKD)との関連を示唆する研究と,方向が複雑または無関連とする研究が混在している。NHANESデータを用いた横断研究では,非線形や混合曝露の影響が解析されサブグループ(年齢,性別等)で差が出る可能性が指摘されているが,多重検定の補正がなされていない点や因果の逆転についての可能性が残されている点が課題である20)。
2.6 甲状腺機能と甲状腺ホルモンPFASは甲状腺ホルモン輸送蛋白への結合やクリアランス酵素の調節を介し内分泌かく乱作用を示し得る。動物実験においても,PFOAおよびPFOSの曝露によりTSH上昇およびFT4低下,脱ヨウ素酵素活性の変化などが報告されており,これらの機序がヒトでの甲状腺機能影響にも関与している可能性が示唆されている21,22)。最新の総説,系統的レビューでは妊婦及び小児で甲状腺刺激ホルモン(TSH)や遊離サイロキシン(FT4)への影響を示す一方,結果の不均一性が大きいことも指摘されている23)。
2.7 生殖・発生影響出生体重低下や胎児発育抑制については最新メタ解析関連で支持されている24)。母親のPFAS曝露のみとは関連が見られない一方,父親のPFAS曝露で調整すると関連が見られたとする多国間コホート研究報告がある25)。子癇前症(PE; preeclampsia),妊娠高血圧症(HDP; hypertensive disorders of pregnancy)とPFOA,PFOS,PFHxSとの関連に関するメタ解析では,PEとの関連は低又は中等度のエビデンスがある一方,PFOSとHDPとの関連に関してのエビデンスは低いと結論している26)。受胎能はPFAS濃度の四分位上昇ごとにfecundability(一定期間内に妊娠が成立する確率)の5–10%低下が報告される27)。男性生殖機能に関するメタ解析の結果からは,PFOA及びPFNAと精子運動能,濃度低下などの関連が指摘されるが,それぞれの原研究が適切な共変量で調整しておらずメタ解析に影響している点や設定した条件を満たしメタ解析の対象とした研究が7つしかなく結果の信頼性に課題がある点も同時に指摘されている28)。
2.8 精神神経系小児の認知,行動,言語発達への影響を示唆するレビューが増える一方で,アウトカム定義や測定時期の違いにより結果は不一致である29,30)。最近のメタ解析では,出生前PFAS曝露とADHD症状(注意欠如,多動性)の関連を示す報告31),およびASD傾向や言語発達遅延を示す報告29)がみられる。これらは一貫して中等度以下の確実性に留まるものの,神経発達経路への影響可能性を示唆している。
2.9 発がん性IARCはPFOAをGroup 1,PFOSをGroup 2Bと評価した3)。評価の根拠となった疫学研究では,血中PFOA濃度が中央値10–30 ng/mL程度の地域集団を対象としており,一般環境曝露レベルに近い濃度域でも腎細胞がんや精巣がんとの関連が検討されている。その結果,ヒトでは腎細胞がん・精巣がんについて限定的証拠,動物実験およびヒト機序証拠は強いとした。大規模前向き研究では腎がんとの関連は全体では弱いまたは不一致だが,特定サブグループでは正の関連が示唆される報告がある32,33)。発がんに関しての疫学研究は曝露評価のばらつきや交絡の影響が大きく,解釈に注意を要する。例えば,一般集団におけるPFOSの血中中央値は約 5–15 ng/mL,PFOAは 2–10 ng/mLの範囲で報告されており,単回採血と繰返し測定の差や,共曝露・栄養状態などの交絡要因によって結果の不一致が生じる可能性がある。
近年,疫学・毒性学的エビデンスの蓄積を背景に,各国・国際機関でリスク評価と基準値設定が進んでいる。本節では,ハザード特性評価(hazard characterization)を中心に,各機関の評価根拠と健康影響の取り扱いを整理した。併せて,指針値算定に用いられた主要アウトカム(抗体応答,肝酵素,出生体重など)の比較と,それらの臨床的・公衆衛生的含意を概説する。リスク評価においては,まずハザード(危害要因)の特性評価(hazard characterization)が行われ,次に曝露評価(exposure assessment)が実施され,最後に両者に基づきリスク評価(risk assessment)が行われる。ここでは各機関のハザードの特性評価について短くまとめた。食品安全委員会を除く各機関の評価はいずれも,疫学エビデンスの不均一性を認めつつも,低曝露域での免疫影響を重視して基準値を設定している点で共通している。特にEFSAおよびEPAはワクチン抗体応答の低下を主要エンドポイントとして採用しており,臨床的意義が完全に確立していない段階で予防的アプローチが取られている。この点で,臨床ガイダンス(NASEM, 2022やATSDR, 2024)との整合についても今後検討すべきであるといえる。
参考にTable 1 に近年の各国の水道水ガイドラインをまとめた。
EU, European Union; FSANZ, Food Standards Australia New Zealand; MCL, maximum contaminant level; PFAS, per- and polyperfluoroalkyl substance; PFHxS, perfluorohexane sulphonic acid; PFOA, perfluorooctanoic acid; PFOS, perfluorooctane sulphonic acid; US EPA, United States Environmental Protection Agency
日本の食品安全委員会では,2024年6月にPFOA,PFOS,PFHxSに関する評価結果を公表し,耐容一日摂取量(TDI; tolerable daily intake)として,PFOA及びPFOSについて 20 ng/kg体重/日と設定した34)。PFHxSについてはエビデンスが不足しており,評価しなかったとしている。PFOA及びPFOSと血清ALTと総コレステロールとの関連は認めるものの,これらの上昇が何らかの疾病の発症に関連していることが見いだされておらず,臨床的意義が不明であるため,評価には採用されていない。ワクチン接種後の抗体応答に関しては影響の可能性は認められる一方,その健康影響等の詳細が不明なため採用されなかった。出生体重や子宮内発育に関するエビデンスはあるものの限られており,これも採用されていない。発がんに関する疫学エビデンスは,IARCの結論と同じく,十分ではないとしている。
3.2 US EPA2024年に6つのPFASを対象とする第一種飲料水規制を発表した2)。その中でPFOAとPFOSについては発がん性が否定できないことから,非強制的目標値をゼロと設定している。その上で,水道水基準をPFOAとPFOSについては 4.0 ng/L,PFHxS,PFNA,HFPO-DAについては 10 ng/Lと設定し,PFHxS,PFNA,HFPO-DA及びperfluorobutane sulphonic acid(PFBS)の混合物については,それぞれの基準値とPFBS(2,000 ng/L)とを用いてハザード指数(HI; hazard index)を計算し,それを1より小さくすることとしている。PFHxSについては甲状腺への影響から 2 ng/kg体重/日,PFNAについては子宮内発育への影響から 3 ng/kg体重/日,HFPO-DAに関しては肝障害から 3 ng/kg体重/日,PFBSは甲状腺への影響から 300 ng/kg体重/日が参照値として用いられている。
3.3 EFSA小児のワクチン接種後の抗体応答低下を主な根拠として採用し,TWIを 4.4 ng/kg体重/週(PFOA,PFNA,PFHxS,PFOSの合計)とした1)。
3.4 Health Canada2024年にカナダ飲料水目標を公表し,25のPFASについてその合計値として 30 ng/Lを目標値として設定した35)。
これまでの疫学エビデンスとリスク評価を総合すると,多領域でメタ解析,大規模研究が蓄積し,脂質・肝・免疫では一貫性が比較的高い。限界として,残差交絡(食事,社会経済,共曝露),逆因果(横断研究),測定誤差(単回採血,短鎖PFAS,前駆体),混合曝露の評価手法,臨床意義の解釈等があげられる。今後の研究課題として,一般曝露域の前向き縦断研究や,混合・代替PFASに関する疫学研究,感受性時期,機序と因果推論の統合(Mendelian randomization,目標値の臨床転帰とのリンク)等に関する研究が求められる。今後はPICOSを明示した体系的レビューやPRISMA 2020に準拠した報告,GRADEによる確実性評価,混合曝露を考慮した階層的メタ解析など,透明性と再現性を高める方法論の導入が求められる。また,PROSPEROやOSF等への登録・データ共有を通じたオープンサイエンスの推進も重要である。