要約
PFASと呼ばれる化合物の範囲は定義の変更によりこの10~20年の間に大きく拡大している。その中には有害性が高いものもあれば,無視できるものもある。フッ素ポリマーも含めたPFASにはカーボンニュートラルの社会や高度情報通信社会の実現に不可欠なものも含まれている。また,有害性が無視できるような場合でも効果的な廃棄物処理技術やリサイクル技術が存在しないことはサプライチェーン構築の上で許容されなくなっている。本稿ではフッ素系イオン液体や二次電池用PFAS,さらにはポリマーであるPVDFやFEPのような「先端PFAS類」が,亜臨界水を用いることで効果的に無機化できること,一部の材料については得られたF-から原料である人工蛍石が得られることを示した。
Summary
This review presents effective methodologies for the mineralization of state-of-the-art industrial per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS). These include both non-polymeric compounds—such as fluorinated ionic liquids and fluorochemicals used as electrolytes in secondary batteries—and polymeric materials like polyvinylidene fluoride (PVDF), fluoroelastomers (FKMs), and tetrafluoroethylene-hexafluoropropylene copolymer (FEP). The discussed approaches employ subcritical water, with the ultimate goal of recovering fluorine from these substances.
1. はじめに―拡大するPFASの範囲―
有機フッ素化合物の一種であるPer- and polyfluoroalkyl substances(PFAS)の環境影響が懸念されていることは本特集号が発行される状況からも明らかである。2010年あるいはそれ以前,PFASは学術文献や経済協力開発機構(OECD)の報告書ではペルフルオロアルカンスルホン酸(現在ではPFSAと略記される)の陰イオンの部分(Perfluoroalkane sulfonate, CnF2n+1SO3–,ここでnは正の整数)の略称として用いられていたのであるが,2011年にBuckらのPerfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances in the Environment: Terminology, Classification, and Originsと題した論文1)が発行された頃から「有機フッ素化合物の中でもフッ素原子を沢山持ち,環境中で問題となっているもの」という意味で使われるようになった。OECDは2013年6月に報告書を発行したが2),そこでPFASは非ポリマー(Non-polymers)とポリマー(Polymers)に分類され,非ポリマーにはペルフルオロオクタン酸(PFOA)に代表されるペルフルオロカルボン酸類(PFCA類)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)に代表されるPFSA類があり,ポリマーにはフッ素ポリマーや,主鎖が炭化水素で側鎖がフッ素化されているポリマーがある。この頃からPFASと呼ばれるものは環境中で問題となっている(あるいは劣化してそういうものになる)かどうかを問わず拡大することになった。OECDは2018年にさらに報告書を発行し3),PFASとして–CnF2n–(n ≥ 3)または–CnF2nOCmF2m–(n, m ≥ 1)という構造で,4,730種類の化合物が存在すると指摘している。OECDは2021年7月に定義を変えた4)。新しい定義は一部の例外を除き,「ペルフルオロメチレン基(–CF2–)もしくはペルフルオロメチル基(CF3–)を一つでも持つ化合物」である。こうなると対象となる化合物は産業界での使用の有無を問わず7百万種あると言われている5)。さらに欧州化学品庁(ECHA)は2023年1月にこのOECDの定義で定められたPFASを製造,上市,さらには使用も期間を定めて禁止するという案を出し6),その評価が現在進行中である。今のEUの規制検討の状況は予防原則(precautionary principle)と必須な用途(essential use)のせめぎあいになっている。そこにEUにとって有利かどうかという政治的思惑が絡んでくるので厄介である。一方米国環境保護庁(EPA)も2021年にPFASの定義を発表している7)。その定義は,「R–(CF2)–C(F)(R1)R2,ここでCF2とC(F)部分の炭素原子は飽和しておりR,R1,R2は水素原子ではない」というユニットを持つ化合物で,こちらの方がOECDの定義よりは狭い。いずれにせよ今や非常に多くの化合物を指すようになったPFASには有害性が高いものもあれば,無視できるものもある。フッ素ポリマーも含めたPFASにはカーボンニュートラルの社会や高度情報通信社会の実現に不可欠なものも含まれており,十把一絡げではなく科学的根拠に基づいた規制の検討がなされるべきと考えている。
ポリマーであろうと非ポリマーであろうとPFASに共通して言えることに熱的,化学的に他の有機ハロゲン化合物と比べて非常に安定なことがある。もちろん有機化合物なのでこれらの廃棄物を焼却処分することは可能で,最新の焼却設備を用いれば完全分解は可能である。しかしながら完全分解には相当の高温(~1,000 ºC)を必要とする8)。さらにフッ化水素(HF)ガスが発生して焼却炉が劣化することが問題となっている。また,生体蓄積性や毒性が無視できるような場合でも効果的な廃棄物処理技術やリサイクル技術が存在しないことはサプライチェーン構築の上で許容されなくなっている。これらの廃棄物を穏和な条件でフッ化物イオン(F-)まで分解,すなわち無機化できれば,水酸化カルシウムと反応させて無害で天然にも存在するフッ化カルシウム(CaF2)に変換できる。CaF2の鉱物は蛍石で,全ての有機フッ素化合物の原料であるが,原料に適した蛍石の産出は特定国に偏在し,入手難の状況が続いている。このためEUも重要原材料(CRM: Critical Raw Materials)に指定して域内生産の増加を図っている9)。したがって廃棄物から高純度のフッ化カルシウム,すなわち人工蛍石を製造できればフッ素を元素として循環利用するので天然資源の節約にも貢献できる。以上の背景から著者らはPFCA類10,11,12),PFSA類13,14),PFOS/PFOA代替物質15,16,17,18,19,20),フッ素系イオン液体21,22,23,24),半導体リソグラフィー用の光酸発生剤25),二次電池用PFAS26),さらにはフッ素ポリマー,例えばフッ素系イオン交換膜27),ポリフッ化ビニリデン [–(CH2CF2)n–, PVDF]やフッ化ビニリデン(VDF)と他のモノマーとの共重合体28,29,30,31,32,33,34,35),テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロペン共重合体(–[(CF2CF2)n{CF2CF(CF3)}]p–, FEP)等について36),光化学反応,亜臨界水,超臨界水,超音波照射等を使った分解・リサイクル反応の開発に取り組んできた。以下では今なお産業上重要な先端PFAS類を対象に,近年我々が取り組んでいる亜臨界水を用いた無機化方法について解説したい。
2. 非ポリマーPFASの分解
2.1 フッ素系イオン液体
陰イオンと陽イオンからなる塩類は普通室温では固体である。ところが塩類なのに室温付近で液体のものがある。融点が100 ºC以下の物質はイオン液体と呼ばれ,このうち陰イオンのアルキル基の水素原子が全てフッ素原子に置換されたものがフッ素系イオン液体であり,さまざまなエネルギーデバイスに応用されている。我々はこれらの代表例である[C3mpip][N(SO2CF3)2]および[Me3PrN]-[N(SO2CF3)2](Fig. 1)について,過マンガン酸カリウム(KMnO4)を共存させた亜臨界水中で加熱すると,これらを構成するフッ素原子のみならず,硫黄原子や窒素原子まで事実上すべて無機化できることを見出した23)。Fig. 2 に[C3mpip][N(SO2CF3)2](16.5 μmol)を,KMnO4(1.58 mmol)と共に300 ºCで反応させた場合の生成物の物質量の反応時間依存性を示す。18時間後にF-の収率は94%(反応前の出発物質に含まれるフッ素原子の物質量を基準とした値),SO42-の収率は97%(反応前の出発物質に含まれる硫黄原子の物質量を基準とした値)に達した(Fig. 2a)。さらに全有機炭素量(TOC)測定により反応前の出発物質に含まれる炭素原子の97%以上が無機化したことが分かった。水中にはNO3-とNO2-がそれぞれ96%および 5%の収率(反応前の出発物質に含まれる窒素原子の物質量を基準とした値)で検出された(Fig. 2b)。その合計(101%)により窒素原子もすべて無機化したことが分かった。同じ条件で[Me3PrN]-[N(SO2CF3)2]を反応させた場合,F-およびSO42-の収率は98%,炭素原子の無機化率は96%以上,NO3- とNO2- の収率の合計は98%に達し,こちらもほとんど完全に無機化できた。

Fig. 1 Chemical structure of several non-polymeric PFAS used in this study
2.2 二次電池用PFAS
フッ素系イオン液体に類似した構造を持つものにリチウムビス(ペンタフルオロスルホニル)イミド(Li[N(SO2C2F5)2])がある(Fig. 1)。これは有機フッ素化合物に特有な耐熱性や化学的安定性に加えて,優れた電気特性,例えば高いイオン電導性,広い電位窓,高い繰り返し性,高い酸素安定性,高い耐腐食性(正極に用いられるアルミニウムの腐食防止)を持つ。このためリチウムイオン電池,リチウム空気電池,全固体リチウム電池,水溶性リチウムイオン電池などの電解質成分として利用されてきた。この物質も KMnO4を共存させた亜臨界水中で反応させると,構成するフッ素原子,硫黄原子および窒素原子をすべて無機化できる26)。Li[N(SO2C2F5)2](14.8 μmol)を,KMnO4(1.58 mmol)と共に300 ºCで反応させた場合,18時間でF‒を101%,SO42‒を99%,NO3‒とNO2‒をそれぞれ91%,10%の収率(合計101%)で得られた。同様にしてペルフルオロアルキル基が長いK[N(SO2C4F9)2N]やリング状の類似化合物K[N(SO2CF2)2CF2](Fig. 1)も完全に無機化できた。
3. ポリマーPFASの分解
3.1 PVDFおよび関連物質
PVDFは溶融成形できるフッ素ポリマーとして配管・バルブ類やケミカルタンク,さらにリチウムイオン電池の正極バインダーとして用いられている。我々はPVDFをアルカリ試薬と共に亜臨界水中で加熱すると,PVDF中のフッ素原子をほとんど全てF-として水中に溶出できることを見出した34)。Fig. 3 にPVDFを水酸化カリウム(KOH)の水溶液と共に,250 ºCで6時間反応させた場合に,水中に発生したF-およびTOCの物質量と,KOHの濃度との関係を示す。KOHを添加するとF-の物質量は明白に増加し,1.0 Mでその収率は95%に達した(Fig. 3a)。TOCの物質量もKOH濃度の増加と共に上昇し(Fig. 3b),KOH濃度が 1.0 Mの場合,その物質量は反応前のPVDF中の炭素原子の物質量の15%となった。この条件ではF-の収率は95%なのでこのTOCの基となっている有機化合物はフッ素原子をほとんど含まない。そこでこの水相をイオンクロマトグラフィーで分析したところ,シュウ酸イオンが含まれていることが分かった。また,気相中にCO2 はほとんど発生せず,代わりに固体の残渣が発生した。この主成分は元素分析とラマン分光分析によりアモルファスカーボンであることが分かった。この方法でVDF・ヘキサフルオロプロペン(HFP)共重合体やエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)も完全に無機化できた。さらに得られたF-にCa(OH)2を反応させてX線回折的に純粋な人工蛍石を得ることもできた。
3.2 フッ素ゴム
燃料ホースやパッキン,Oリング等に使用されるフッ素ゴム(エラストマー)にFKMがある。FKMはASTM(American Society for Testing and Materials)規格で定められたフッ素ゴムの名前で,FはFluoro,Kはドイツ語の炭素Kohlenstoff,MはASTMにおける飽和骨格ゴムの呼び名に由来する。FKMはVDF・HFP共重合体においてHFPの含有率が20%程度のもので,その共重合体がそのまま販売されることもあれば,架橋されてさらにフィラー(充填剤)を加えて販売される場合もある。我々は架橋されてないもの(FKM非架橋体)と,架橋され,さらにフィラーとしてカーボンブラックを含む試料(FKM架橋体)について実験した。その結果,0.2 Mという低濃度のKOHを用いて200 ºCという亜臨界水としてはかなりの低温で,FKM非架橋体,FKM架橋体共にフッ素原子を完全に無機化できることを明らかにした35)。さらに反応で得られたF-からX線回折的に純粋な人工蛍石を得ることにも成功した(Fig. 4)。
3.3 FEP
FEPは炭素原子とフッ素原子のみから構成されるフッ素ポリマーである。当然非常に安定で,化学工場における配管やタンク類のライニング,電線被覆,宇宙線が降り注ぐような航空宇宙関係の材料として使用されている。このように安定なポリマーもアルカリ試薬を使った亜臨界水反応で無機化できる36)。Fig. 5 に350 ºCにおいてさまざまなKOHの初期濃度で6時間反応させた場合に水中に発生したF‒およびTOCの物質量を示す。KOHを添加しない場合,FEPはほとんど反応しなかった。KOHの濃度を増加させるとF‒およびTOCの物質量は明白に増加した。3.0 MのKOHを用いてさらに温度を360 ºCまで高めると反応性はさらに増加し,18時間でF‒収率は98%に達した。この場合,気相中にCO2 はほとんど発生せず,代わりに固体残渣が発生した。完全に無機化していない段階で残っている固体をラマン分光測定した結果,未反応のFEPとアモルファスカーボンの混合物であった。また,反応途中の反応溶液の 19F-NMR測定並びに燃焼イオンクロマトグラフィーによる総フッ素量を定量した結果,反応液中には有機フッ素化合物が存在しなかった。つまり,この反応はFEPがF‒を水中に放出しながらアモルファスカーボンが発生し,やがてアモルファスカーボンも消失するという機構で完結することが分かった。
4. おわりに
以上,PFASと呼ばれる化合物の範囲が,その定義が変わってきたことで拡大していること,それを踏まえて著者らが近年行っている先端PFAS類の分解・リサイクル方法について記述した。炭素原子とフッ素原子のみから構成されるフッ素ポリマーは,官能基を持つ非ポリマーPFASや,ポリマーPFASでもPVDFのような炭素・水素結合を持つものと比べると無機化が難しい。また,非ポリマーPFASでも意外なことに低分子量になるほど無機化が難しい場合がある。できるだけ危険な試薬を使わずに低エネルギーで完全に無機化できること,反応後の人工蛍石の合成プロセスを妨害するような成分が残存しないことが求められている。
いずれにせよPFASの長所を今後も享受するためには環境負荷を低減することはもちろん,天然資源を節約するためにも分解・リサイクル技術の開発が必要で,この課題に多くの方々が取り組むことを願っている。
謝辞
本研究は科学技術振興機構(JST)-CREST(JPMJCR21L1)の支援を受けて行われた。関係各位に感謝する。
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