抄録
相模川水系で採水した試料につき, 溶存成分の長期的変動を調査した。採水は1993年5月より1999年4月までの6年間, 毎月1回, 水系の30カ所で行われた。主要から微量まで24元素をICP質量分析計を用いて分析した。COD, アルカリ度, pH, ECも同時に測定した。6年間のデータは高速フーリエ変換を用いて解析し, 主要な濃度変動の周期, その振幅, 位相を抽出した。明瞭な季節変動が多くの元素, また多くの採水地点で観測された。特に下流域での変動が顕著であった。A1, Cs, V等は夏に濃度が高く, Mg, Mn, Ni, Zn, Mo, Cd, Pb, U等は冬に濃度が高かった。一方Sr, Ba等はどの地点でもほとんど季節変動は見られなかった。これらの季節変動の要因として農業用水のための取水, 季節変動する工場排水 (例えば食品工業) のような人為的なもの, あるいは水温, pH, 河川環境の酸化還元状態, 河川の水量, 水生生物の活性のような自然的なもの等が挙げられる。我々の観測では農業用水の利用状況 (相模川下流域S-3-4, S-6, S-7-2に見られるMo, Ni) , 流量と強い相関がある場合 (下流域の支流NI-1に見られる多くの元素の季節変動) が認められた。また人造湖での藻類の活性と関連が示唆される場合 (人造湖下流のS-1におけるNi) もあった。しかしpHとの相関は観測されず, 水温も直接的な変動の要因とは考えにくいことが明らかになった。