環境化学
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総説
PFASの規制と今後の展望
鈴木 規之
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2026 年 36 巻 Special_Issue 号 p. s90-s97

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要約

各国や国際機関においては異なるPFAS物質やカテゴリーが採用されている。化学構造の特性に基づくグループを定義することもあれば,特定の物質をPFASのリストとして示す場合もある。それぞれの異なる個別物質やグループに対して異なる管理措置が適用されている。このように各国での対象物質は大きく異なるように見えるが,一方で,著者は各国等がPFASを考える際の最初の定義はおおよそ共通であり,ただし,各PFAS物質に対する知見の不確実性や不足に対する措置の判断が異なることが,異なる管理措置に見えるように至っていると考える。科学的知見の不確実性あるいは不足に対応する適切な措置を考えることが重要であり,このためには,あるいは予防的アプローチとリスク評価的アプローチとを知見と管理の関心に応じて適切に組み合わせて考察していくことが有効な可能性がある。

Summary

National and international chemicals schemes employ often different selection and/or categorization of PFAS. Some employed grouping-type definitions based on the characteristic chemical structure, but others specified each chemical as the list of target chemicals of PFAS. Different management options are applied to specific or group of PFAS chemicals in each definition of PFAS. Although the list of target chemicals are sometimes largely different each other, however, the author thinks that starting definition of PFAS is somewhat common in all national/international schemes but different management considerations for variety of uncertainties and/or lack of information in PFAS chemicals result in different appearances among national and international schemes. Management actions corresponding to the uncertainties/lacking of the scientific information need to be established, probably by the appropriate combination of precautionary approach and risk assessment schemes depending on the different nature of information and management concern.

1. はじめに

PFASについて様々な研究と政策的な取り組みがなされている。従来からさまざまな化学物質についての研究と施策がおこなわれてきたが,その中でもPFASの課題は新たな特徴があり,研究としても対策としても従来にない課題があるように思われる。

PFASはストックホルム条約で言うPOPsの一つの群であるが,特に従来までのPOPsあるいは広く化学物質問題に比して特徴があると思われる。

1.物質の種類が非常に多い

PFASとされる物質の種類は非常に多い。もちろんダイオキシン類やPCBでも多数の物質があるが,PFASとされる物質はしばしば万のオーダーとされて従来以上に物質の種類が多い。

2.新規の物質が次々に出現する。一方で個々は必ずしも大量生産ではない

PFASは有用,特徴的な性質のために新規物質が次々に現れて,また変化が速い。一方,個々の物質は必ずしも大量には生産されない。この点はほぼ物質が固定されていて,物質によっては農薬などとして大量に生産された従来のPOPsなどと異なる。

3.影響スペクトルが広く,また従来にない影響への懸念

これはやや感覚的な記述であるが,PFASの中の特定の物質としても,あるいはPFAS全体として,PFASの人や生物への毒性影響はさまざまに異なる影響や機序にわたっており,また,従来にない影響への懸念が示されている点も新たな課題と思われる。

4.高い残留性

これはPOPs一般の性質ではあるが,少なくとも多くのPFASは非常に高い残留性を持つと考えられる。

いうまでもなくPFASは総称名であり,PFASの名で呼ばれる個別の成分はときに異なっている。また,各国の規制や管理でのPFASの定義や範囲,また,それぞれに対する措置も異なっており,一言でPFASと言っても,PFAS自体も,その規制や管理も非常に多様で複雑である。

このような現状の規制における複雑さの一つの根源の一つは,各国や制度が着目するPFASの定義が多様で,相互にしばしば異なることにあるように思われる。PFASの用語が広く使われる以前には,例えばPFC,PFAAなどさまざまな用語が見られて混乱があったとの指摘1があり,この問題意識が後述するOECD定義に至る出発点となった。本稿では,規制措置の詳細を正確に紹介するのではなく,物質の多様性に注目すべく,各国のPFAS定義を簡単に整理するとともに,それぞれの科学的知見に応じて異なる措置がどのように設定されてきているかを示し,それにより今後の我が国における規制のあり方について考えたい。

具体的には,国内およびいくつかの国外のPFASへの政策におけるPFASの定義について詳細に紹介する。最後に今後のPFAS規制に関する私見,展望を述べる。

2. 各国の施策や国際機関におけるPFASの定義

各国の施策や国際機関におけるPFASの定義をTable 1 にまとめた。Table 1 では,個別物質による定義と構造ベースの定義を,それらに対する数値的な規制等の措置,製造等の規制,または調査の対象等の3種類の措置の内容を区別を付した。なお,どの枠組みでも物質ごとに具体,詳細なアクションは異なっており,Table 1 はそのような詳細な各施策のアクションを分類しようとするものではなく表の同じカテゴリーの中に具体的には異なるアクションを求める対象が含まれている。また,例えば同じPFOSという名称下でも分析上の成分である場合と化学物質群としての塩や異性体などを含む場合など相互にしばしば異なっているが,Table 1 ではそれらを区別せず,特定の物質の表示名として定義されている場合と,特定の物質名を呼ばず構造特性などによって定義されている場合などが区別できるように整理した。Table 1 への説明と考察を以下に述べる。

Table 1 Target chemicals in PFAS definition in national and international schemes

2.1 Stockholm条約

Stockholm条約はPFASへの関心の最も基礎となる枠組みであろう。Stockholm条約では,PFOSとその塩,及びPFOSFを付属書Bに,PFOA,PFHxSおよびそれぞれの塩や異性体を付属書Aの対象として定義している。またPFOA関連物質,PFHxS関連物質の例示的リスト(Indicative list)として物質リストを示していて,これら全体が付属書Aの対象物質と位置づけている2。日本の化審法を始め,各国の対応の共通の基礎として重要な意味があり,例えば化審法ではPFOA関連物質については提示されているIndicative listをもとに我が国の実情を踏まえて指定するという扱いが行われている。2025年の第12回締約国会議で長鎖PFCAが新たに付属書Aに追加された3,4。会議文書は現時点未確定なので明記のあるグループ定義のみTable 1 に記載した。

2.2 OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development)

OECDは,PFASとされる物質全体の構造の定義として

「PFASs are defined as fluorinated substances that contain at least one fully fluorinated methyl or methylene carbon atom (without any H/Cl/Br/I atom attached to it), i.e. with a few noted exceptions, any chemical with at least a perfluorinated methyl group (–CF3) or a perfluorinated methylene group (–CF2–) is a PFAS」

なる定義を提案した5,6。この定義は,Buckら1による定義を出発点としつつ,OECD/UNEP Global PFC Groupにおける2018年から2021年にわたる世界各国からの多くの専門家による検討を経て策定された。非専門家でもPFASと非PFASを容易に,一貫して識別できるようにすることを意図して作成されたもので,この定義は研究においても,各国や国際機関の施策においても広く受け入れられている。この定義によると,CF3末端を持つ化合物や一部の高分子などもPFASに含まれることとなるが,体系的な整理が文書中に詳細に説明されている。OECDの定義は例えば具体的な規制範囲を定義するというより,考慮する対象範囲を定義するために有用と思われるが,このあたりは後述する。また,この定義はフッ素化合物全体のうち,残留性や影響などの観点から一群の物質として扱う可能性のある構造範囲を定義することに意義があると思われるが,だからと言ってこの定義が具体的な個々の物質の性質と関連するとまで主張されているわけではない。

2.3 世界保健機関(WHO)

WHOは,2022年11月に「A draft background document on PFOS and PFOA for the WHO Guidelines for drinking-water quality」を示してコメントを受けていた。この暫定文書には,PFOS,PFOAについて 100 ng/Lという暫定ガイドラインの数値が示されていたが,現在は本文書への意見と回答が掲載されているのみで暫定文書は見当たらない7。したがって,現時点でWHOの水道水質ガイドラインで扱うPFASの種類についての確定的な情報はないように思われる。なお,WHOではTechnical Advisory Group on PFAS assessmentの専門家の募集を出していたので,今後検討が進められると思われる。

2.4 Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives(JECFA)

一方,WHOはJECFAの第16回セッション8を参照しており,こちらでは後述するEFSAでの4種PFASの評価を行うと記載されている。今後の検討が進められるものと推察される。

2.5 日本

2.5.1 水道水

水道水質基準の設定が中央環境審議会の答申案として示されている9。報告においてはPFOS,PFOAを基準項目として定め,加えて8物質を要検討項目として示している10。いずれも化学分析法において識別可能な分析項目として定義されていると考えられる。

2.5.2 環境水

PFOS,PFOAが環境水に対して要監視項目に定められており,指針値が答申案として示されている11。いずれも化学分析法において識別可能な分析項目として定義されていると考えられる。

2.5.3 化審法

化審法においては,PFOS,PFOA,PFHxSおよびPFOA関連物質,PFHxS関連物質が第一種特定化学物質に指定されている12。また,長鎖PFCAの一部他の物質が監視化学物質になっている。製造品ベースの定義であるため,いずれも,複数の塩,異性体などを含む物質群として指定されている。PFOA関連物質はStockholm条約が示したindicative listから国内で実績のあるものを選択して指定されている。第一種特定化学物質であるので,エッセンシャルユースで明示される場合を除き原則製造・輸入等の禁止の対象となる。

2.6 欧州

2.6.1 飲料水

欧州飲料水指令において,Total PFASとSum of PFASという一群の物質を示している13。このうち,Total PFASは開発中の分析法に基づくという記載だが方法は示されておらず開発中のようで現時点で実質的には指令の実行は出来ないと思われる。PFAS全量の指標となるような分析を意図しているものと思われる。Sum of PFASには物質構造上の定義に基づき,具体には20の物質がリストされている。こちらは具体的な指令の対象となっている。

2.6.2 欧州食品安全機関

欧州食品安全機関(EFSA)は,PFAS類の人健康への評価を4種のPFASの合計値によって実施した14。評価書の中では他多数のPFASについても言及されているが,評価としては4種PFAS合計値のTWI(Tolerable Weekly Intake)として示されている。

2.6.3 欧州化学物質庁

欧州化学物質庁(ECHA)では,PFAS類の構造に基づく定義を(REACHの)Restrictionの対象として示している15(後述)。この定義はOECDの定義5,6に基づき,そのうち一部の構造をfully degradable subgroupsとして除外すると規定している。

2.6.4 各国の飲料水規制

EU加盟国個々で飲料水指令と異なる物質がリストされていた例があるが,ここでは触れない。

2.6.5 欧州水枠組み指令

欧州水枠組指令(Water Framework Directive)の中で表流水の保護を目的とするEQS(Environmental Quality Standard)を設定しておりPFOSについての値が示されている16

2.7 米国

2.7.1 飲料水

PFOA,PFOS,PFNA,PFHxSおよびHFPO-DAの5物質に対してMCLG(Maximum Contaminant Level Goal - これ以下では知見の限り健康へのリスクはないと考えられるレベル)およびMCL(Maximum Contaminant Level - 飲料水に許容される最高の汚染物質レベル。利用可能な技術の限りMCLGに近く設定される)が設定された17。加えPFNA,PFHxS,HFPO-DAにPFBSをあわせた4種類のハザード比が1を超えない,という値が設定されている。EPAによる分析法上の定義に基づいており,化学分析法において識別可能な分析項目としての定義である。ただし,その後2025年5月14日にEPAが飲料水の規制を変更するとの報道があり,PFOS,PFOAの規制は維持され,残り4種は改めて検討ということのようであるが,これらの経緯も参照したWebページに説明されている。

第5次未規制物質モニタリング規則(The Fifth Unregulated Contaminant Monitoring Rule(UCMR 5))では29種のPFASをモニタリング対象としている18

2.7.2 Aquatic Life Criteria and Benchmarks

水生生物保全のためのクライテリアおよびベンチマークの値が提案されている。対象物質はPFOS,PFOAのほか8物質がリストされている19。物質ごとにクライテリア,ベンチマーク,淡水,海水などの範囲が異なっている。物質の定義について明示的には不明だが,生物試験の結果に基づいていることから,分析法上の定義と同等と推測される。

2.7.3 スーパーファンド法

スーパーファンド法としても知られるComprehensive Environmental Response,Compensation, and Liability Act(CERCLA)において,PFOSとPFOAが有害物質として指定された20。この定義は塩類や異性体類を含むとされており,製造品ベースの定義に相当すると推測される。

2.7.4 資源保全回収法(RCRA)

資源保全回収法(Resource Conservation and Recovery Act)において,9種類のPFASが有害物質に指定された21。この定義は塩類や異性体類を含むとされており,製造品ベースの定義に相当すると推測される。

2.7.5 Toxic Substances Control Act(TSCA)

TSCA法では報告と記録を求めるPFASの定義を規定した22。この構造に基づく定義は米国のいくつかのプログラムで共有されている。OECDの定義で言うPFASの範囲内において,より限定的な構造範囲の定義と理解される。この定義により,2023年時点で少なくとも1,462物質のPFASがTSCAでの対象と確認され,うち770物質は実際に利用されているなどと記載されている。

2.7.6 Toxic Release Inventory(TRI,米国PRTR)

米国PRTR制度(TRI)では,16の個別PFASと15のPFASカテゴリーとして,計100物質あまりを対象物質として指定している23。TRIはFY2020 NDAA24(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2020)で直接指示された物質と,飲料水の分析法が検証されている物質18,およびポリマーの原料となる物質,TSCA PFAS Data Reporting Rule22,ECOTOX25,EPA HWAC26などをEPAが調査して設定したものとから構成されていると説明されている。表にリストした物質には個別物質の指定と塩などを包括的に含むとするカテゴリー指定が混在しているが,詳細は原文を参照されたい。

2.8 個別物質の指定と構造定義

ここまで紹介した通り,各国等におけるPFASの定義には,個別物質を指定する場合と,化学構造の特性により定義を与える場合の2種類がある。飲料水・環境水の規定対象成分の規定のような場合には個別物質の定義が行わる。個別物質の定義としては,多くは分析技術により識別される物質を定義としており,定義で用いられる分析法が具体的に参照される場合が多い。

一方,化成品に対する製造等への規制や制限などでは化学構造ベースの規定が見られる。実際に製造等されるPFASは多様な異性体,成分,塩などの混合物である場合も多いので,構造ベースの定義が現実的で包括的であることによると思われる。

構造ベースの定義のうちでは,OECDによる定義が広く基礎として参照されている。構造ベースの定義は,OECDのほか欧州,米国でも見られるが,いずれもOECDの定義を参照して実質的な基礎として,一部の構造を除外する定義となっている。PFAS定義としては,OECDによる定義が最も包括的かつシンプルで有用な位置づけと言える。

各国等において個別物質として指定されている物質は,いずれもOECDまたは欧州REACH,米国TSCAでの構造定義のいずれにも含まれるものと考えられる。この点では,個別成分ベースの定義は構造ベースの定義と矛盾することはなく,構造ベースの包括的な定義の一部を選択して分析技術上の成分として個々に定義しているとみなすことが出来る。構造ベースの包括的な定義全体をカバーする分析法は現時点では確立されていない。

2.9 化学構造ベースの定義の考え方の例

構造ベースの定義を採用する場合,定義自体に管理対象となるPFASの範囲が含まれることになる。OECDがOECD/UNEP Global PFC Groupの専門家の議論により定義した化学構造ベースの定義が最も包括的でシンプルな定義と思われる。以下に述べる米国と欧州の例はOECDの定義をベースとして考えられているように見える。

2.9.1 米国

米国の各種施策の中で,最も広範な定義は近年のTSCA22およびCCL527ほかに現れる定義である。

R-(CF2)-CF(R’)R”, where both the CF2 and CF moieties are saturated carbons.

R-CF2OCF2-R’, where R and R’ can either be F, O, or saturated carbons.

CF3C(CF3)R’R”, where R’ and R” can either be F or saturated carbons.

OECDの定義と比較してより構造を限定しているが,この定義はEPAが以前の定義にGenXなどの構造を含めるために導入されたものである。また,ある物質グループのうち代表物質としてさらに情報を収集すべきPFASを選択するアプローチをEPA科学者が提案したとする論文28が紹介されている。

EPAの対策は,飲料水,廃棄物などにおける個別物質を指定しての対策とともに,PFASの構造ベースの定義を用いてTSCAにおける運用(例外運用をしない例,ポリマーの例外の例外など)など多くの対策手法を含むのが特徴と思われる。これら全体はPFAS Strategic roadmap29に詳細に述べられている。

2.9.2 欧州

欧州REACHにおけるPFAS定義は先述15の通り

OECDの定義

Any substance that contains at least one fully fluorinated methyl (CF3-) or methylene (-CF2-) carbon atom (without any H/Cl/Br/I attached to it).

を全体として用いつつ,うち

A substance that only contains the following structural elements is excluded from the scope of the restriction: CF3-X or X-CF2-X’, where X = -OR or -NRR’ and X’ = methyl (-CH3), methylene (-CH2-), an aromatic group, a carbonyl group (-C(O)-), -OR’’, -SR’’ or –NR’’R’’’; and where R/R’/R’’/R’’’ is a hydrogen (-H), methyl (-CH3), methylene (-CH2-), an aromatic group or a carbonyl group (-C(O)-).

を除外するというもので,除外するこれらの構造はfully degradable subgroupであると記載されている。

それでもこの定義によりなお広範な物質がPFASとしての対応に含まれることになる。これらは制限発効後18か月後に適用されるが,具体的な用途に対して制限発効後の6.5年後,13.5年後または23.5年後に適用または無期限に適用されないとの措置が提案されている。このREACHの定義には分析困難な成分が当然に含まれるが,分析可能な成分に基づく飲料水や食品などにおける個別成分を指定しての規制とともに,構造ベースの定義に基づくグループ的な規制を行う意図と考えられる。

2.10 各国のPFAS定義について

各国とも,PFASを構成する個別物質の定義にはそれぞれの考えでの工夫と場合によっては困難を抱えているように見える。一方で,各国ともPFASを広くとらえる際にはOECDによる定義5を広く基礎としており,これを基礎としつつそれぞれの考え方や手法に応じて独自の定義を加えている。特定の物質の定義はときに分析法上の対象物質を基礎に決められており,これもまた,OECD定義のような包括的な定義があることによって,各国が工夫を加えての運用が可能になっているのだと考えられる。これらの全体からすると,各国や制度によるPFASの定義は大きく違っているようにも見えるが,実際にはほとんど共通の考え方に基づいているとも言えて,ただし,各国の政策の方針や手段によって結果として違いが生じていると考えられる。

3. PFAS規制における主な手段

PFASの規制においては,さまざまな政策的手段が用いられている。以下に大まかな分類を挙げるが,いずれも正確な紹介ではなく,日米欧での規制手段の例を挙げているものである。詳細はそれぞれの原典などを参照されたい。

3.1 濃度や量の数値規定による規制

水道水や環境水では,特定のPFAS物質に対する濃度や量の数値規定による規制が見られる9,10,13,14,17,19。いずれも,(PFAS全体に比べれば)比較的少数の単独の物質に対して,多くは分析技術的な物質同定に基づいての規定などになる。濃度や量のレベルが規制事項として規定されて,いわゆる規制として典型的な手法である。濃度や量のレベルについては,各国や機関によって異なる数値の判断が見られる。

3.2 製造や使用の禁止

Stockholm条約2や化審法12では,PFOS,PFOA次いでPFHxSについて,製造や使用の禁止および関連物質として,環境中での分解によりPFOAに帰着する成分を前駆体などとして同じく製造や使用を禁止している。前駆体という概念による措置は,少なくともPFASのような残留性物質については新しい考え方と思われる。

3.3 用途別,期限などを定めての規制

EUの規制案では,用途ごとにPFASの使用状況や代替の可能性を考慮しての期限付きの適用除外を複数の用途で定めている15。20の用途については,それぞれの代替の状況などから6.5年または13.5年の除外を提案し,ほか10の用途は検討としている。フッ素化ポリマーについては,6用途に6.5年または13.5年の適用除外を提案し,ほか9用途は検討としている。米国TSCAではsafety reviewに関する除外をPFASに適用しないなどの提案がなされている30

3.4 試験,情報取得などの規定

EUでは適用除外となる用途における報告の要求15,米国ではTSCAでの報告と記録保持の要求22と毒性データ取得の戦略の公表31,TRI(米国PRTR)での排出量データの取得32が挙げられている。日本では知見の収集11などの提案がなされている。

4. 今後のPFASの規制や管理への考え方

4.1 PFASとしての対象物質と管理措置について

Table 1 にまとめた例だけでも,PFASとしての管理対象となる物質は,各制度によって必ずしも共通ではなく,個別物質として定義する場合,塩や関連物質を含めて定義する場合,化学構造ベースで定義する場合とさまざまである。また管理措置についても,数量的な規制的措置から情報取得のような指定までさまざまである。先述の通り,各制度は実際にはほぼ共通のPFASの範囲を見ているように思われるが,一方で,それぞれの目的や状況に応じて管理対象と措置を選定していると考えられる。PFASについて利用可能な科学的知見の状況に対する各制度の立場や判断の違いが見た目のかなり多様な姿を生む要因となっていると考えられる。

4.2 予防原則か否か,という論点について

欧州REACHやStockholm条約が予防原則に触れていることをおそらく意識して,PFAS規制において予防原則を採用するか否か,というような二分論的な論点が挙げられる場合があるように思われる。

それぞれの制度がその枠組みにおいて予防原則の運用を示しているかどうか,という点はもちろん重要な一つの本質33であるが,科学的知見を扱う観点からは,常に限界のある科学的知見に基づいてどのような判断とその帰結を求めるか,という考察が求められる。この科学的知見の不確実性の観点からは,予防原則か否か,という二分論的理解はやや短絡的すぎて正確でないように思われる。

筆者は以前に,予防的アプローチ(予防原則あるいは予防的取り組み方法などとの間でどの語が適切かという意見があると思われるが,この考察での本質は予防的という部分にあり,言葉の実態的な意味と適切な用語は今後さらに考察される必要があろう。ここでは筆者の既報に従い予防的アプローチとする)を具体的な事例に即して考える必要があると考察した34。予防的アプローチに対置されるアプローチは一般にはリスク評価に基づく管理と思われるが,この分析34では,厳格なリスク評価のみに基づくアプローチは,特に知見が不十分な場合に適切な管理措置を誘導できない可能性があることを示した。このことから,筆者は予防的アプローチとリスク評価に基づく措置を相補的に運用することが現時点で考えられる一つの可能性であり,これは既に運用されているREACHやリスクガバナンスに関する考察35,36とも整合するとした。

この立場に立つと,今後のPFAS規制においては,どの物質に対して,その物質やグループに対してどのような知見があり,その知見に応じて,あるいは予防的な観点あるいはリスク評価的観点を交えてどう判断するかによって要求する管理が決まる,という課題の捉え方になろう。紹介した日米欧の取り組みはいずれもそのような考え方に基づいてそれぞれ検討されていると推察される,詳細な説明のある文書もある。

4.3 多数のPFASの捉え方

筆者は以前に,各PFASの特性に応じた管理という考えを述べたことがある37。確実に多数の物質を包含するであろうPFASの今後のPFASの規制や管理を考える上では,いくつかの思考要素や段階を挙げられると思う。

4.3.1 PFAS物質の包括的な同定

多数であろうPFASへの規制と管理を考えるにあたり,最初の段階として,PFASとして検討対象とすべき物質を包括的に同定することが最初の考察となろう。有機フッ素化合物としてさらに多様な物質があるところまずPFASの範囲を設定することが有効である。この段階では,考察対象とすべき物質の範囲を,PFAS様の特徴をおよそ網羅しつつ,明確に包括的に抽出できる定義が望ましいと考えられる。OECDの定義5はこの目的には最も適切な例と考えられ,実際にも広く参照されている。仮にいくらかの例外などが含まれるとしても,簡潔明快で包括的な定義であることの方がこの段階ではより重要である38

4.3.2 個々のPFASに対する検討

包括的な対象集団の抽出を出発点として,現実のそれぞれの施策の考え方や方法に基づいて,個別あるいはカテゴリーを特定し,それぞれについてあるいは個々に異なる管理措置を設定することが次の段階として考えられる。

先述した米国TSCAの定義22と欧州REACHの定義15は,OECDの定義より限定的であるが,いずれもOECDの定義を参照した上で,それぞれの政策意図や判断を明示した形でより限定的な定義を示しているので,これらは最初の段階で包括的なPFASを同定した上で次に限定を考察したものと考えられる例と思われる。この中でポリマーやごく短鎖の物質などの扱い,各国での使用状況なども考察され得る。

飲料水などの分析値に基づく管理においては,たいていは分析可能な特定の分子種が対象として選択されるが,広くは包括的なPFAS定義のうちから分析可能な特定の分子種を選択したと捉えることもできる。

これらの考察はいずれも各国の政策設計の本質であり,各国の状況や考え方に応じて各施策が科学的,論理的に正当に判断されることが求められるのであろう。

4.3.3 科学的知見の強さと措置の対応

前項までに数量的な規制や管理の措置,製造や使用の禁止,用途や期限を定めての制限,試験・情報取得の要求などさまざまな措置が取られていることを観察した。これらの措置を設定する際には,PFASのうち注目する物質やグループ,あるいはグループの選択自体について,それぞれに利用可能な科学的知見から想定される懸念の程度とその知見の確実性が,それぞれの施策の位置づけや根拠と突き合わせて検討されてきたと考えられる。うち相対的に確実な科学的知見が得られる少数の物質に対しては,定量的なリスク評価的な判断に基づいた数量的な規制や措置が,例えば飲料水や環境水の規制として行われている。一方,より限定的だが懸念は持たれるような科学的知見については,製造,使用,用途などに関する制限的な措置,次には試験や情報取得の要求などの措置が検討されるように見える。米国TRIにおける対象物質の選定では,各物質に対する情報レビューの結果により,特にリスク評価的な考察を行うことなくPRTRとしての情報取得を求める物質が選択されている。

ここでの観察は,筆者が考える限り,定量的な措置はよりリスク評価と管理に近いアプローチで実施されるのに対して,制限や情報などのいわば定性的な措置はより懸念に対する対策として実施され,後者は場合によっては予防原則や予防的アプローチと呼ぶことも出来るような検討に依っている。欧州REACHの運用は制度自体が予防原則とうたっているが,米国での複数の制度による一群の措置もまた,制度全体としてはリスク評価と管理的なアプローチと予防的アプローチの併用と見ると欧州と本質的な違いはないように見えて,両者はいずれも,科学的知見の強さとそれぞれの政策的措置の対応を慎重に検討して施策を設計しているとみられる。

4.4 今後のPFAS管理の方向性

科学的検討としては,知見が得られることが何より必要であり,知見に基づいて判断できることが望ましい。一方で,例えばPFASとして認識される物質の多くがある程度まで共通の性質を持っていると考える可能性はあると思われる。一方で,知見が不十分であるならば必然的にそのような推測的な知見には大きな不確実性があることになる。

このような不確実性を持つ物質群に対して,欧州REACH規則と米国が実質的には似た方向性を持つ考察によって措置を検討しているように見えることは示唆的であり,今後のPFAS管理の方向性を示すものであろう。これは,先述の通り,制度が予防原則か否か,というような単純な二分論ではなく,より科学的知見と制度の目的や手段の実態に即して,どのような措置に合理性があると考えるか,リスク評価的な考察も予防的アプローチ的な考察もあわせて,それぞれの課題に即して真剣に考察していく必要があることを示している。

我が国は,PFASの製造・使用において世界においても主要な位置を占めるところであり,科学的知見も多く発表されている。しかし,PFASの広範な物質群に施策としてどのように対処すべきかについての深い考察はやや不足しているかもしれない。科学及び管理の双方の観点から,今後のPFASの管理や規制の考え方について,世界をリードできる考え方を練っていくことが重要と思われる。

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