環境化学
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総説
水道水中PFASの規制と検査方法の現状と課題
小林 憲弘
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2026 年 36 巻 Special_Issue 号 p. s79-s89

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要約

日本の水道水質管理において,PFASのうちPFOSおよびPFOAの2物質は,2020年に水質管理上留意すべき「水質管理目標設定項目」に位置付けられ,これらの合算値として 50 ng/Lの暫定目標値が設定された。これら2物質は2026年4月には検査義務が課される「水質基準項目」に格上げされることが決定しており,50 ng/Lの暫定目標値は基準値となる。PFHxSは2021年に毒性評価が定まらず水道水中での検出実態が明らかでないことから情報・知見を収集する「要検討項目」に位置付けられたが,その目標値はまだ設定されていない。また,2025年6月にはPFHxS以外に7種のPFASが要検討項目として新たに追加された。現在,水道水中PFASの標準検査方法(通知法)は,PFOS,PFOA,PFHxSの3物質を対象として,「水質管理目標設定項目の検査方法」(通知法)として環境省から示されているが,PFOSおよびPFOAの水道水質基準への格上げに伴い,検査方法は「水質基準に関する省令の規定に基づき環境大臣が定める方法」(告示法)として設定されることから,検査方法の見直しについて議論されている。本稿では,日本の水道水質管理におけるPFOS・PFOAを含むPFASの規制と検査方法の動向と課題について解説した。

Summary

Perfluorooctanesulfonic acid (PFOS) and perfluorooctanoic acid (PFOA) were designated as “complementary items” in Japan’s drinking water quality management in 2020. A provisional target value of 50 ng/L was set for the combined value of these two substances. Perfluorohexanesulfonic acid (PFHxS) was classified as a “items for further study” in 2021 due to the lack of established toxicity assessments and unclear detection status in tap water, and no target value has been set for it yet. Currently, it has been decided that PFOS and PFOA in tap water will be upgraded to “water quality standards” subject to mandatory testing in April 2026. Further, seven PFASs other than PFHxS have been newly added to the items for further study. The standard analytical method for PFAS in drinking water (the notification method) is notified by the Ministry of the Environment, targeting PFOS, PFOA, and PFHxS. However, with the re-elevation of PFOS and PFOA to the water quality standards, the testing method are currently underway revisions. This review paper explains the trends and challenges in the regulation and testing methods for PFAS in Japan’s drinking water quality management.

1. はじめに

ペルフルオロ・ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)とは,有機フッ素化合物のうちアルキル鎖に複数のフッ素原子が結合した物質の総称であり,代表的なものとして,ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS),ペルフルオロオクタン酸(PFOA)等が知られている。構造によって物性が大きく異なり,撥水・撥油性,熱・化学的安定性等に優れた性質を示すことから,幅広い用途に用いられてきた。環境中でほとんど分解されず,2000年代初めに野生動物,ヒト,環境中に広範囲に存在していることが報告されている1,2。健康影響に関しては限定的な証拠しかないが,予防原則に基づき残留性有機汚染物質(POPs)に関する国際条約(POPs条約)では,PFOS,PFOAおよびペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)の製造,使用,輸出入が制限または禁止されている3。PFOS・PFOAを含むPFASのヒトに対する暴露は様々な媒体を介して起こるが,飲料水汚染が発生している地域では飲料水が主要な暴露経路であるとの報告が複数ある4

日本の水道水質管理において,PFOSおよびPFOAの2物質は,2020年に水質管理上留意すべき「水質管理目標設定項目」に位置付けられ,これらの合算値として 0.00005 mg/L(50 ng/L)の暫定目標値が設定された5,6。これら2物質は2026年4月には検査義務が課される「水質基準項目」に格上げされることが決定しており,50 ng/Lの暫定目標値は基準値となる7。また,公共用水域や地下水においてこれら2物質は「要監視項目」として上記と同じ暫定指針値が設定され8,9,2025年6月には暫定指針値は指針値となった10。PFHxSは2021年に毒性評価が定まらず水道水中での検出実態が明らかでないことから情報・知見を収集する「要検討項目」に位置付けられたが,その目標値はまだ設定されていない6。また,2025年6月にはPFHxS以外に7種のPFASが要検討項目として新たに追加された7

水道水中PFASの標準検査方法は,上記3物質を対象として,「水質管理目標設定項目の検査方法」(以下,通知法)の中に「目標31」として環境省から示されているが11,PFOSおよびPFOAの水道水質基準項目への格上げに伴い,検査方法は「水質基準に関する省令の規定に基づき環境大臣が定める方法」(以下,告示法)12として設定されることから,現在,検査方法の見直しについて議論されている13

本稿では,日本の水道水質管理におけるPFOS・PFOAを含むPFASの規制と検査方法の動向と課題について解説する。

2. 水道水中PFASの規制の現状と課題

2.1 PFOSおよびPFOA

日本における水道水中PFOSおよびPFOAの扱いについては,厚生労働省(当時)によって2009年に要検討項目に位置付けられ,2020年には水質管理目標設定項目に格上げとなりPFOS・PFOAの合算値として暫定目標値 50 ng/Lが設定された。その後,2024年に内閣府食品安全委員会が評価書14を公表したこと等を踏まえ,水道水中PFOSおよびPFOAの分類および暫定目標値の見直しが検討された。

分類見直しの検討に当たって用いられた水道統計による報告値と国土交通省・環境省が実施した検出実態調査の結果は,水質基準項目への分類見直しの要件(最近3ヶ年継続で暫定目標値の50%(25 ng/L)超過地点が1地点以上存在又は最近5ヶ年の間に暫定目標値(50 ng/L)超過地点が1地点以上存在)を満たしていた。また,浄水場においては活性炭処理によってPFOS・PFOA濃度を低減することが技術的に可能であることから,これらを踏まえ,水道水質基準への格上げが適当とされた15

また,基準値の検討に関しては,内閣府食品安全委員会の評価書の中で示されている食品健康影響の指標値は,耐容一日摂取量(TDI)としてPFOS・PFOAそれぞれ 20 ng/kg/dayであり14,これは2020年にPFOS・PFOAの厚生労働省が暫定目標値を設定した際に用いた値と同じある。

このTDIと,日本の水道水質基準値等の設定で通常用いられている体重 50 kg,一日当たりの飲水量 2 L,水道水からの寄与による割当率10%を用いると,以下の計算式から 50 ng/Lの基準値が算出される。

  
基準値=TDI[ng/kg/day]×体重[kg]/一日当たり摂取量[L/day]×水道水の割当率[%] =20 ng/kg/day×50 kg/2 L×10% =50 ng/L

なお,内閣府食品安全委員会の評価書に示されたTDIはPFOS・PFOAそれぞれについての値であるため,計算上はPFOS・PFOAの基準値はそれぞれ 50 ng/Lとなるが,現在の暫定目標値はPFOSおよびPFOAの合算値としていること,評価書ではPFOS・PFOAともに生殖発生への影響をエンドポイントとしていること,これら2物質は同時に環境中から検出されることがあることを踏まえ,これまで同様にPFOSおよびPFOAを合算して評価すること(合算値として 50 ng/Lの基準値)が適当であるとされた15

2024年度の実態調査の結果は,水道事業および水道用水供給事業では 50 ng/Lを超過した地点はないものの一部の専用水道で超過があったこと,これまでに検査を実施していない事業者等もあることから,水道水質基準への格上げ後は対応が必要となる可能性がある。また,検査の義務化に伴い検査頻度が増大するため,登録水質検査機関等は検査の実施に向けた体制を整備する必要がある。

PFOSおよびPFOAは長期的な健康影響をもとに基準値が設定されているため,水質基準超過の際の水道事業者等の対応としては「水質異常時における摂取制限を伴う給水継続の考え方について」16に基づき利用者に対して水道水の摂取を控えるよう広報しつつ給水を継続するという対応も考えられる。基準超過の際の対応に関しては,今後,更なる議論が必要である。

なお,PFOSおよびPFOAについては,食品安全委員会の評価書14の中でも「評価に使用できる情報が現時点では不十分であり,今後の知見の集積により新たに検討が必要となる可能性はあり得る」と記載されていることから,引き続き国内外における毒性評価や目標値等の今後の検討状況等について注視するとともに,新たな知見が得られた場合には必要に応じて見直しを検討する必要がある。

2.2 その他のPFAS

PFOS・PFOA以外のPFASに関する国際的な規制動向としては,POPs条約規制対象物質の検討を行う残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)において,長鎖(炭素数9~21)ペルフルオロカルボン酸類(PFCAs)とその塩および関連物質について,同条約の附属書A(廃絶)への追加勧告が決定している17。また,WHO飲料水水質ガイドライン作成のための背景文書のパブリックレビュー版では,PFOS・PFOAを含む30種のPFAS(PFOA,PFOS,PFBA,PFPeA,PFHxA,PFBS,PFHpA,6:2FTS,PFHxS,PFNA,PFHpS,PFDA,PFUnDA,PFDoDA,PFOSA,PFDS,PFPeSおよび,HFPO-DA(GenX)等)が,現在の利用可能な方法で測定できると記載されている18

一方,日本国内における水道原水・水道水中PFASの検出状況としては,国立医薬品食品衛生研究所において,現段階で標準品が入手可能なPFAS80種の一斉分析法を検討し,全国の河川水,水道原水,水道水等に含まれるこれらPFASの検出実態調査を行った結果,水道原水試料から,PFOSおよびPFOAの暫定目標値の1/10である5 ng/Lを超える濃度での検出があった物質は,13物質(PFBS,PFHxS,PFOS,PFBA,PFPeA,PFHxA,PFHpA,PFOA,PFNA,PFBSA,PFHxSA,PFHxPAおよびPFOPA)であった。浄水試料からは上記のうちPFOPAを除く12物質が 5 ng/Lを超える濃度での検出が見られた19。GenXについては,5 ng/Lを超える濃度では検出されなかったが,水道原水試料からは最大 4.6 ng/L(2地点),浄水試料からは最大 3.0 ng/Lで検出されている。

以上を踏まえて,2025年6月に8物質(PFBS,PFHxS,PFBA,PFPeA,PFHxA,PFHpA,PFNA,GenX)を要検討項目に位置付け,国際的な動向,水道水や水道原水の検出状況,リスク管理の方策等に関する知見を収集することとされた20

3. 水道水中PFASの検査方法の現状と課題

前述したように,現在の水道水中PFASの標準検査方法は,PFOS,PFOA,PFHxSの3物質を対象として,環境省から通知法が示されているが11,PFOSおよびPFOAの水道水質基準への格上げに伴い,その検査方法を告示法12として設定するための議論が行われている13。通知法では,分析対象物質に対応する内部標準物質を検水に添加した後,固相抽出により精製・濃縮して試験溶液とし,液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)あるいは液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いて,選択イオン検出(SIM)または選択反応モニタリング(SRM)で分析する。現在の通知法は,国際標準化機構(ISO)21,22および米国環境保護庁(U.S. EPA)23,24等の検査方法を参考に,国内の16機関によるバリデーション試験25を経て設定されたものである。なお,開発した分析法を水道水質検査の告示法として採用するために必要なバリデーション試験の機関数については日本では規定がないが,分析データが国際的に活用されるためには一定機関数以上のバリデーション試験により妥当性が評価されていることが必要となる。例えば食品の国際規格(Codex規格)の検査において使用できる分析法とするためには,定量分析の場合は外れ値を除いた有効な分析値が8機関以上必要とされている26,27

以下では,通知法の概要と課題について解説する。

3.1 対象物質

通知法で対象としているPFASは,PFOS,PFOA,PFHxSの3物質のみであるが,通知法の設定に当たって実施されたバリデーション試験25で対象としたPFASは,炭素数が4~10および12のペルフルオロスルホン酸類(PFSAs)8種と,炭素数が4~14,16および18のペルフルオロカルボン酸類(PFCAs)13種の合計21種である(Table 1)。したがって,PFOS,PFOA,PFHxSの3物質以外に要検討項目への追加が提案されているPFAS7種のうち,GenXを除く6物質(PFBS,PFBA,PFPeA,PFHxA,PFHpA,PFNA)については,通知法により良好な分析精度が得られることが検証されている。

Table 1 PFAS analytical targets

Modified from Kobayashi et al. (2022)25

3.2 標準品・試薬・溶媒

PFOS,PFOA,PFHxSおよび他のPFSAs,PFCAsには直鎖体の他に複数の分岐異性体が存在し,環境試料や水道水試料から検出されることがある。現状では,分岐異性体の濃度が正確に値付けられた標準品は入手が困難であるため,分析に用いる標準品あるいは市販標準液は,分岐異性体が含まれる標準物質・標準液を用いてもよいが,直鎖体を主成分とし,直鎖体の濃度が値づけられたものを用いる必要がある28。標準品は塩(例えばPFOSナトリウム塩)としての濃度が記載された市販品を使用しても問題ないが,水道水質検査における分析値はいずれも酸(例えばPFOSであればC8HF17O3S)としての濃度を求めて報告値とする必要があるため,用いる標準品によっては濃度換算が必要になる。

また,内部標準物質として,13C安定同位体のラベル化されたもの(例えば 13C-PFOS,13C-PFOA)を用いる。13Cの炭素数が異なる複数の種類の市販品が販売されているが,直鎖体を主成分とする標準品であれば,13Cの炭素数や分子内の位置によらず,基本的にはどのようなものでも使用できる28。なお,一般的に入手可能な 13Cラベル化体の標準品としては,13C-PFOS,13C-PFOA,13C-PFHxSとしては,13C4-PFOS,13C8-PFOS,13C2-PFOA,13C4-PFOA,13C8-PFOA,13C3-PFHxS,13C6-PFHxS等がある。これらの内部標準物質は,固相抽出による前処理を行う前に添加し,測定対象物質の前処理操作の回収率補正(いわゆるサロゲート)として使用される。

PFOS,PFOAおよびPFHxSは難分解性だが,保存容器の開閉を繰り返すとメタノールが徐々に揮発して濃度が変化する可能性があるため,標準液および内部標準液の保存容器や繰り返し使用には注意する。

試験に用いる試薬や精製水,メタノール,アセトニトリル等の溶媒は,測定対象成分を含まないものを用いる。市販のPFOS・PFOA分析用精製水を用いてもよい。特に,移動相に用いる精製水や溶媒からのブランクの検出に注意し,後述する空試験(ブランク確認試験)において分析結果に影響がないことを確認する。

3.3 採水

試料は,精製水およびアセトンで洗浄したガラスまたはポリプロピレン容器に採取する。フッ素樹脂,フッ素樹脂ポリマーコーティングのボトルキャップは使用しない。アセトンが使用できないポリプロピレン製ボトルの場合はメタノールで洗浄し,乾燥させてから使用する。なお,ISO 2167522やU.S. EPA Method 163329ではポリプロピレン容器に加えて高密度ポリエチレン(HDPE)容器の使用が規定されている。

これらの容器に満水にして採水後,直ちに密栓し,速やかに試験する。前述の通りPFOS,PFOA,PFHxS等の多くのPFASは難分解性であるが,採水容器への吸着等の影響を極力防ぐため,試料採取後,速やかに試験することが望ましい。速やかに試験できない場合は試験日まで試料を冷蔵保存しておく。

なお,水道水の検査においては,採水時に残留塩素除去剤(例えばアスコルビン酸ナトリウム)を添加して検査を行うことがある。水道水中の残留塩素により分析中にPFOS,PFOAおよびPFHxSが分解することはないため,採水時に残留塩素を除去する必要はないが,アスコルビン酸ナトリウム等で残留塩素を除去した検水を検査に用いても問題はない28

3.4 前処理

通知法に記載されている試料の前処理方法は,検水 500 mLに内部標準物質を添加後,固相抽出により1,000倍濃縮し,LC-MSあるいはLC-MS/MS分析に供する試験溶液とする(Fig. 1)。

Fig. 1 Flowchart of the pretreatment method for PFAS

Modified from Kobayashi et al. (2022)25

前処理操作の手順は下記の通りである。

(1)混合内部標準液(0.1 mg/L)50 μLを加えて撹拌した検水 500 mLを毎分 5 mLの流量で固相カラムに流す(陰イオン交換カラムを用いる場合,通水速度が ~5 mL/minと一般的な逆相カラムの 10~20 mL/minと比べて遅いため通水に時間が掛かることに留意する)。

固相カラムは予め0.1%アンモニア・メタノール溶液 4 mL,メタノール 4 mL,精製水 4 mLを順次注入してカラムのコンディショニングを行ったものを用いる(アンモニア水の取り扱いには十分に注意する)。

(2)精製水約 5 mLで固相カラムを洗浄した後,窒素ガスを通気して固相カラムを乾燥させる。

(3)固相カラムの通水方向とは逆から0.1%アンモニア・メタノール 5 mLを緩やかに流し,溶出液を試験管に採る。

(4)試験管の溶出液に窒素ガスを緩やかに吹き付けて 0.5 mLまで濃縮し,これを試験溶液とする。

固相カラムは,陰イオン交換基を被覆したシリカゲル若しくはポリマー系充塡剤を充塡したもの(例えば,Oasis WAX,InertSep MA-2 等の名称で市販されている)またはこれと同等以上の性能を有するものを用いる。通知法のバリデーション試験に参加した16機関のうち,14機関はミックスモード固相のOasis WAX Plus Short Cartridge(225 mg,ウォーターズ)を使用し,残り2機関は陰イオン交換カラムのInertSep mini MA-2 カラム(280 mg,ジーエルサイエンス)を用い,いずれも良好な回収率が得られている25

前述のように,内部標準物質の使用により前処理操作全体でのロスを補正することができるが,内部標準物質そのものの回収率が低いと(目安として50%以下),回収率補正の精度が悪くなり良好な真度が得られない場合がある。特に,長鎖PFSAsおよびPFCAsは疎水性・吸着性が高いため,試料容器に吸着し,回収率が低下しやすい25,30。そのような場合は,試料容器の内面をメタノールと精製水の混合液で洗浄し,洗浄液を固相カラムに通水することで,回収率を向上させることができる。上述のバリデーション試験では,4機関がこの方法を実施し,実施しなかった機関と比べて良好な回収率が得られている25。環境省から通知されている公共用水域および地下水を対象としたPFOS・PFOAの測定方法31には,試料容器を精製水 10 mLで洗浄し,洗液も固相に通水する方法が記載されている。

なお,使用する装置の性能によっては固相抽出を行わずに,LC-MSに直接注入して分析することもできるが28,濃縮を行わないため低濃度での分析が必要になるだけでなく,試料に含まれる妨害物を除去しないため,妨害ピークの出現やピーク分離にも注意を払う必要がある。また,用いる試薬・溶媒等に含まれているブランクや器具・装置からの溶出による影響を受けやすくなるため,ブランクの確認や後述するリテンションギャップカラム(Delayカラム)の使用によるブランクの影響の低減等が必要になる。なお,直接注入を行う場合,「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」32に従い,室内精度も含めた検査方法の妥当性を評価した上で試験を行う必要がある。

3.5 LC-MS(/MS)分析

上記の前処理操作で得られた試験溶液の一定量をLC-MSあるいはLC-MS/MSに注入する。LC-MS(/MS)の分析条件例をTable 2 に示す。また,Table 2 のLC-MS/MS分析条件で測定した場合の各PFASおよび 13C-PFASの保持時間とモニターイオンの例をTable 3 に,クロマトグラグラムの例をFig. 2 に示す。LCカラムはTable 2 に記載したもの以外にも,一般的なODSカラム(例えばACQUITY UPLC BEH C18,Inertsil ODS-3,ZORBAX Eclipse XDB-C18,L-column ODS等)が使用できる。通知法のバリデーション試験においても,多様なメーカーのLCカラムが使用されたが,16機関全てODSカラム(C18カラム)を使用した。LCの移動相は,15機関が 10 mM水溶液酢酸アンモニウムとアセトニトリルの移動相のグラジエントを使用したが,1機関はメタノールを用い,いずれも各測定対象物質のピーク形状やピーク分離は良好であった25。なお,LC-MSあるいはLC-MS/MSへの試料注入量に関しては通知法に規定がないが,過大な注入量を設定しないように留意する。通知法の前処理方法に従うと試験溶液はメタノールとなるため,試料注入量が多いとカラムに保持しにくい化合物(特に短鎖PFSAsやPFCAs)がカラム内で保持されずにピーク形状が悪くなる(広がる)ことがある。例えば,2.0×150 mmのカラムを用いた場合は,10 μL以下の注入量が目安となる31

Table 2 An example of LC-MS/MS analytical conditions for PFAS

Modified from National Institute of Health Sciences (2021)28

Table 3 Retention times and monitored ions of each PFAS analyte and 13C-PFAS

*Internal standard

Modified from Kobayashi et al. (2022)25

Fig. 2 LC-MS/MS chromatogram of each PFAS analytes and 13C-PFAS

Modified from Kobayashi et al. (2022)25

移動相由来のブランクが検出される場合は,Delayカラムの使用を検討する。Delayカラムは,LCの注入口手前に接続する。移動相由来のブランク成分の溶出を遅らせ,試料中のピークと移動相由来のブランクのピークをずらすことで,ブランクの影響を低減させることができる。Table 2 に示したものの他にも,InfinityLab PFC Delay Column(アジレント)等が知られている。通常のLCカラムをDelayカラムとして用いることもできる。通知法のバリデーション試験では,16機関のうち7機関がDelayカラムを使用し,そのうち6機関は通常のLCカラムを用いた25

全ての分析対象PFASのプリカーサイオンは水素脱離[M-H]イオンであり,幾つかのPFASは複数のプロダクトイオンが生成する(Table 3)。PFSAsは全ての物質に共通して,m/z=80(SO3)および99(F+SO3)のイオンの強度が高い。PFCAsは最も高い強度を示す生成イオンが分析対象物質によって異なり,例えばPFOAでは炭素骨格のm/z=369(C7F15)あるいは炭素鎖の断片であるm/z=169(C3F7),219(C4F9)等のイオンの強度が高い。

3.6 データ解析

それぞれの対象物質と内部標準物質のピークの保持時間が標準物質と一致することを確認し,ピーク面積を求める。LC-MSを用いてSIMで分析する場合は,Table 3 のプリカーサイオンをモニターイオンとする。次に,各対象物質のピーク面積と,対応する内部標準物質のピーク面積との比を求め,同一日に分析した標準試料のピーク面積比を基に作成した検量線を用いて,試験溶液中の各対象物質の濃度を求める。これを,前処理の濃縮倍率(通知法では1,000倍)で割り,検水中の濃度に換算する。

試料から分岐異性体のピークが見られる場合(Fig. 3)は,分岐異性体のピーク面積も含めて濃度を算出する。モニターイオンによって直鎖体と分岐異性体のピーク面積の割合が異なることが知られているため33,通知法では直鎖体と分岐異性体のピーク面積を合わせて濃度を算出した際に十分な強度が得られ,なおかつ分岐異性体のピーク面積割合が高いプロダクトイオンを定量イオンとして示している。

Fig. 3 Chromatograms of linear and branch isomers of PFOS, PFOA, and PFHxS

Modified from National Institute of Health Sciences (2021)28

標準物質および内部標準物質は直鎖体の濃度が明確なものを用い,分岐異性体のピークが見られる場合でも,直鎖体のピーク面積のみを用いて検量線を作成する28。また,PFOSおよびPFOAどちらかが定量下限未満であった場合は,定量下限未満の物質の濃度は0として濃度を合計する。前述のようにPFOS,PFOAおよびPFHxSはいずれも酸(C8HF17SO3,C8HF15O2およびC6HF13SO3)としての濃度を求めて報告値とする11

PFOSおよびPFOAの定量下限は,PFOSおよびPFOAそれぞれについて,暫定目標値(2026年4月以降は基準値)の1/10に相当する 5 ng/Lまで測定できることを確認する必要がある。PFHxSについては目標値が設定されていないが,PFOSおよびPFOAと一斉分析が可能であり,これら2物質と同等の感度が得られることから,PFOSおよびPFOAと同濃度まで測定できることを確認することが望ましい。Fig. 1 の前処理方法に従い1,000倍濃縮した試料を測定すれば,標準的な性能のLC-MS/MSでは検水中の濃度として 1 ng/L(前処理後の試験溶液中の濃度として 1 μg/L)までは測定が可能である25。固相抽出を行わずに,LC-MS/MSに直接注入して分析する場合は,固相抽出を行う場合と同様に,PFOSおよびPFOAについてはそれぞれ 5 ng/Lまで測定できることを確認する必要がある28

3.7 空試験

PFOS,PFOAおよびPFHxSの通知法には,「空試験」の実施が規定されている11。「空試験」とは,精製水を用いた操作ブランクの確認試験を指しており,用いる試薬,器具,装置等から分析対象物質が検出されないか,検出されても分析結果に影響がないことを確認するためのものである。具体的には,精製水 500 mLを採り,試料と同様に操作して試験溶液中の対象物質の濃度を求め,それらが検量線の濃度範囲の下限値を下回ることを確認する。求めた濃度が検量線の濃度範囲の下限値以上の場合は,是正処置を講じた上で再度,試験を行う必要がある。PFASは実験環境からのコンタミにより試験操作中に試料に混入する可能性が高い物質であるため,空試験は分析の都度行い,分析結果に影響を及ぼさないことを確認する必要がある。

3.8 分析上の留意点

全ての操作において,標準液および試料と触れる部分にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が使用されている容器等を用いないことが原則である11。試験操作中に容器等から測定対象PFASが溶出し,標準液および試料に混入する可能性がある。また,固相抽出装置やLC-MSのチューブ,バルブ,デガッサ等にもPTFEが使われている場合がある。この場合も可能な限り部品を交換し,交換が不可能な場合には事前に空試験を行い,使用する器具や装置が検査結果に影響を及ぼさないことを十分に確認する必要がある28

なお,要検討項目に追加されたPFBAを対象とする場合,移動相のグラジエント条件によっては妨害ピークとの分離ができずに誤同定する恐れがある。通知法のバリデーション試験においては,添加した水道水からPFBAが最大 13 ng/L検出された機関があったが,妨害ピークを誤同定していた可能性がある。PFBAは十分な強度が得られるモニターイオンが1つ(m/z 213>169)しかないため,妨害ピークの判定が困難である。そのような場合,移動相の種類やグラジエント条件を見直すことで,PFBAのピークと妨害ピークを分離できる(Fig. 4)。

Fig. 4 Comparison of PFBA peaks under different gradient conditions

その他の分析上の留意点については,「PFOS及びPFOA固相抽出-液体クロマトグラフ-質量分析法質疑応答集(Q&A)」28に分析上の留意点が記載されており,Q&Aは随時,追加・更新されている。

3.9 妥当性評価

水道水質検査機関が告示法や通知法による検査を行う場合,検査機関毎に試験環境や分析機器が異なることから,各検査機関が自らの標準作業書(SOP)に示す検査方法の妥当性について評価する必要がある。その際,「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」32に記載された方法を参考として,検量線と添加試料の両方について評価を行う。

検量線の評価は,キャリーオーバー,真度および精度の目標を満たすことを確認する。キャリーオーバーは,最高濃度の標準試料の測定後に測定したブランク試料中の検査対象物の濃度が,検量線の濃度範囲の下限値を下回ることを確認する。なお,通知法のバリデーション試験では,一部の機関で幾つかのPFASのキャリーオーバーが確認されたものの,分析結果に影響を及ぼすレベルでは検出されていない25。真度は,標準試料を繰り返し測定し,各濃度の標準試料を検量線により定量した濃度の平均値が,いずれの濃度点においても調製濃度の80~120%の範囲内にあることを確認する。精度は,標準試料を繰り返し測定し,各濃度の標準試料を検量線により定量した濃度の相対標準偏差(RSD)が,いずれの濃度点においても20%以下であることを確認する32

検量線の妥当性を確認することは,添加試料の真度と併行精度を正確に測定するために不可欠であり,試料の定量を行う前に,検量線の直線性を確認し,注入量を含むLC/MS/MS条件を最適化する必要がある。検量線の直線性が確保できる濃度範囲は,機器の性能と状態に依存する。通知法のバリデーション試験においては,1~50 μg/Lの濃度範囲において検量線の直線性を確認し,直線性が確保できない場合は,検量線の上限濃度を下げて再評価した。その結果,ほぼ全ての機関で,検量線は 1~50 μg/Lまたは 1~20 μg/Lの濃度範囲で検量線の妥当性が確認できている。また,全ての対象物質が 1 μg/Lの濃度で検出可能であった25

添加試料の評価は,原則として検査対象物を含まない水道水に標準液を添加し,選択性,真度および併行精度(必要に応じて室内精度)の目標を満たすことを確認する。選択性は,定量を妨害するピークがないか,妨害ピークを認める場合は,できるだけ検査対象物のピークと妨害ピークを分離できる測定条件を設定する。真度は,5個以上の添加試料を検査方法に従って試験し,得られた試験結果の平均値の添加濃度に対する比を求め,70~130%の範囲内であることを確認する。

「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」32において,添加試料の真度は,内部標準物質で補正した回収率であり,補正前の回収率や,内部標準物質自体の回収率には目標は設定されていない。U.S. EPA Method 53324では,各分析対象物の平均回収率として,最小報告濃度の2倍以内では50~150%,その他の濃度では70~130%,各 13C-PFASの平均回収率として50~200%の目標が示されている。通知法のバリデーションでは,長鎖PFSAsおよびPFCAsでは回収率が低下する傾向が見られたものの,全ての 13C-PFASの平均回収率は50%以上と,上記の基準を満たしていた25

併行精度は,添加試料を検査方法に従って複数回試験し,得られた試験結果の併行精度(RSD)が20%以下であることを確認する。室内精度は,添加試料を検査方法に従って複数の検査員又は検査日により複数回試験し,得られた試験結果の室内精度(RSD)が25%以下であることを確認する。いずれも,自由度が4以上となるように試験を行う。

なお,ガイドラインでは室間精度(試験所間のばらつきの程度)の目標は示されていないが,厚生労働省の「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」34では「理化学分析においては,一般に室内精度(RSD)<室間精度(RSD)であることが知られているため,推定された室間精度が室内精度の目標値を下回っていることが確認されれば,室内精度は目標値を下回ると判断してよい。」と記載されている。この考え方に基づき,室内精度の代わりに室間精度を評価して,目標を満たすかどうかを確認することもできる。

通知法のバリデーション試験では,内部標準物質による回収率補正後の各PFASの併行精度は,ガイドラインの目標値(≤ 20%)を満たしているものの,回収率補正を行わなかった場合の各PFASの併行精度には大きなばらつきが見られた。また,回収率補正後の各PFASの室間精度は,13Cラベル化体を添加しなかったPFDoDS,PFHxAおよびPFOcDAを除き室内精度の目標値を満たした。一方,13C-PFASによる回収率補正を行わなかった場合の各PFASの室間精度は,多くの機関で室内精度の目標を満たさなかった。したがって,分析対象PFASと類似した物性を持つ内部標準物質を用いて回収率補正を行うことが,良好な精度を得るためには必要と考えられる。

なお,妥当性評価において分岐異性体が含まれる市販標準液を使用する場合,添加試料のみ分岐異性体のピーク面積を合算して濃度を求めると,標準液に含まれる分岐異性体の濃度の分だけ真度が過大に評価されることから,検量線と添加試料の両方とも直鎖PFOSおよび直鎖PFOAのピークのみを評価対象とする。その他,妥当性評価の詳細については「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン質疑応答集(Q&A)」35に記載されている。

4. 今後の課題

これまで記載してきたように,水道水中PFOS,PFOAおよびPFHxSの検査方法は,環境省から通知法11が発出されているが,通知法には下記のように幾つかの課題がある。①標準液の調製を検査の都度行う(用時調製)が規定されているが,PFASの標準液は非常に高価であるため,用時調製には多大なコストが掛かる。②前処理操作において検水 500 mLを 0.5 mLまで1,000倍濃縮することが規定されているが,固相カラムの通水に時間が掛かる。また,濃縮倍率が高いため,試料によっては試料中のマトリックスが結晶として析出して分析に支障が出ることがある。③分岐異性体のピークが検出される場合,モニターイオンによって検査結果に差が生じる36,37

PFOS・PFOAは,2026年4月に水道水質基準への格上げが決定していることから,検査方法は告示法12として設定する必要がある。PFOS・PFOAの告示法を設定するにあたっては,上記の課題の対応策について検討する必要がある。

標準液の保存性に関しては,PFOS・PFOA標準液および内部標準液を用時調製ではなく,開封後,冷凍保存等したものを繰り返し使用が可能かどうか(濃度変化がないかどうか)を検証することが必要となる。前処理方法の改善(簡略化)に関しては,固相抽出の濃縮倍率,固相溶出方法,溶出溶媒液量,乾燥方法等を変更した場合の試験結果の妥当性を,複数機関によるバリデーション試験により評価することが必要となる。LC-MS/MS分析のモニターイオンに関しては,水道原水や水道水等の実態調査によって,実試料から検出される分岐異性体について情報を取得し,測定するモニターイオンの違いによる定量誤差を定量的に評価する必要がある。その上で,直鎖体の標準品を用いて定量する場合に最適なモニターイオンを設定することが求められる。

謝辞

本稿で紹介した著者らの研究の一部は,厚生労働省科学研究費補助金「水道水及び原水における化学物質等の実態を踏まえた水質管理の向上に資する研究(22LA1007)」の助成を得て行われた。

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